日本の都市再開発

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超高層開発の終焉と都市再開発の転換点

新宿西口再開発や中野サンプラザ再開発の延期は、単なる個別案件の問題ではない。日本の都市再開発モデルが転換点を迎えていることを示している。これまでの日本の都市再開発は、低層の老朽建築を集約し、巨大な超高層複合ビルを建設し、その容積率増加によって事業採算を確保するという方式で進められてきた。しかし建設資材価格の高騰、建設労働者不足、金利上昇、オフィス需要の変化という四重苦によって、このモデルが成立しにくくなっている。実際、全国の再開発案件の多くが延期や計画縮小を余儀なくされている。

オフィス中心から人間中心の都市へ

かつての再開発は、オフィス床面積をいかに増やすかが最大のテーマであった。しかしテレワークの普及や人口減少により、今後の都市には大量のオフィス供給が必ずしも必要ではなくなった。その代わりに重視されるようになるのが、人が滞在したくなる都市空間の創出である。新宿西口再開発でも、自動車中心の駅前広場を歩行者中心の広場へ転換し、デッキや広場によって人の回遊性を高めることが主要な目的となっている。これは単なる景観整備ではなく、都市の価値を床面積ではなく体験価値で測る時代への移行を意味している。

超高層ビル競争の終焉

1990年代から2020年代にかけての日本の再開発は、高さ競争の時代であった。丸の内、六本木、虎ノ門、渋谷、麻布台、新宿と、日本の主要都市は超高層ビルを建設することで国際競争力を高めようとしてきた。しかし人口減少社会において、これ以上のオフィス供給が本当に必要なのかという疑問が生じている。今後はどれだけ高い建物を建てるかではなく、既存都市資産をいかに活用するかが中心課題になるであろう。欧州の都市のように、歴史的建築物や既存街区を保存しながら機能更新を行うリノベーション型再開発が増加すると考えられる。

防災都市への進化

今後の再開発において最も重要なテーマの一つは、防災機能の強化である。首都直下地震、集中豪雨、猛暑などへの対応は、もはや都市開発の付加価値ではなく必須条件となっている。渋谷再開発では地下に巨大な雨水貯留施設が整備され、新宿でも歩行者ネットワークや防災機能の強化が重視されている。今後の都市開発は、高層ビル建設よりも、エネルギー供給、避難機能、水害対策、通信インフラの強靭化といった都市OSの整備へと重点が移っていくであろう。

一極集中から拠点都市ネットワークへ

もう一つの大きな変化は、東京一極集中型再開発の限界である。人口減少社会では、全国すべての都市が成長することはできない。そのため今後は、東京、大阪、福岡、名古屋、札幌といった中核都市に機能を集約し、それらを高速交通網とデジタルインフラで結ぶネットワーク型国土構造へ移行すると考えられる。地方都市では大規模超高層開発よりも、駅前再生、大学誘致、医療拠点整備、コンパクトシティ化が中心となるであろう。

建設の時代から編集の時代へ

戦後日本の都市開発は、焼け野原から都市を作る時代、高度成長期に都市を拡張する時代、バブル以降に超高層化する時代という三つの段階を経てきた。そして今、日本は第四段階に入ろうとしている。それは建設の時代から編集の時代への移行である。これからの都市再開発の主役は巨大ビルではない。既存都市をどのように組み替え、人間にとって快適で安全で持続可能な都市へ再編集するかである。新宿西口や中野サンプラザの延期は停滞の象徴ではない。むしろ日本の都市が次の成熟段階へ移行するための産みの苦しみである。

再開発資金をどう捻出するか

論点は誰が儲けるかよりも、都市更新の公共性を誰がどう負担し、どの収益で回収するかにある。

1.誰が都市更新費を払うか

現在の日本の再開発は、建前としては公共性や防災性を掲げながら、実態としては大規模資本が容積率を増やし、保留床を売却して利益と事業費を回収する仕組である。国土交通省も、市街地再開発事業は土地の高度利用で生み出した保留床の売却などで事業費をまかなう制度だと説明している。高層住宅の分譲は例外ではなく、日本型再開発の中心的な資金回収装置である。

