2026年9月11日現在
マグレガーの経歴
ダグラス・マグレガーは1947年生まれの米国陸軍退役大佐であり、陸軍士官学校ウェストポイントを卒業後、ヴァージニア大学で比較政治学の修士号、国際関係論の博士号を取得した軍人・軍事理論家である。軍歴では機甲部隊を中心に勤務し、湾岸戦争では第2機甲騎兵連隊に所属して73イースティングの戦いを経験した。この実戦経験は、彼の軍事思想に決定的な影響を与えた。彼の基本的な問題意識は、米軍には世界最高水準の兵器があるのに、なぜ軍隊組織は第二次世界大戦や冷戦時代の構造を引きずっているのかという疑問である。
マグレガーが予測する戦争の結末
ダグラス・マグレガーの発言を追うと、ウクライナ戦争と米国・イスラエル対イラン戦争を、彼は別々の戦争というより、米国が軍事力と経済力の限界を認識しないまま、達成困難な政治目的を追求した二つの戦争として見ている。ただし結末についてはかなり違う。ウクライナについてはロシアの軍事的勝利はほぼ既定路線、イランについては米国・イスラエルがイランを屈服させることに失敗し、消耗した末に政治的出口を探さざるを得ないというのが、現在のマグレガーの基本認識である。
ウクライナ戦争は既に決着している
1.ロシアの勝利は避けられない
マグレガーはかなり以前から、ウクライナにはロシアを軍事的に打倒する能力はなく、米欧の武器供与を増やしても最終的な結果を変えられないと主張してきた。彼の論理は親露・反露というより、彼自身の軍事観に基づいている。戦争では兵器の性能だけでなく、人口、兵員補充、砲弾生産、ミサイル生産、産業基盤、兵站、地理、戦略的縦深が重要である。この条件を比較すれば、長期消耗戦になればなるほどロシアが有利になる、というのが彼の基本判断である。以前からウクライナが失地を回復する見込みは乏しく、最善策は可能な限り早くモスクワと和平を結ぶことだと主張していた。
2.更に悲観的になる
2026年8月18日のグレン・ディーセンとの対談では、マグレガーは更に踏み込んでいる。彼はウクライナの人的資源が枯渇しつつあり、NATO側の兵器在庫も消耗していると評価する。そしてロシア側は、これまで示してきた戦略的忍耐を失いつつあると見る。したがって彼の現在の見方では、ウクライナがどうやって勝つかではなく、ロシアがどこまで進んだところで戦争を終えるかが問題になっている。これは大きな違いである。
3.ウクライナ全土を占領するとは考えていない
しかしマグレガーは、ロシアがウクライナ全土を占領し、ポーランド国境まで進軍することを必然とは考えていない。ロシアにとっても巨大なウクライナ西部を占領・統治する利益は乏しいからである。彼が想定するロシアの戦争目的は、より限定的である。ウクライナをNATOの対露軍事拠点にしないこと、ロシア系住民の多い東部・南部についてロシアに有利な領土的決着をつけること、クリミアを確保すること、そしてロシア国境付近に西側軍事力を恒久配置させないことである。
4.オデーサが重要になる
現在のマグレガーが特に重視しているのがオデーサである。もし戦争が更に長引き、ロシアがウクライナ南部への圧力を強めれば、オデーサの帰属が問題になる。オデーサを失えば、ウクライナは黒海への重要な出口を失う。したがって、彼の論理では、西側が和平を遅らせれば遅らせるほど、ウクライナにとって最終条件が悪化する。2026年8月の対談でもオデーサ、ザポリージャ方面への圧力を重要視している。
5.NATO軍の直接介入には懐疑的
では欧州が直接参戦するのか。マグレガーはかなり懐疑的である。特にポーランドの参加なしに東欧で大規模なNATO地上作戦を実施することは極めて困難である。欧州諸国にもロシアとの全面戦争を戦う政治的・軍事的準備がないと考えている。したがって彼は、NATOとロシアの全面戦争よりも、欧州が最終的に現実を受け入れる可能性の方を高く見る。
6.ウクライナ戦争の最終決着
