恋愛社会学
多様化する親密な関係に接近する
2024年10月刊
高橋幸/永田夏来著
編者の経歴
高橋幸は、石巻専修大学人間学部准教授であり、社会学理論およびジェンダー理論を専門としている。恋愛やジェンダー規範、フェミニズム、現代社会における親密性の変容を研究テーマとし、ポストフェミニズムや恋愛規範の歴史的変化について多くの研究を発表している。本書では企画全体を統括するとともに、恋愛を社会制度として捉える理論的枠組の提示を担当している。
永田夏来は、兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授であり、家族社会学を専門とする研究者である。未婚化、晩婚化、家族形成、結婚制度の変化などを中心に研究を続け、生涯未婚時代などの著作でも知られている。現代日本における恋愛・結婚・家族の関係を実証的に分析し、多様化する親密な関係の社会的意味を明らかにしてきた。本書では恋愛と結婚をめぐる社会的変化や家族との関係について中心的な役割を担っている。
本書の内容
1.恋愛を社会学の対象として捉え直す
本書は、恋愛を個人的な感情や心理現象としてではなく、社会制度や文化、歴史、経済、ジェンダーなどの影響を受けながら形成される社会現象として分析することを目的としている。恋愛は誰もが経験する身近な出来事でありながら、その在り方は時代や社会によって大きく異なる。本書は、その変化を多角的に検討することで恋愛社会学という新しい研究領域を体系化しようとしている。
2.近代社会が生み出した恋愛
恋愛は人類に普遍的な感情であるように思われがちである。しかし本書は、恋愛結婚という価値観は近代社会の成立とともに形成された社会制度であることを説明する。近代以前の結婚は家同士の結び付きや経済的利益を重視する制度であり、恋愛は必ずしも結婚の前提ではなかった。しかし近代になると、個人の自由と自己決定が重視されるようになり、愛する相手と結婚するという価値観が社会全体へ浸透した。この歴史的背景を踏まえ、本書は恋愛が社会によって構築された概念であることを示している。
3.日本社会における恋愛の変遷
日本では高度経済成長期以降、恋愛結婚が急速に一般化した。しかし21世紀に入ると未婚化・晩婚化が進み、恋愛と結婚が必ずしも結び付かなくなってきた。恋愛をしなくても充実した人生を送る人々が増え、結婚を人生の必須条件と考えない価値観も広がっている。一方で恋愛への期待は依然として高く、理想と現実との間で葛藤する若者も少なくない。本書は各種統計や社会調査を用いて、この変化を丁寧に分析している。
4.家族・親との関係が恋愛へ与える影響
恋愛は個人だけで成立するものではなく、家族や育った環境からも大きな影響を受ける。本書では親子関係、教育水準、経済格差、地域社会などが恋愛や結婚に及ぼす影響について多くの実証研究を紹介している。恋愛は自由な選択と思われやすいが、実際には社会階層や文化資本によって出会いの機会や交際の形態が大きく左右されることが示される。
5.恋愛至上主義の成立と揺らぎ
1980年代から90年代にかけて、日本では恋愛こそ人生の幸福であるという恋愛至上主義が広く浸透した。ドラマ、映画、漫画、雑誌などのメディアは恋愛を人生最大の目標として描き続けた。しかし現在では恋愛を人生の中心に置かない人々も増え、恋愛しなければならないという価値観が問い直されている。本書はこの価値観の変化を、社会構造や経済環境の変化と結び付けて説明している。
6.SNSとマッチングアプリが変えた恋愛
現代では恋愛の出会い方も大きく変化した。職場や学校だけでなく、SNSやマッチングアプリが主要な出会いの場となりつつある。これにより出会いの選択肢は飛躍的に広がった一方、プロフィールによる評価やアルゴリズムによるマッチングなど、市場原理に近い恋愛行動も生まれている。本書はこうしたデジタル化が恋愛観や人間関係へ与える影響を検討している。
7.ジェンダーと恋愛の変化
恋愛には男女の役割分担やジェンダー規範が色濃く反映される。本書では男性が積極的にアプローチし女性が受け入れるという従来型モデルが変化しつつあることを論じている。更にLGBTQ+、アセクシュアル、クワロマンティックなど、多様な恋愛・親密性の在り方も取り上げられ、恋愛を異性愛だけで説明することはできない時代に入っていることが示される。
8.恋愛しないという選択
本書は、恋愛しないという生き方も社会学的に正当な選択として扱っている。恋愛経験がないことや恋愛に興味がないことを欠如として捉えるのではなく、多様な人生の一形態として位置付ける。そして恋愛・結婚・家族の三者は必ずしも一致しないことを強調している。
9.ポスト恋愛至上主義の社会
本書の終盤では、恋愛を唯一の幸福モデルとする時代は終わり、多様な親密な関係が共存する社会へ移行しつつあると論じる。恋愛だけでなく友情、共同生活、同性パートナーシップ、事実婚、単身生活など、多様な関係性が認められる社会において、今後の恋愛社会学が果たす役割を展望して締めくくっている。
本書が言いたかったこと
恋愛は人間の自然な感情であると同時に、社会によって形づくられる文化的・制度的な現象でもある。恋愛の価値観は歴史や経済、ジェンダー、家族制度、テクノロジーなどの変化とともに変わり続けており、誰もが恋愛し、結婚して家族を築くべきだという従来の前提はもはや普遍的ではない。現代社会では恋愛をする人もしない人も、多様な親密な関係を築く人も、それぞれが尊重されるべき存在である。本書は恋愛を一つの正解に当てはめるのではなく、多様化する社会の中で人と人との関係性を柔軟に理解する視点こそが重要であると訴えている。
