潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)
核弾頭を搭載したロケットを配備する手段には、地上施設の整備、航空機搭載、潜水艦配備SLBMの3つがある。このうち地上施設は敵の攻撃目標になることは明らかであり、これを受け入れる日本領土は思いもよらない。航空機搭載はドイツが核共有で選択している方法ではあるが、迎撃の可能性が高く難しい。海に囲まれた日本では実行性を持つ潜水艦に配備することになる。
日本の最新型潜水艦と垂直発射システム(VLS) Japan’s Latest Submarine and VLS
日本が核保留政策を採用し、将来的に潜水艦への核弾頭搭載を計画する場合、必要な具体的準備活動は多岐にわたるが、その最たるものが核を搭載するための潜水艦の改修または新設計である。
日本の海上自衛隊は最新の潜水艦体制として「たいげい型」潜水艦の導入を進めている。たいげい型は、これまでの「そうりゅう型」潜水艦の後継として開発されたクラスで、新しいリチウムイオン電池を搭載している。この電池技術は、従来の鉛蓄電池に比べて、より長い時間、高速での潜航が可能となり、メンテナンスの頻度も低減されている。電池技術の進展は目覚ましく、全固体電池の実用化等を考慮すると、将来的には静粛性に優れた日本の潜水艦は原子力潜水艦に匹敵する能力を保持する可能性がある。
さらに、川崎重工業が発表した新型潜水艦は、垂直発射システム(VLS)を備え、従来の潜水艦に比べて機動性や隠密性が向上している。これにより、日本の潜水艦は敵地からの長距離攻撃が可能となる。技術的な観点から見ると、垂直発射システム(VLS)自体は様々なタイプのミサイルを搭載する柔軟性を持っている。核弾頭を搭載可能なミサイルも技術的にはVLSから発射することが可能である。
潜水艦用のVLSは、深海での高圧環境下でも機能するように、発射システムは非常に厳しい環境条件下での動作が求められる。また潜水艦からのミサイル発射は、艦体に対して極めて大きな衝撃と熱を伴う。これらの技術的な側面は、潜水艦のVLSが様々な種類のミサイルを搭載し、運用することが可能であるとしても、核弾頭を搭載する場合、VLSの設計と運用は高度な技術と精密な工学を要求する。
If Japan adopts a nuclear hedging policy and plans to equip submarines with nuclear warheads in the future, extensive specific preparations are necessary, the most significant of which is the modification or new design of submarines capable of carrying nuclear weapons.
The Japan Maritime Self-Defense Force is advancing the introduction of the latest “Taigei-class” submarines, successors to the “Soryu-class.” These are equipped with new lithium-ion batteries, allowing longer, faster submersion times and reduced maintenance frequency compared to traditional lead-acid batteries. The advancements in Japanese battery technology are remarkable, and considering the full commercialization of solid-state batteries, Japan’s submarines may eventually possess capabilities comparable to nuclear-powered submarines.
イスラエルの事例(通常動力型潜水艦への核搭載)The Case of Israel (Nuclear-armed Conventional Submarines)
イスラエルは核兵器保有国であると広く認識されている。イスラエルはドイツ製のドルフィン級潜水艦を運用しており、これらの潜水艦は巡航ミサイルが発射可能なように改造されている。核弾頭搭載可能なミサイルを装備していると推察される。更に ガタール級潜水艦を新造する予定であり、VLS等を装備する予定とされる。
イスラエルの事例は、潜水艦が特定のミサイル発射システムを備えている限り、原子力潜水艦でなく通常動力型の潜水艦にも可能であることを示している。核兵器を搭載したミサイルの発射設備を有することは、その潜水艦の戦略的能力を大幅に拡張する。
しかしながら同時に、通常動力型のディーゼル潜水艦に核弾頭を搭載した巡行ミサイルを装備する際には、いくつかの制約と問題が発生する。
第一はサイズと重量である。 ディーゼル潜水艦は通常、原子力潜水艦に比べて小型であり、限られたスペース内での大型ミサイルの搭載は挑戦的である。核弾頭を搭載可能な巡行ミサイルは、そのサイズと重量が通常のミサイルよりも大きいため、潜水艦の設計に大きな変更を加える必要がある。
第二は発射システムの統合である。 巡行ミサイルを潜水艦から発射するためには、専用の発射装置が必要である。これには水中での操作を考慮した複雑な機構が必要となり、ディーゼル潜水艦の限られた空間内での統合は技術的な課題となる。
第三は潜航時間と速度である。 ディーゼル潜水艦は原子力潜水艦に比べて潜航時間が短く、速度も遅いため、戦術的な柔軟性が制限される。核兵器を搭載したミサイルを運用する場合、その発射機会を見極めるためには高度な戦術計画が必要である。
第四は核兵器の安全管理である。 核弾頭を搭載したミサイルを潜水艦に装備することは、非常に厳格な安全対策を要求する。潜水艦内での核物質の取り扱いには、事故を防ぐための高度な安全プロトコルが必要である。
これらの制約と課題は、通常動力型ディーゼル潜水艦が核弾頭ミサイルを搭載する場合、技術的な改良だけでなく、戦術的な運用計画の検討が必要であることを示している。それにもかかわらず、イスラエルのドルフィン級のように、特定の技術的および運用上の課題を克服することによって、実現可能であるケースが存在していることは参考となる。
Israel, widely recognized as a nuclear-armed nation, operates German-made Dolphin-class submarines, which have been modified to launch cruise missiles capable of carrying nuclear warheads. For conventional power diesel submarines to be equipped with nuclear missile warheads, not only technical modifications are necessary but also tactical operational plans need to be considered. Nevertheless, like the Dolphin-class submarines, there are cases where specific technical and operational challenges can be overcome, which is worth noting.