マグレガーの予測を整理すると、最終的なウクライナは現在より領土を縮小した中立国家になる可能性が高い。クリミアと東部・南部の一定地域についてロシア側の支配が固定化され、ウクライナのNATO加盟は事実上断念される。問題は正式な平和条約が成立するかどうかである。マグレガーは、正式な包括和平がなくても、ロシアが軍事的に目的を達成し、戦線が固定されることで事実上戦争が終わる可能性も考えている。8月の最新対談でも和平協定のないロシアの勝利が一つの論点になっている。彼の予測するウクライナ戦争の結末は、ロシアの完全征服ではなく、ロシアが軍事的優位によって領土とウクライナの中立化を事実上確定させ、西側がそれを覆せなくなるという形である。
イラン戦争で米国は既に敗北した
イラン戦争についてのマグレガーの評価は更に厳しい。2026年9月10日の最新の対談で、彼は米国について既にイランとの戦争に敗れたという趣旨の評価をしている。彼は、イランが主導権を握り、米国の海上封鎖が十分機能せず、中東の米軍基地もイランのミサイル・ISR能力に対して脆弱だと論じている。これは米軍が戦闘で何も破壊できなかったという意味ではない。むしろ逆である。米国・イスラエルにはイランを大規模に破壊する能力がある。しかし、破壊する能力と、相手を政治的に屈服させる能力は別物であるというのがマグレガーの軍事思想である。
1.航空戦だけではイランを降伏させられない
これは戦争開始前から一貫していた。2026年2月、マグレガーはイランとの航空・ミサイル戦争を予測し、米軍にはイランの重要インフラを大量に破壊する能力がある一方、地下・分散配置された巨大なミサイル戦力を完全に封殺できなければ、イランがイスラエルの防空網を圧倒する可能性があり、その場合ホワイトハウスには出口が必要になると警告していた。そして実際に戦争が長期化すると、彼は3月23日にStraits of Hormuz: America’s Gallipoli?と題して、米国の作戦をガリポリ作戦になぞらえるほど厳しく評価した。彼の見方では、米国はイランが早期に屈服するという前提そのものを誤った。
2.ホルムズ海峡が戦争の中心
マグレガーが特に重要視するのがホルムズ海峡である。当初の戦争目的は核問題やイランの体制だった。しかし戦争が長期化すると、ホルムズ海峡の支配が米国の重大な戦略問題になったと彼は見る。2026年7月には、空軍力だけでイランを屈服させることには失敗したという前提に立ち、米国がホルムズ海峡の支配を取り戻せるかどうかを重大問題として論じている。戦術的には多数の目標を破壊していても、戦略目的を達成できなければ勝利ではない。
3.最大の問題は米国側の弾薬消耗
マグレガーはこの戦争を最終的にwar to the last missile(最後のミサイルまでの戦争)になる危険があると表現している。米国とイスラエルには高度なミサイル防衛能力がある。しかし迎撃ミサイルは高価であり、無限には存在しない。イラン側もミサイルを消耗するが、米国側も迎撃弾、巡航ミサイル、精密誘導兵器などを消費する。したがって重要なのはどちらの兵器が優秀かではなく、どちらが相手より長く戦力を再生産できるかという消耗戦になる。国家の産業力と軍事力の関係である。
4.イスラエルについては極めて悲観的
マグレガーの予測で最も大胆なのはイスラエルについてである。2026年9月10日の最新対談では、イスラエルの長期的存続に非常に悲観的な見方を示している。ただし、彼が言っているのはイラン軍がイスラエルを占領するという意味ではない。イスラエルは人口・産業・インフラが狭い地域に集中しているため、長期的なミサイル戦、経済的孤立、人口流出、米国支援の限界が重なると、現在の国家モデルを維持できなくなる可能性がある。
5.米国は地上侵攻できない
理論的には、航空戦で目的を達成できなければ地上戦という選択肢が出てくる。しかしマグレガーはこれを現実的とは見ていない。イランは人口約9,000万人規模、広大で山岳の多い国土を持ち、イラクとは条件が大きく異なる。彼は戦争以前からIran is not Iraqと強調していた。イランを占領するには巨大な地上軍と兵站が必要になる。したがって、空爆では降伏させられない。しかし占領もできない。ここに米国戦略の袋小路があるというのがマグレガーの見方である。
