Physics of the Future
How Science Will Shape Human Destiny and Our Daily Lives by the Year 2100
2011年刊
加来道雄著
著者の経歴
ミチオ・カク(加来道雄)は、1947年に米国カリフォルニア州サンノゼで生まれた日系アメリカ人の理論物理学者である。ハーバード大学で物理学を学び、1968年に首席で卒業した後、カリフォルニア大学バークレー校で1972年に博士号を取得した。専門は超弦理論、量子場理論、統一理論である。現在はニューヨーク市立大学シティカレッジの理論物理学教授であり、研究者であると同時に、テレビ、ラジオ、著作を通じて科学を一般読者に伝える代表的な科学解説者である。
本書の内容
1.科学技術を物理学から予測する
本書は、2100年までに科学技術が人間の生活、社会、身体、経済、宇宙観をどのように変えるかを描いた未来予測の書である。著者は単なる空想ではなく、世界の第一線の科学者への取材と、現在すでに研究段階にある技術をもとに、未来の姿を描こうとする。扱われる分野は、コンピュータ、人工知能、医療、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙開発、富の構造、人類の未来にまで及ぶ。
2.コンピュータと知能の未来
本書では、コンピュータはやがて現在のような機械として意識される存在ではなく、壁、机、眼鏡、衣服、都市、身体の周囲に溶け込む環境になるとされる。情報は画面を開いて取りに行くものではなく、人間の行動に応じて自動的に提示されるものになる。人工知能については、人間と同じ意識を持つ存在がすぐに登場するというより、特定領域で人間を超える知能が社会の各所に入り込む。ここで重要なのは、AIが単なる計算機ではなく、人間の判断、労働、教育、医療、軍事に影響を与える社会的な力になることである。
3.医療と身体の革命
医療の章では、遺伝子解析、幹細胞、再生医療、ナノマシン、遠隔診断が、人間の寿命と健康観を変えると論じられる。病気になってから治療する医療から、病気になる前に予測し、予防し、身体を修復する医療へ移行するという見方である。がん、アルツハイマー病、心臓病なども、将来は分子レベルで発見され、より早期に対応できるようになる。著者は、不老不死を安易に約束するのではなく、老化を構成する生物学的過程を一つずつ理解し、制御していく方向に未来医療が進むと考えている。
4.ナノテクノロジーと物質の制御
本書における大きな主題の一つが、ナノテクノロジーである。原子や分子のレベルで物質を操作できるようになれば、材料、医療、製造、エネルギーのあり方が変わる。超軽量で強靱な素材、体内を移動する微小ロボット、自己修復する材料、高効率な太陽電池などが可能になる。著者は、ナノテクノロジーを単なる小型化技術ではなく、物質世界を設計する技術として位置づけている。
5.エネルギーと地球環境
エネルギーの未来について、本書は化石燃料依存から、太陽光、風力、水素、核融合などへの長期的移行を展望する。地球温暖化と資源制約は、人類にとって避けられない課題であり、科学技術はその解決の中心に置かれる。ただし著者は、技術だけで問題が自動的に解決すると考えている訳ではない。新しいエネルギー体系を社会に導入するには、政治、産業、資本、国際協力が必要である。ここでは、科学の進歩と社会制度の遅れとの間に生じる緊張も示されている。
6.宇宙開発と人類の拡張
宇宙開発の章では、月面基地、火星探査、宇宙エレベーター、惑星移住、恒星間航行の可能性が論じられる。著者は、人類の未来を地球上だけで完結するものとは見ていない。長期的には、人類は宇宙へ生活圏を広げる可能性がある。ただし、それは短期的な夢物語ではなく、ロケット技術、材料技術、生命維持技術、エネルギー技術の積み重ねによって初めて可能になるものとして描かれる。
7.富と文明の未来
本書は、科学技術が富の構造を変えることにも注目している。情報、知識、設計、創造性が経済の中心となり、単純労働や反復的業務は機械に置き換えられていく。一方で、人間にしかできない創造、判断、対人関係、芸術、倫理的決定の価値は高まる。未来社会では物理的な資源だけでなく、知識と想像力が富の源泉になる。
本書が言いたかったこと
未来は神秘や偶然によって決まるのではなく、現在の科学研究の延長線上にあると。物理学は、コンピュータ、医療、エネルギー、宇宙開発、材料科学を支える基礎であり、人類の生活様式を根本から作り替える力を持つ。ただし科学技術は自動的に幸福をもたらすものではない。未来をより良いものにするためには、技術の可能性を理解し、それを人間の目的、倫理、社会制度と結びつける必要がある。科学の進歩を恐れるのではなく、科学によって開かれる未来を人間が主体的に選び取らなくてはならない。
