On the Origin of Time
2023年(日本語版2024年)刊
Thomas Hertog著
著者の経歴
著者トマス・ハータダ(Thomas Hertog)は、ベルギー出身の理論物理学者であり、宇宙論および量子重力理論を専門とする研究者である。英国の著名な理論物理学者であるホーキングの最後の共同研究者の一人として知られている。ハータダはホーキングと共に、宇宙の起源や構造に関する根本的な問題に取り組み、従来の宇宙は唯一で客観的に存在するという見方に対して、新しい視点を提示してきた。その研究は、物理学にとどまらず、哲学的な宇宙観の転換にも及んでいる。
最終理論からの転換
本書(最終理論の先にある世界)は、宇宙のすべてを説明する究極の理論(最終理論)を追い求めてきた現代物理学の流れを踏まえつつ、その前提そのものを問い直すものである。従来の物理学は、一般相対性理論と量子力学を統一し、万物の理論を構築しようとしてきた。しかしハータダは、こうした外部から宇宙全体を客観的に記述するという発想自体に限界があると指摘する。彼とホーキングが提唱した新しい宇宙観では、宇宙はあらかじめ固定された一つの歴史を持つのではなく、観測者の存在や進化の過程と不可分な形で成り立っている。宇宙は一つではなく、多様な可能性の中から選ばれて現れるものである。
宇宙は存在するのではなく生成する
1. 宇宙は固定されたものではない
本書の核心は、宇宙は最初から決定されているものではないという主張である。従来の物理学は、初期条件と法則が与えられれば宇宙の全歴史が決まると考えてきたが、ハータダはこれを否定する。宇宙はむしろ、時間の中で生成され続ける存在であり、未来だけでなく過去さえも固定されていない可能性があるとする。この発想は、時間の矢や因果律に対する理解を根底から揺るがすものである。
2. 観測者と宇宙は切り離せない
量子論的な視点を極限まで押し進めると、観測者は単なる外部の存在ではなく、宇宙の構成要素そのものとなる。観測することが宇宙のあり方を決定する。これは、宇宙を客観的に外から眺めるという従来の科学観の終焉を意味する。宇宙は、観測者との関係の中で初めて具体的な姿を持つのである。
3. 最終理論は存在しない可能性
従来の物理学が目指してきた最終理論は、単一の絶対的な法則として存在するものではなく、むしろ観測者や条件によって変わり得る開かれた枠組である可能性が示される。世界は完全に閉じた論理体系ではなく、進化し続けるプロセスである。
確定した宇宙から生成する宇宙へ
本書は、単なる宇宙論の書ではなく、人間の認識そのものを問い直す哲学的著作である。宇宙はもはや、外部から客観的に記述される固定的な対象ではない。それは観測者とともに生成し続ける動的な存在である。この認識に立つ時、人間はもはや受動的に世界を理解する存在ではなく、世界の生成に関与する主体となる。不確実性と共に生き、選択によって未来を形づくる存在としての自己を引き受ける。それこそが、本書が提示する現代における生の態度である。
不確実性の中で生きる知恵(付記)
本書の議論を踏まえると、人間の生き方に対して重要な示唆が導かれる。
第一に、世界は固定されたものではなく、常に生成され続けている以上、未来は決して完全には予測できないという認識を持つべきである。完全な計画や絶対的な正解に固執するのではなく、不確実性を前提に行動する柔軟性が求められる。
第二に、観測者としての人間は、単なる受動的存在ではなく、世界の形成に関与する主体である。自らの認識や選択が現実の一部を構成しているという自覚を持つことが重要である。
第三に、世界が開かれたプロセスである以上、価値や意味もまた固定されたものではない。人は既存の枠組に従うだけでなく、自ら意味を創出し続ける存在として生きるべきである。