二つの戦争は最後に結びつく
マグレガーの世界観で興味深いのは、ウクライナ戦争とイラン戦争が相互に関係していることである。米国がウクライナへ大量の武器・弾薬を供給すれば、中東へ投入できる在庫が減る。逆にイラン戦争で大量の迎撃ミサイルや精密兵器を消費すれば、ウクライナと欧州へ回せる兵器が減る。更にロシアはイランと戦略的関係を持つため、米国が二つの戦域で同時に消耗する構図になる。実際、2026年には両戦争の軍事的連関が一段と強まったとの分析も出ている。マグレガーから見れば、これは米国が最も避けるべき戦略的過剰拡張である。
マグレガーが予測する最終的な世界
二つの戦争についての彼の予測を突き詰めると、単なるロシア勝利、イラン勝利という話ではなくなる。ウクライナでは、ロシアを軍事的に敗北させるという米欧の目的が失敗する。中東では、イランを空爆によって屈服させるという米・イスラエルの目的が失敗する。その結果、米国は自国が冷戦後に持っていた圧倒的軍事力を背景に、世界各地の政治秩序を変更できるという前提を失う。ロシアはユーラシアの軍事的大国として残り、イランは中東の地域大国として残る。中国は両国との経済関係を強める。マグレガーが見ている本当の結末は、二つの戦争の個別的勝敗以上に、米国一極支配の終焉である。マグレガーの予測を一言で整理するとウクライナについては、ロシアが勝ち、ウクライナは領土を失った中立国家として残る。イランについては、米国・イスラエルはイランを破壊できても屈服させられず、長期消耗戦によって米国自身が戦争継続能力と政治的意思を失い、最終的には交渉による撤収を余儀なくされる。そして二つを合わせれば、マグレガーの予測は、ロシアにもイランにも米国が設定した政治目的を軍事力で強制できず、二つの戦争が米国の軍事・産業・財政的限界を露呈させ、多極世界への移行を決定的にするというものである。
ファランクスを打ち破れ(付記)
Breaking the Phalanx
A New Design for Landpower in the 21st Century
1997年刊
Douglas A. Macgregor著
1.古い軍隊に新兵器を載せても意味がない
本書の中心命題は非常に明快である。情報通信、精密誘導兵器、センサー、コンピューターなどが革命的に進歩しているにもかかわらず、それらを従来型の師団や軍団へ追加するだけでは、本当の軍事革命にはならない。新技術を古い組織へ接ぎ木するだけでは、新技術の潜在力を発揮できない。
2.ファランクスの意味
タイトルのファランクスとは、古代ギリシャの密集歩兵陣形である。ファランクスはある時代には極めて強力だった。しかし環境が変化すると、その巨大で硬直した構造自体が弱点になる。マグレガーはこれを現代米陸軍の比喩として使う。冷戦時代には巨大な師団編制が有効だったとしても、情報化され、高速化され、精密攻撃が可能になった21世紀の戦場では、巨大組織はむしろ意思決定と展開を遅らせる。したがって軍事組織も戦争の変化に合わせて作り直さなければならない。
3.師団から小型統合部隊へ
マグレガーが提案する核心は、従来型の師団をより小さく自己完結的な戦闘組織へ再編することである。戦車、歩兵、砲兵、防空、偵察、工兵、兵站、情報通信などを、より小さな部隊内部に統合する。これによって上級司令部へ逐一指示を求める必要を減らし、現場指揮官が状況を判断して迅速に戦えるようにする。後の米陸軍の旅団戦闘団構想とは同一ではないが、マグレガーの改革論がその後の米軍内部の組織改革論に大きな刺激を与えた。
4.情報こそ新しい戦力