2.高層住宅分譲以外に手はないのか

高層住宅の分譲は、開発資金回収方法としては非常に強い。着工前から販売収入を見込みやすく、金融機関も融資しやすい。商業施設やホールは収益回収に時間がかかるが、分譲マンションは売った瞬間に資金化できる。中野サンプラザのような大型公共性施設を建て替える際に、超高層住宅を組み込もうとするのは、資金調達上は極めて合理的である。しかし、この方式には大きな問題がある。公共空間、文化施設、駅前広場、歩行者空間の整備費を、最終的にはマンション購入者と周辺地域の都市環境に負担させる構造になるからである。しかも、分譲住宅は一度売却すれば開発者の手を離れるため、都市経営の長期収益にはなりにくい。結果として、都市の中心部が公共性のある場所ではなく、高額住戸を売るための場所になってしまう。

3.代替策はあるが、単独では弱い

高層住宅分譲以外の資金回収方法は存在する。たとえば、商業床やオフィス床の長期賃貸、ホテル運営、劇場・ホールの命名権、地下街・駐車場・広告収入、公共施設のPFI、自治体による床取得、定期借地権、REITやインフラファンドへの売却などである。国交省資料にも、保留床を一括処分せず、地権者が賃貸経営して収益で資金回収する手法が示されている。ただし、これらは現実には即金性が弱い。賃貸収入は長期安定収益にはなるが、初期投資を一気に回収できない。ホテルや商業施設は景気変動に弱い。ホールや文化施設は都市価値を高めるが、単体では黒字化しにくい。したがって、分譲住宅に代わる万能な資金源は存在しない、というのが現実である。

4.売却型から都市経営型への転換

これから必要なのは、高層住宅分譲を完全に否定することではなく、それに依存しすぎない資金構造へ変えることである。具体的には、駅前一等地を売り切るのではなく、自治体・鉄道会社・地権者が土地を保有し続け、定期借地権や長期賃貸で回収する方式が望ましい。短期の分譲益ではなく、50年単位の地代、賃料、管理収入、広告収入、イベント収入で都市を運営する考え方である。この方式では初期回収は遅くなるが、都市の所有権を失わずに済む。公共性の高い土地ほど、売却して一度きりの利益に変えるべきではなく、長期的な都市収益資産として持ち続けるべきである。

5.公共部分は本来公共が負担すべき

もう一つ重要なのは、広場、道路、地下通路、防災施設、文化ホールの費用まで民間収益でまかなおうとする発想の限界である。公共性の高い施設を作るなら、一定部分は税金、補助金、地方債、公的基金で負担すべきである。国の制度にも、再開発組合への無利子貸付や交付金制度が存在し、保留床処分までのつなぎ資金を支援する仕組がある。 しかし、それだけでは不十分であり、今後は文化施設を残すなら、その費用は誰が公共負担するのかを正面から議論すべきである。

6.分譲マンション依存は都市の未来を食いつぶす

結論として、高層住宅分譲以外にも資金回収方法はある。しかし、現在の日本の制度と金融環境では、高層住宅分譲ほど手早く、確実に巨額資金を回収できる方法は少ない。だからこそ再開発は分譲マンションに流れるのである。問題は、それが都市の公共性を犠牲にしている点である。これからの再開発は、分譲住宅で一気に回収する売却型再開発から、土地を保有し、賃料・地代・運営収入・公共負担を組み合わせて回収する都市経営型再開発へ移行すべきである。中野サンプラザ問題の本質は、建物を残すか壊すかではない。都市の中心部を、短期の不動産商品として売るのか、次世代の公共資産として経営するのか、という問いである。

産業と投資に関する考察

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