第二次世界大戦との決定的な違い
現代戦争で決定的に変わったのは、戦車・歩兵・戦闘機・空母が消えたことではない。むしろ、発見する→判断する→攻撃するという一連の過程が、衛星、ドローン、AI、電子戦、精密ミサイルによって極端に高速化し、しかも安価な無人兵器を大量投入できるようになったことである。その結果、イラン戦争のような長距離打撃戦と、ウクライナ戦争のような領土争奪戦では、同じ現代戦争でも全く異なる姿を見せている。第二次世界大戦の基本的な戦争観は、敵より多くの戦車、航空機、艦船、兵士を集め、それを集中して敵を突破するというものであった。航空戦でも、数百機、時には千機規模の爆撃機を送り込み、都市、工場、鉄道、港湾などを大量の爆弾で破壊した。爆弾の命中精度が低かったため、目標を破壊するには大量投下が必要だった。現代ではこの構造が逆転した。一発の精密誘導ミサイル、巡航ミサイル、自爆ドローンが、数百キロ、時には千キロ以上離れた特定の建物、レーダー、発電所、石油施設、弾薬庫などを狙える。第二次大戦=大量の兵器を目標付近まで運ぶ戦争から、現代戦=目標を発見し、遠距離から精密兵器を送り込む戦争へと変化している。
イラン戦争
現代の戦争では航空優勢と戦争の勝利が分離している。現在の米国・イスラエル対イランの戦争は、この変化を非常によく示している。米・イスラエル側が大規模な航空攻撃を継続している。2026年2月から9月までに米・イスラエル側の攻撃事象を約3700件、イラン側を約2000件としている。米軍は一時、1日300~500目標を攻撃する規模の航空作戦を実施していた。したがって、空爆が何の効果もないとまでは言えない。イランの防空、ミサイル関連施設、軍事インフラなどには相当の損害が生じているとみられる。しかし重要なのは、それだけの空爆を受けても、イランの長距離攻撃能力が完全には消えていないことである。イランの発射数は戦争初期から減少したものの、残存する発射能力がエネルギー施設などへの損害を継続させている。ここに現代戦争の第一の特徴がある。破壊すべき標的が多すぎる戦闘機や大型軍艦は巨大であり、衛星から比較的発見しやすい。しかし移動式ミサイル発射機は違う。地下壕から出てきて発射し、再び移動する。デコイを置くこともできる。更に地下施設、山岳地帯、トンネル、分散した弾薬庫などを利用すれば、航空優勢を握った側でもすべてを発見・破壊するのは難しい。これはフーシ派に対するサウジアラビアの戦争でも既に現れていた。2015年以降、サウジ主導連合は大規模な航空攻撃を行ったが、フーシ派のミサイル・ドローン能力を完全には除去できなかった。イエメン戦争は、敵ミサイルを発射前に破壊することの難しさを示した事例である。長年にわたるサウジ、UAE、米英、イスラエルによる軍事行動にもかかわらず、フーシ派は組織として存続・拡大してきた。したがって、制空権を取ることと敵の戦争遂行能力を破壊することは、以前ほど同じ意味ではなくなっている。
飽和攻撃という新しい問題
更に重要なのが、ミサイルとドローンによる飽和攻撃である。防御側には高度な迎撃システム(Iron Dome、David’s Sling、Arrow、Patriot、THAADなど)がある。しかし問題は、迎撃できるかではなく、何発まで迎撃し続けられるかになってきた。最近の分析でも、米国などの防空システム自体は高い能力を示す一方、迎撃ミサイルの消費速度とレーダーなど防空資産への攻撃が重大な問題になっている。ここでは攻撃側と防御側に非対称性が生まれる。比較的安価なドローンを大量に飛ばし、その中に巡航ミサイルや弾道ミサイルを混ぜる。防御側はこれは安価な囮だから無視すると簡単には判断できない。もし本物なら重要施設が破壊されるからである。したがって現代戦では、兵器の性能×数量×生産能力×コストが非常に重要になってきた。最高性能の兵器を100発持つ国より、そこそこの兵器を毎月数千発生産できる国の方が、長期戦では強い場合がある。
空母や戦闘機は時代遅れなのか
ここは慎重に考える必要がある。空母や戦闘機が無意味になった訳ではない。戦闘機には、ドローンやミサイルにはない大きな利点がある。飛行中に目標を変更できる。何度も出撃できる。偵察、電子戦、制空、爆撃を組み合わせられる。そして多数の兵器を運べる。空母も同様である。問題は空母が弱くなったというより、空母が敵に近づくことのコストが急激に高くなったことである。長距離対艦ミサイル、衛星監視、無人偵察機、潜水艦などを組み合わせると、大型艦艇は極めて価値の高い標的となる。したがって空母は、敵海岸に接近して航空攻撃する基地から、より遠方から航空戦力、情報、電子戦、ミサイル防衛を提供する移動基地へ役割を変えていくことになる。