本書が1997年の著作であることを考えると、情報の重要性を強調している点は注目に値する。敵がどこにいるのか。味方がどこにいるのか。どの目標を攻撃すべきか。その情報を誰が持っているのか。そして情報が現場まで何秒で届くのか。これらが戦車や大砲の数と同じほど重要になる。21世紀の軍隊では、兵器を所有すること以上に、センサー、情報、指揮、火力をリアルタイムで結び付ける能力が重要になる。
5.陸軍だけでは戦えない
更にマグレガーは陸軍単独の発想を批判する。陸軍、空軍、海軍を縦割りにして戦わせるのではなく、航空攻撃、地上戦、情報、宇宙、偵察を統合しなければならない。ここには現在の統合領域作戦につながる発想の萌芽が見られる。
6.本書が主張したこと
軍事革命とは新兵器を購入することではない。新兵器と情報技術に合わせて軍隊の組織、指揮、教育、兵站、作戦思想まで作り直すことである。昨日の戦争に最適化された軍隊は、兵器が最新でも明日の戦争では敗北する。マグレガーにとって本当の軍事力とは何を持っているかだけではなく、それをどのような組織で、どの速度で、どれだけ統合して使用できるかである。
砲火の下の軍事変革(付記)
Transformation Under Fire
Revolutionizing How America Fights
2003年刊
Douglas A. Macgregor著
1.何に変革するのか
マグレガーは、変革という言葉だけが先行し、最終的にどのような戦争を、どのような軍隊で戦うのかが曖昧になっていると批判する。改革には目的が必要である。組織を変えること自体が目的なのではなく、将来の戦場でより速く、より少ない損害で政治目的を達成できる軍隊を作ることが目的である。
2.グローバル化時代の戦争
次にマグレガーは誰と戦うのか、どこで戦うのか、どのように戦うのかを問い直す。冷戦期の米軍は、主として欧州でソ連軍と大規模地上戦を行うことを想定していた。しかし冷戦後には戦場が世界各地へ分散する。そこで必要になるのは、大規模な部隊を何か月もかけて移動させる軍隊ではなく、必要な場所へ迅速に展開できる。
3.小さく、速く、多数
巨大な少数部隊より、小型で高速な多数の部隊をネットワーク化した方が、新しい戦場には適しているという発想である。重要なのは単なる小型化ではない。小型部隊それぞれが情報、火力、機動、航空支援、兵站と接続され、必要に応じて瞬時に戦力を集中できなければならない。つまり物理的には分散しながら、戦闘効果としては集中する。
4.Effects Based Operations
マグレガーは兵器数や撃破数だけで軍事力を測る冷戦型の発想にも批判的である。重要なのは、敵を何両破壊したかではなく政治・軍事目的を達成するために、敵のどの能力を無力化すればよいかというEffects Based Operations的な思考である。本書ではコソボや1940年の北アフリカ戦などを材料として、目的と手段を効果によって結びつける考え方を論じている。これは現在のマグレガーの戦争分析を理解する上で重要である。彼が戦況を見る時、何機撃墜した、何発ミサイルを撃ったという数字だけでなく、その軍事行動によって政治目的が達成されたのかを問う。
5.指揮階層を減らせ
マグレガーは巨大な軍事官僚機構にも批判的である。情報技術によって現場と上級司令部が直接つながる時代に、何段階もの指揮階層を残す必要はない。指揮構造のフラット化を明確に提唱している。これは単なる効率化ではない。戦争では数時間、場合によっては数分・数秒の判断の遅れが勝敗を決めるからである。
6.技術より人間と組織
新しい軍隊を作るには新しい装備だけでは不十分であり、現場で自律的に判断できる指揮官が必要である。上からの命令を待つ官僚型軍人ではなく、戦場の変化を理解し、自ら決断できる軍人を育成する必要がある。
7.本書が主張したこと
Breaking the Phalanxが陸軍の組織を変えよという本だったとすればTransformation Under Fireは更に踏み込み、米軍全体の戦い方を変えよという本である。陸・海・空・情報を統合し、小型で高速な部隊をネットワーク化し、指揮階層を減らし、敵の兵力を大量に破壊することではなく政治目的に必要な効果を達成する。そして何より重要なのは、技術革新だけでは軍事革命は起こらない。組織と人間の思考を変革しなければならないという主張である。
