Modigliani Sculptor
2010年刊
Belli, Fergonzi, Del Puppo著
著者の経歴
本書は、イタリアで開催されたモディリアーニ彫刻展にあわせて刊行された大規模研究書であり、約6年にわたる調査研究の成果をまとめたものである。ガブリエラ・ベッリはイタリアを代表する美術館学芸員・美術史家であり、近現代美術の展覧会企画で高い評価を受けている。フラヴィオ・フェルゴンツィは19世紀末から20世紀初頭のイタリア美術を専門とする美術史家であり、とりわけ彫刻研究の権威として知られる。アレッサンドロ・デル・プッポは近代ヨーロッパ美術史を専門とし、前衛芸術や彫刻史について数多くの研究を発表している。本書は三人の専門家がそれぞれの知見を結集して編集した、モディリアーニ彫刻研究の画期的な成果である。
本書の内容


1.彫刻家モディリアーニの再発見
一般にアメデオ・モディリアーニは細長い首とアーモンド形の眼を持つ肖像画の画家として知られている。しかし本書は、そのような通俗的な理解に異議を唱えるところから始まる。編者たちは、1909年から1914年にかけてのモディリアーニが、自らをむしろ画家ではなく彫刻家として位置づけていたことを多くの資料から明らかにする。本書では、この短期間の彫刻制作が単なる寄り道ではなく、彼の芸術全体を理解するための中心的な時期であったことが繰り返し論じられる。現存する頭像群や当時の証言を精査しながら、モディリアーニが独自の造形理念を形成していく過程が詳細に再構成されている。
2.パリの彫刻界との交流
本書の大きな特徴は、モディリアーニを孤独な天才としてではなく、20世紀初頭のパリ彫刻界の中に位置づけている点である。当時のパリには、後に近代彫刻の巨匠となる多くの作家たちが集まっていた。モディリアーニはその中で、特にブランクーシの影響を強く受けたとされる。本書は両者の作品を比較しながら、単なる模倣関係ではなく、形態の単純化や精神性の追求という共通課題に取り組んでいたことを示している。また、同時代の多くの無名彫刻家との関係も検討され、モディリアーニが当時の彫刻運動の中でどのような位置を占めていたのかが丁寧に分析される。
3.アフリカ彫刻と東洋美術の影響
本書で最も興味深い部分の一つは、モディリアーニ彫刻の源泉を探る研究である。従来、彼の頭像はアフリカ彫刻の影響によるものと単純に説明されることが多かった。しかし本書は、その理解が不十分であることを示している。編者たちは、アフリカの部族彫刻だけでなく、エジプト彫刻、クメール美術、インド彫刻、さらには古代地中海文化まで視野に入れながら、その造形的な源流を検証している。縦長の顔貌、閉じた眼、単純化された鼻梁、静謐な表情などは、単一の文化から借用されたものではなく、多様な古代文明の造形がモディリアーニの中で統合された結果であると論じられる。
4.頭像の意味
本書の中心には、モディリアーニが制作した一連の頭像の分析が置かれている。これらの作品は単なる肖像ではない。個人の特徴を記録するための肖像彫刻ではなく、むしろ超越的な存在や精神的象徴を表そうとしたものであると解釈される。無表情な顔、閉じられた瞳、左右対称の構成は、現実世界の人物ではなく、神殿に置かれる偶像や祭司像を思わせる。本書は、こうした特徴を通じてモディリアーニが人間の内面的本質や永遠性を表現しようとしていたことを明らかにする。
5.幻の石の神殿構想
本書で特に魅力的なのは、モディリアーニが抱いていたとされる壮大な芸術構想の考察である。複数の証言やスケッチから、彼は単独の彫刻作品ではなく、多数の石像を並べた巨大な空間作品を夢見ていたことが指摘される。そこでは頭像群が柱のように配置され、一種の精神的聖域を形成する計画であった。病気や資金不足のために実現しなかったが、本書はこの未完の構想こそがモディリアーニ芸術の核心であったと考えている。
6.彫刻から絵画への継承
最後に本書は、1914年以降の絵画作品と彫刻作品の関係を分析する。有名な肖像画に見られる細長い顔、長い首、無表情な眼差しは、彫刻時代に形成された造形言語の延長であると説明される。モディリアーニは彫刻を放棄したのではなく、彫刻的思考を絵画へ移植した。こうして本書は、画家モディリアーニの背後には常に彫刻家モディリアーニが存在していたことを明らかにしている。
本書が言いたかったこと
モディリアーニを単なる肖像画家として理解してはならない。彼の芸術の核心は、短期間ながら情熱を注いだ彫刻制作の中に存在していた。彼は石を彫ることで、人間の外見ではなく、その背後にある永遠性や精神性を表現しようとした。そのため本書は、モディリアーニの有名な絵画さえも彫刻家としての視点から読み直すべきだと主張している。細長い顔や静かな眼差しは単なる様式ではなく、古代文明や宗教的象徴を吸収した彫刻的理想の表れであった。モディリアーニとは絵を描いた彫刻家であり、その芸術は絵画と彫刻を超えて、人間存在の普遍的な精神像を追求した試みだった。
