スコフィールド聖書

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スコフィールド聖書とは

スコフィールド聖書とは、米国の牧師・神学者サイラス・インガソン・スコフィールド(Cyrus Ingerson Scofield, 1843–1921年)が編集し、1909年に刊行した聖書(本文に大量の注釈・相互参照・神学的解説を付した英語版の注解付き聖書)である。聖書を新しく翻訳したものではなく、欽定訳聖書(King James Version)にスコフィールドの解釈を組み込んだものである。スコフィールド聖書はイスラエルを聖書預言と結びつけ、米福音派のキリスト教シオニズムを育て、今日の強固なイスラエル支持の思想的基盤となった。

最大の特徴

スコフィールド聖書が歴史的に重要なのは、単なる注解書ではなく、ディスペンセーショナリズム(経綸主義・時代区分主義)という聖書解釈を米国の一般キリスト教徒に広く普及させたからである。この考え方では、人類史を神が人間を異なる方法で扱う複数の時代(dispensations)に区分する。スコフィールドは大きく7つの時代として整理した。そして旧約聖書のイスラエルに対する神の約束と、新約聖書におけるキリスト教会をかなり明確に区別した。ここから重要な政治的・歴史的意味が生まれる。

イスラエルと聖書預言

スコフィールドの解釈では、旧約聖書に記されたイスラエルに対する約束を、単にキリスト教会へ精神的に継承されたものとは考えない。ユダヤ民族とイスラエルの土地には、終末に至る神の計画の中で固有の役割が残されていると考える。したがって、ユダヤ人がパレスチナの地へ帰還し、イスラエルが回復することを、聖書預言の実現と結び付けて理解する思想が強くなった。ここが後世のキリスト教シオニズムとの重要な接点である。後にイスラエル国家を神学的に支持する米国福音派が成長するための思想的土壌を形成した。

なぜ米国政治を考えるうえで重要か

スコフィールド聖書は20世紀の米国プロテスタント、とりわけ保守的福音派・原理主義者の間で広く読まれた。その結果、ユダヤ人のイスラエルへの帰還、イスラエル国家、エルサレム終末、ハルマゲドンといった問題を、一続きの聖書預言として理解する文化が米国社会の一部に形成された。この系譜は後に、ハル・リンゼイ、ジェリー・ファルウェル、ジョン・ヘイギーなどに代表される米国のキリスト教シオニズムへと発展し、イスラエル支持を宗教的信念として捉える福音派に大きな影響を与えた。したがって、現在の米国の対イスラエル政策を理解する場合、軍事・安全保障、ユダヤ系組織、国内選挙政治だけを見るのでは不十分である。イスラエルを支持することには聖書的意味があると考える福音派有権者の存在も重要な要素である。

1.思想の源流

スコフィールド聖書と現在の米国におけるイスラエル支持の関係は、一冊の聖書が米国外交を決定したという単純なものではない。しかし思想史的に見ると、スコフィールド聖書が19世紀に形成されたディスペンセーショナリズムを米国の一般的なプロテスタント信徒へ広く普及させ、それが後のキリスト教シオニズムを形成する重要な神学的基盤の一つとなったことは確かである。スコフィールド以前の19世紀英国では、ジョン・ネルソン・ダービーらによってディスペンセーショナリズムが体系化されていた。この思想の重要な特徴は、イスラエルとキリスト教会を神の歴史的計画の中で区別することである。従来のキリスト教には、旧約聖書でイスラエルに与えられた約束はキリスト教会によって霊的に継承されたとする考え方があった。これに対してディスペンセーショナリズムは、神がユダヤ民族に与えた約束は現在も有効であり、ユダヤ民族には終末に至る歴史の中で特別な役割が残されていると考えた。

2.スコフィールドの役割

米国の牧師サイラス・インガソン・スコフィールドは、この思想を1909年に刊行したScofield Reference Bibleの注釈に体系的に組み込んだ。重要なのは、それが専門家向けの神学書ではなく、聖書本文と同じページに注釈を配置した一般信徒向けの聖書だったことである。そのため読者は聖書を読むと同時に、イスラエル、ユダヤ民族、キリスト再臨、終末といった問題をディスペンセーショナルな世界観から理解するようになった。それまで一部の神学者や牧師を中心としていた思想が、米国の保守的プロテスタントの大衆的信仰へ浸透した。したがって思想史的には、ダービーらのディスペンセーショナリズムがスコフィールド聖書によって米国で大衆化され、それが後のキリスト教シオニズムを育てる一つの重要な流れになった。