ウクライナでは歩兵が消えない
ここが非常に面白いところである。ウクライナ戦争ではドローンが戦場を劇的に変えた。偵察ドローンが敵を発見し、FPVドローンが攻撃し、砲兵が修正射撃を行い、長距離ドローンが数百~千キロ先の軍事施設を攻撃する。しかし、それでも最後には歩兵が必要である。理由は単純である。ミサイルやドローンには土地を占領できないからである。敵兵を排除しても、その村や塹壕を自軍の兵士が占領しなければ、領土を取ったことにはならない。現在のウクライナでも長距離攻撃と地上戦が同時進行しており、ロシア側の長距離攻撃は通信・データセンターなどにも向けられている一方、地上では依然として陣地・集落をめぐる戦闘が続いている。したがってウクライナ戦争では、ドローンが歩兵を不要にしたのではなく、歩兵の戦い方を変えたと考えた方がよい。
戦車も消滅ではなく変身している
戦車についても同様である。ウクライナ戦争初期には大量の戦車が破壊され、戦車の時代は終わったという議論が出た。しかし現在の軍事研究では、そこまで単純には考えられていない。戦車、野戦砲、陸軍航空は時代遅れになったのではなく、ドローンから防護し、諸兵科を統合して使用しなければならない。昔は戦車→敵を探して攻撃したが、現在はドローン→発見→データ送信→砲兵・FPV・戦車→攻撃→歩兵→占領というネットワークになった。戦車は主役からネットワークの一構成要素へ変わった。
現代戦争の本当の主役
現代戦争を単純にドローン戦争と呼ぶのは少し違う。より正確には、センサー・ネットワーク戦争になっている。衛星、偵察ドローン、レーダー、電子情報、通信傍受などが敵を発見する。AIや指揮システムが情報を統合する。そして最も適した兵器(FPVドローン、砲兵、巡航ミサイル、弾道ミサイル、航空機、戦車)に目標情報を渡す。重要なのは個々の兵器ではなく、Sensor→Decision→Shooterをどれだけ速く、安く、大量に回せるかである。
イラン戦争とウクライナ戦争の違い
両戦争を比較すると、現代戦争の構造がよく見える。イラン戦争は距離の戦争である。イスラエルとイランは国境を接していないため、中心になるのは航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイル、長距離ドローン、防空、衛星、電子戦である。これに対して、ウクライナ戦争は土地の戦争である。だからドローン、ミサイル、電子戦だけでは決着しない。歩兵、戦車、装甲車、砲兵、地雷、工兵、塹壕、兵站が依然として不可欠である。
21世紀の戦争を決めるもの
以上を総合すると、第二次世界大戦型の高性能な大型兵器を大量に保有する国が強いという考え方から、大量の安価な兵器と少数の高性能兵器を組み合わせ、それを情報ネットワークで統合し、長期間補充できる国が強いという方向へ戦争は変化している。したがって、これから重要になるのは戦闘機や戦車の単体性能だけではない。偵察能力、衛星、AI、通信、電子戦、ドローン、長距離ミサイル、防空、地下化、分散化、弾薬備蓄、そして何より大量生産能力である。ウクライナの教訓についても、最新技術だけでなく安価で大量に供給できること、同時に戦車・砲兵など従来兵器を統合して使うことが重要だとの分析が出ている。第二次世界大戦が大量生産された有人兵器の戦争であったとすれば、21世紀の戦争は分散したセンサーと無人兵器、精密ミサイル、電子戦をネットワーク化し、大量生産能力と人間の地上戦力を組み合わせる戦争へ移行している。そしてイラン戦争はそのうちの長距離ミサイル・航空戦型、ウクライナ戦争はドローン・砲兵・歩兵を融合した領土戦型の典型と見ることができる。
日本が備えるべき戦力(付記)