勝利を分けるもの(付記)
Margin of Victory
Five Battles that Changed the Face of Modern War
2016年刊
Douglas A. Macgregor著
1.五つの戦い
マグレガーが選んだのは、1914年のモンスの戦い、1937年の上海戦、1944年の白ロシアにおけるソ連赤軍のドイツ中央軍集団撃破(バグラチオン作戦)、1973年の第四次中東戦争におけるスエズ運河方面のイスラエル軍反攻、そして1991年の湾岸戦争における73イースティングの戦いである。一見すると相互に関係のない戦闘である。しかしマグレガーは共通する原理を見いだす。
2.モンス
1914年、英国海外派遣軍はドイツ軍の圧倒的兵力と戦った。マグレガーが注目するのは、単なる兵力数ではなく、訓練、射撃能力、指揮、部隊文化である。優れた軍隊は短期間では作れない。戦争が始まる何年も前にどのような組織と軍人を育てていたかが、開戦時の勝利の余白を決める。
3.上海
1937年の日中戦争における上海戦では、国家の工業力、組織力、軍事力の関係が問題になる。勇敢な兵士だけでは近代戦には勝てない。国家が兵器、弾薬、通信、兵站、教育、指揮官を継続的に供給できなければ、戦場での勇気は国家的勝利につながらない。ここからマグレガーは、軍事力を軍隊だけの問題ではなく、国家全体の科学・産業能力の表現として見る。
4.白ロシア
1944年、ソ連軍はバグラチオン作戦によってドイツ中央軍集団を壊滅させた。マグレガーが重視するのは、1941年に壊滅的敗北を経験したソ連軍が、その後学習し、組織、指揮、火力、機動を改善したことである。強い軍隊とは、最初から失敗しない軍隊ではない。失敗から学習し、敵より速く変化できる軍隊が強い。ここにマグレガーの軍事思想の核心がある。
5.スエズ
第四次中東戦争ではイスラエル軍が開戦初期に大きな衝撃を受けた。しかし戦場の変化へ対応し、最終的にはスエズ運河を渡ってエジプト軍の後方へ進出する。マグレガーはここでも、事前のドクトリンより、現実が予想と違った時に軍隊がどれだけ速く適応できるかを重視する。
6.73イースティング
最後がマグレガー自身の実戦経験である。湾岸戦争における米軍は、M1エイブラムス、ブラッドレー、暗視装置、射撃統制システムなどで大きな技術的優位を持っていた。しかしマグレガーが強調するのは兵器だけではない。兵士の訓練、現場指揮官の判断、情報、部隊間連携、速度が組み合わされたことで、技術的優位が実際の戦闘力へ転換された。
7.勝利は戦争前に作られる
五つの戦闘を結び付ける最も重要な命題がこれである。戦争が始まってから最新兵器を購入しても遅い。軍隊の組織、指揮官教育、産業基盤、技術、戦略文化は何年、何十年もかけて形成される。
8.地理・文化・産業力と軍事戦略
本書は、単なる軍隊改革論から国家戦略論へ到達する。軍事行動は、その国の文化、地理、科学・産業能力と整合していなければ成功しない。更にイデオロギーよりも戦略と地政学の方が戦争の帰結を大きく左右すると考える。これは現在の彼の対外政策論を理解する上で最も重要な部分である。米国が民主主義対権威主義善対悪というイデオロギーで戦争を説明しても、地理、人口、産業力、兵站、弾薬生産力、敵国の戦略文化という物理的現実を無視すれば戦争には勝てない。
9.本書が主張したこと
戦争の勝敗は戦場だけでは決まらない。戦争以前に国家がどのような軍隊を作り、どのような指揮官を育成し、どの程度の産業力を持ち、技術革新へ適応し、そして何より国家戦略と軍事力を一致させていたかによって勝利を分ける。したがって国家にとって最大の危険は、敵より兵器が少ないことだけではない。過去の成功体験に固執し、戦争の変化を認めないことこそ最大の危険である。