3.二つのシオニズム

ここでユダヤ人による政治的シオニズムとキリスト教シオニズムを区別する必要がある。テオドール・ヘルツルに代表される政治的シオニズムは、迫害されてきたユダヤ民族が自らの民族国家を建設しようとする政治運動であり、必ずしも宗教運動ではなかった。これに対してキリスト教シオニズムは、キリスト教徒が聖書の記述を根拠として、ユダヤ民族のイスラエルへの帰還やイスラエル国家の存在を支持する思想である。両者は異なる理由から出発したものの、イスラエル国家の建設という政治的目標では重なっていった。1948年にイスラエルが建国されると、ディスペンセーショナリストの一部はこれを単なる国際政治上の出来事ではなく、聖書預言が現実になりつつある証拠として受け止めた。更に1967年の第三次中東戦争でイスラエルが東エルサレムを占領したことは、こうした終末論的世界観を一段と強化することになった。

4.福音派とイスラエル

この思想は現在も米国の保守的福音派の一部に強く残っている。代表的な組織が、牧師ジョン・ヘイギーらによって設立されたChristians United for Israel(CUFI)である。CUFIは教会、大学、メディア、議会などを通じてイスラエル支持を訴える巨大なキリスト教系政治運動へ成長した。その基本的な考え方は、神とユダヤ民族との契約は現在も有効であり、イスラエル国家の存在には聖書的意味があるというものである。したがってイスラエル支持は、単なる外交政策上の選択ではなく、信仰上の問題となる。ここに一般的な外交ロビーとは異なるキリスト教シオニズムの強さがある。

5.神学から外交へ

宗教的イスラエル支持は、やがて具体的な外交政策とも結び付いた。イスラエルへの軍事支援、イスラエルの軍事的優位の維持、国際社会によるイスラエルへの圧力への反対、反ユダヤ主義への対抗などがその代表である。更に現在の中東情勢で重要なのがイラン問題である。イスラエルを神の歴史的計画の中で特別な存在と考えるキリスト教シオニストの一部では、イスラエルの安全を脅かすイランへの警戒が極めて強い。その結果、聖書解釈からイスラエル支持へ、イスラエル支持から米イスラエル同盟支持へ、更に対イラン強硬政策へという政治的連鎖が成立している。

6.ネオコンとの合流

興味深いのは、キリスト教シオニズムとネオコンの関係である。両者は本来まったく異なる思想的背景を持っている。リチャード・パールらに代表されるネオコンのイスラエル支持は、基本的には米国の世界戦略、安全保障、中東における勢力均衡といった世俗的な地政学から出発している。これに対してキリスト教シオニストのイスラエル支持は、聖書、神とイスラエルとの契約、預言、終末論という宗教的世界観から出発する。しかし両者は、強いイスラエルの維持、米イスラエル軍事協力、イランへの強硬姿勢など、具体的な政策では一致する場合がある。異なる思想から出発した二つの勢力が、ワシントンの中東政策において政治的に合流する。

7.米国政治への影響

この構図を歴史的に整理すると、19世紀のディスペンセーショナリズムが1909年のスコフィールド聖書によって米国社会に普及し、1948年のイスラエル建国と1967年のエルサレムをめぐる出来事によってその世界観が現実政治と結び付き、キリスト教シオニズムが巨大な政治運動へ成長したと見ることができる。そしてその一部が共和党や議会政治に影響を与え、現在の強固な米イスラエル関係を支える国内政治基盤の一つとなっている。したがって現在の米国のイスラエル政策を理解する場合、ユダヤ系組織や軍事・安全保障上の利益だけを見ていては全体像を捉えられない。人口的に大きな政治勢力である保守的福音派の存在と、その背後にある宗教思想を見る必要がある。その思想史を遡ったとき、スコフィールド聖書は重要な分岐点として位置付けられる。スコフィールド聖書はイスラエルを聖書預言の中で特別視する宗教的世界観を米国の大衆的プロテスタントへ広め、その思想が20世紀後半に政治運動化し、現在の米国における強力なイスラエル支持勢力の一つを形成していると理解しておかなくてはならない。

歴史に関する考察

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