日本のソフトウェア産業

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ソフトウェア産業の重要性

ソフトウェア産業は、AI、ロボット、自動車、医療、金融などあらゆる産業の競争力を左右する基盤である。現代の付加価値は工場や設備だけでなく、データ、アルゴリズム、ネットワーク、知的資本から生まれる。ソフトウェアを制する国は産業全体の生産性向上と安全保障上の優位を確保できる。しかしながら日本はこれまでソフトウェア産業を軽視してきたことは否めない。その理由は複合的要因(製造業の成功体験、担保主義の金融、外注依存の企業文化、行政の古い産業観、技術者を経営の中心に置かない組織構造)が重なったためである。これを改めるには、ソフトウェアを費用ではなく国家と企業の知的資本と見なす思想転換が必要である。AI時代の勝負は、ハードかソフトかではなく、ハードとソフトを統合し、データで進化させ、世界市場で展開する力にかかっている。

日本がソフトウェアを軽視してきた理由

1.製造業中心主義

日本がソフトウェアを軽視してきた最大の理由は、戦後の成功体験が物をつくる力に集中していたからである。自動車、家電、精密機械、半導体製造装置など、日本の強みは、目に見える製品を高品質・低不良率・大量生産で仕上げる能力にあった。そのため企業経営者、行政、金融機関はいずれも、工場、設備、部品、特許、輸出額のような見える資産を評価しやすく、ソフトウェア、アルゴリズム、データ、設計思想のような見えにくい資産を十分に評価してこなかった。

2.補助産業の位置づけ

第二の理由は、日本企業がソフトウェアを事業の中核ではなく業務を支える道具と見てきたことである。米国のIT企業では、ソフトウェアそのものが事業モデルであり、経営の中心にエンジニアがいる。これに対し日本では、情報システム部門はしばしば管理部門の一部とされ、経営戦略をつくる中枢ではなく、既存業務を安全に動かす保守部門と見なされてきた。日本企業ではDX推進においてベンダーに頼らざるを得ず、ユーザー企業側にシステムを理解しプロジェクトを主導する人材が不足している。

3.受託開発と多重下請け構造

日本では大企業が仕様を決め、SI大手企業が受注し、その下に下請け企業が連なる構造が長く続いた。この構造では、優秀な技術者ほど経営から遠くなり、ソフトウェアの価値は知的創造ではなく人月単価で測られる。結果として、革新的なソフトウェアを生むより、仕様通りに納品することが評価される文化が強まった。

4.金融行政の遅れ

第四の理由は、金融機関と行政の評価軸が古かったことである。工場や土地や機械には担保価値があるが、ソフトウェア、コード、データ、ネットワーク効果、AIモデルには伝統的な担保価値がない。そのため、銀行融資中心の日本では、ソフトウェア企業が大きく資金調達することは難しい。行政もまた、製造業振興、設備投資、地域工場誘致には慣れていたが、ソフトウェア企業、AIスタートアップ、データ産業を国家産業として育てる発想が遅れている。

5.失敗を許容しない体質

第五の理由は、失敗を許容しない組織文化である。ソフトウェア産業、とくにAI産業では、試作、失敗、改善、再学習を高速に繰り返すことが競争力になる。しかし日本企業では、完璧な仕様、稟議、責任回避、前例主義が強く、アジャイル開発(迅速かつ柔軟な開発)や内製化が進みにくい。日本企業では内製化を進める際に人材の確保や育成が難しいことが突出した課題になっている。

AI産業の出遅れ

その結果は、AI産業の出遅れにつながっている。AIは、半導体だけで成立する産業ではない。半導体、クラウド、データ、モデル、アプリケーションが一体となって初めて産業になる。日本はハードウェアや精密製造には強みを持つが、ソフトウェアを経営の中心に置く文化が弱かったため、生成AI時代に必要なデータを集め、モデルを改善し、サービスとして世界展開する力で出遅れた。日本のAI出遅れは、単にAI研究者が少ないからではない。ソフトウェアを企業価値の中心に置かず、エンジニアを経営人材として遇せず、データを戦略資産として扱わず、受託・保守・人月の枠内に閉じ込めてきたことの帰結である。

改善策

1.ソフトウェアは基幹産業

国はソフトウェアを補助産業ではなく基幹産業と位置づけるべきである。かつて鉄鋼、自動車、半導体を国家産業として育てたように、AI、クラウド、サイバーセキュリティ、業務ソフト、ロボティクスOSを国家戦略産業として扱う必要がある。

2.開発体制の位置づけの変革

企業はシステム開発を丸投げする体質を改め、重要部分を内製化すべきである。すべてを自社開発する必要はないが、事業の競争力に直結するデータ、AIモデル、顧客接点、業務プロセス設計は社内に理解者を置かなければならない。ソフトウェアを外注費ではなく、企業の知的資本として扱うべきである。

3.金融行政の変革

金融機関は担保主義を改め、ソフトウェア資産、エンジニア組織、データ資産、AIモデルの改善能力を評価できる審査体制をつくる必要がある。土地や工場だけを見る金融では、AI時代の成長企業を育てられない。

4.行政調達の変革

行政調達を変えるべきである。現在のように大規模一括発注、仕様固定、低価格競争を続ければ、革新的なソフトウェア企業は育たない。小さく試し、成功したものを拡大し、スタートアップや中小ソフトウェア企業にも参入機会を与える調達制度に変えるべきである。

5.エンジニアの地位改善

エンジニアの社会的地位を上げる必要がある。日本では、技術者が経営者になる道がまだ狭い。AI時代には、経営者自身がソフトウェア、データ、AIの意味を理解しなければならない。企業の取締役会にも、法律、会計、営業だけでなく、AI・ソフトウェア・サイバーセキュリティを理解する人材を入れるべきである。

日本が目指すべき道

日本が目指すべきは、日本の強みであるハードウェアとソフトウェアを結合することである。日本は米国型の巨大プラットフォームだけを追う必要はない。製造業、ロボット、医療機器、農業機械、物流、インフラ、防災、エネルギー、介護とAIを結びつければ、日本独自の物理AI産業をつくることができる。ここでは、ハードウェアの現場知識とソフトウェアの学習能力を統合することが鍵になる。

産業と投資に関する論説

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