原子力潜水艦 Nuclear Submarines
SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載するには、必ずしも原子力潜水艦である必要はないが、現代の主要な核保有国が採用しているのは原子力潜水艦である。原子力潜水艦と通常動力(ディーゼル電動)潜水艦の主な違いは、耐久性と潜水可能な期間にある。
原子力潜水艦は原子炉をエネルギー源として使用しているため、燃料補給無しで数ヶ月間潜水し続けることができる。これにより、潜伏能力が高まり、発見されにくくなる(静粛性では日本の潜水艦は最新型原潜に匹敵する位に優れている)。 また原子力潜水艦は高い出力を持つ原子炉のおかげで、高速で長時間運航することが可能である。これにより、迅速に位置を変更し戦術的な柔軟性を保つことができる。
通常動力潜水艦も技術的にはSLBMを搭載することが可能であるが、各種制約と戦略的な利点を生かすためには、最終的には原子力潜水艦が必要になると思われる。
While it is not necessary for submarines carrying SLBMs to be nuclear-powered, modern major nuclear-armed nations use nuclear submarines. While conventional power submarines are technically capable of carrying SLBMs, various constraints and strategic advantages indicate that Japan will ultimately require nuclear submarines.
日本型原子力潜水艦の建造 Construction of Japanese Nuclear Submarines
日本が開発を進めている小型原子炉が実現すると、原子力潜水艦の建造コストに影響を与えると思わる。現状開発している小型原子炉では原潜用としては出力が不足すると思われるが、その開発過程で得られる知見は原潜開発に大いに生かさると思われる。コンパクトな原子炉は、規模が小さく、設計がモジュール化させているため、製造コストが低減される。また設置や維持管理が比較的容易である。これにより、潜水艦全体の設計がシンプルになり、建造やメンテナンスの工程が効率化される。
コンパクトな原子炉を搭載した潜水艦は、運用コストの面で利点を持つ。燃料の補給周期が延び、メンテナンスが簡易になることが、長期的な運用コストの削減に寄与する。
The development of small nuclear reactors, if realized, is expected to affect the construction costs of nuclear submarines. The current small reactors under development may lack sufficient output for submarine use, but insights gained during their development could significantly benefit submarine development. Compact reactors, being smaller and modular in design, reduce manufacturing costs and are relatively easier to install and maintain, simplifying the overall design of submarines and making construction and maintenance processes more efficient.
Submarines equipped with compact reactors have cost advantages in operations. Extended fuel replenishment cycles and simplified maintenance contribute to long-term operational cost reductions.
フランス・英国の事例と共同開発 Examples from France, UK and Israel
フランスはICBMを保有していないが、潜水艦発射型の弾道ミサイル(SLBM)を保有している。フランスは「トライオンファン」級原子力潜水艦を運用しており、これには「M51」SLBMが搭載されている。このミサイルは射程距離が数千キロメートルに及び、核弾頭を複数搭載する能力を持っている。
英国もICBMは保有しておらず、SLBMに依存している。英国は「ヴァンガード」級原子力潜水艦を運用し、米国製の「トライデント」SLBMを搭載している。このミサイルもまた長射程を持ち、複数の核弾頭を搭載可能である。
両国ともに、これらのSLBMを通じて「第二撃能力」を保持している。これは自国が初めに核攻撃を受けた場合でも報復攻撃を行う能力を保持していることを意味する。SLBMは潜水艦からの発射という特性上、隠密性が高く、事前に発見・破壊されにくいため、核抑止力として非常に効果的である。
日本は英国・フランス・イスラエルとコンパクな原子炉搭載型の潜水艦を共同で改修・開発を行う価値があると思われる。
Looking to the future, Japan could consider it valuable to collaboratively modify and develop compact reactor-equipped submarines with the UK, France, and Israel.
1.核保留政策の提言
2.核保留政策の評価
3.核保留政策の推進(核弾頭とミサイル技術)
4.核保留政策の推進(潜水艦)
5.核保留政策の潜在パートナー
6.サイバーインテリジェンスシステム