日本が備えるべき中心は、第二次大戦型の大艦隊・大量戦闘機による決戦より、大量のミサイル・ドローンが飛来し、同時にサイバー・電子戦・海上封鎖が行われ、南西諸島などでは限定的な地上戦も起こり得る複合戦である。日本の弱点は、戦闘機や護衛艦の個々の性能より、固定基地、港湾、燃料施設、司令部、通信施設などが集中していることである。現代戦では開戦直後からミサイルやドローンがこれらに集中する。したがって、日本の防衛力を考える際には、装備の豪華さより残存性と継戦能力を備えるべきである。防衛省も既に、司令部の地下化、格納庫の強化、戦闘機の分散配置、ライフライン多重化、弾薬庫の分散を進めている。方向としては、ウクライナや中東で見られる現代戦の特徴と整合している。
1.最優先はミサイル・ドローン防空
ここでは高価な弾道ミサイルだけを考えてはいけない。弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速兵器、低価格ドローン、囮を同時に投入する飽和攻撃を想定する必要がある。現在のSM-3、PAC-3などは重要だが、非常に高価な迎撃弾だけで大量の安価なドローンまで迎撃する構造は持続しにくい。したがって、多層防空(弾道ミサイル迎撃、巡航ミサイル・航空機迎撃、ドローン迎撃、電子戦・妨害・機関砲・指向性エネルギー等)が重要になる。防衛省も、センサーと各種迎撃手段をネットワーク化した統合防空ミサイル防衛を重視している。
2.ドローン軍と呼べる程の大量の無人機
高価な大型UAVだけではなく、偵察ドローン、FPV型、長時間滞空型、輸送型、海上無人艇、無人潜水艇などを大量に持つ。特に日本は島国なので、空中ドローンだけでなく無人水上艇・無人潜水艇が重要である。有人護衛艦一隻に能力を集中させるより、有人艦を中核として多数の無人艇・無人潜水機・UAVをネットワーク化する方向が、日本の地理には適している。
3.長距離ミサイルの十分な数量
日本は12式地対艦誘導弾能力向上型、25式地対艦誘導弾、高速滑空弾、極超音速誘導弾、JSM、JASSM、Tomahawkなど、長射程化を急速に進めている。しかし現代戦から得られる重要な教訓は、射程だけではない。何発保有しているか、毎月何発作れるか、発射機が破壊されても別の場所から撃てるかが重要である。したがってミサイルそのものだけでなく、移動式発射機、地下・分散弾薬庫、補給車両、国内生産設備まで一つの兵器体系として考える必要がある。
4.戦闘機より先に飛行場
F-35などの高性能機を増やしても、滑走路、燃料庫、整備施設、弾薬庫が開戦初日に攻撃されれば能力を発揮できない。そこで重要になるのが、基地分散、地下化、掩体化、滑走路迅速修復、民間空港利用、燃料分散、移動式整備設備である。実際、防衛省も戦闘機用分散パッドや格納庫の強化、司令部地下化などを進めている。これは高価な戦闘機を更に数十機買うことと同じか、それ以上に重要な投資になる。
5.潜水艦を更に重要視
日本周辺のような海洋戦では、潜水艦は非常に重要である。大型水上艦は衛星、無人機、レーダーなどによって発見される可能性が高まっている。一方、水中は依然として探知が難しい。したがって日本は、有人潜水艦だけでなく、潜水艦+無人潜水艇+海底センサー+哨戒機+衛星を一つの海洋監視・拒否システムとして構築することが重要になる。
6.戦車は必要だが優先順位は変わる
ウクライナ戦争を見れば、戦車や歩兵が不要になるとは言えない。日本でも島嶼部や北海道などで地上戦となれば、歩兵、装甲車、砲兵、戦車は必要になる。しかし日本の場合、大規模な敵陸軍が本州へ上陸して巨大な戦車戦を行う前に、海空領域を突破しなければならない。したがって限られた防衛資源を考えれば、海空監視→ミサイル・ドローン防衛→海上阻止→長距離打撃→地上防衛という重層構造となる。
7.最も重要なのは実は弾薬工場
これはウクライナと中東双方から得られる大きな教訓である。戦争が数日で終わるという前提は危険である。必要なのは弾薬、ミサイル、ドローン、交換部品、燃料を数か月以上供給し続ける能力である。防衛省も現在、持続性・強靱性を七つの重点能力の一つとし、弾薬・燃料確保、火薬庫整備、施設強靱化を重視している。ここでは防衛予算だけでなく、三菱重工などの大企業から電子部品・モーター・光学・半導体・電池を供給する中小企業まで含めた防衛産業の生産能力そのものが戦力になる。現在の日本政府の方向性も、スタンド・オフ、防空ミサイル防衛、無人アセット、指揮統制、機動展開、持続性・強靱性という七分野を掲げており、大枠ではこの方向に向かっている。問題は今後、高価なプラットフォームの質だけでなく、ドローン・ミサイル・迎撃弾・弾薬の量と、それを戦時に補充できる生産力をどこまで確保するかにある。
