生成AIが変える世界を紐解く INFRA MECHANISM
時代を生き残るための7つの戦略
2026年2月刊
江崎貴裕著
著者の経歴
江崎貴裕は、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授であり、インフォナーヴ株式会社(infonerv)の創業者である。2011年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、2015年に東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了して博士号を取得した。その後、日本学術振興会特別研究員、国立情報学研究所特任研究員、JSTさきがけ研究員、スタンフォード大学客員研究員、東京大学特任講師などを経て、2025年より現職に就いた。2021年には自動発注AIを提供するインフォナーヴ株式会社を設立し、研究と事業の両面からデータサイエンス、数理モデル、物流、情報処理能力の拡張に取り組んでいる。
本書の内容
1.生成AIを知能インフラとして捉える
本書は、生成AIを単なる便利なツールや一時的な技術ブームとしてではなく、人類史上初めて登場した知能を供給するインフラとして捉えている。道路、鉄道、電力、通信、インターネットといったインフラは、それが社会に広がるたびに、人間の行動様式、産業構造、時間感覚、空間認識を変えてきた。本書は、そのような過去のインフラ導入に共通する法則をインフラメカニズムと呼び、それを生成AIに当てはめることで、今後の社会変化を読み解こうとする。本書は歴史上のインフラ事例から導かれる共通法則によって、生成AIがもたらす社会変化を解明する。
2.インフラは人間の行動を変える
本書が重視するのは、インフラは単に効率を上げるだけでなく、人間の行動を変えるという点である。橋ができれば移動が増え、道路が整備されれば都市の広がり方が変わり、電気が普及すれば生活時間が変わり、インターネットが普及すれば情報の受け取り方と人間関係が変わる。同じように、生成AIは文章作成、企画、調査、翻訳、プログラミング、画像生成、意思決定支援などを容易にし、人間の思考と創造のコストを大きく下げる。生成AIは人間の思考コストを下げ、時間や空間の認識、人間関係のあり方などを変容させる。
3.生成AIは仕事の前提を変える
本書では、生成AIによって仕事のあり方が大きく変わることが論じられる。従来のAIは、主に予測、分類、最適化、推薦などを担ってきたが、生成AIは文章、画像、コード、企画、資料、対話、分析の形で、人間の知的作業に入り込む。そのため、専門職、事務職、企画職、研究職、営業職、教育職など、多くの職業が影響を受ける。重要なのは、AIに置き換えられるかどうかだけではない。AIを前提にした仕事の速度、品質、分業、評価基準が変わることで、できる人の定義が変わる。
4.創造性と人間らしさの再定義
生成AIは、文章を書く、絵を描く、音楽を作る、アイデアを出すといった領域にも入り込む。そのため本書は、創造性とは何か、人間らしさとは何かという問題にも踏み込んでいる。かつて創作は人間固有の能力と考えられていたが、生成AIが一定水準の作品を大量に作れるようになると、人間の価値は作業から何を問い、何を選び、どう意味づけるかへ移っていく。生成AI時代には、手を動かす能力よりも、目的を設定し、文脈を読み、価値判断を行う能力が重要になる。
5.インフラを握る者が権力を持つ
本書の重要な論点は、インフラには必ず権力が伴うということである。鉄道を握る者は物流と都市を支配し、電力を握る者は産業活動を支配し、通信網を握る者は情報流通を支配する。同じように、生成AIという知能インフラを握る企業や国家は、社会の意思決定、産業、行政、軍事、安全保障に大きな影響力を持つようになる。
6.七つの戦略としての生存法
副題にある時代を生き残るための7つの戦略は、生成AI時代を単に予測するだけではなく、個人や組織がどのように対応すべきかを考えるための実践的な枠組である。AIを恐れて距離を置くのではなく、知能インフラの性質を理解し、その上で自分の仕事、組織、学習、意思決定を再設計することが求められる。本書は、生成AIを使うか使わないかという表面的な問題ではなく、AIがインフラ化した社会で、どの位置に立つかという構造的な問題として提示している。
本書が言いたかったこと
生成AIの本質は個別のアプリや一時的な流行ではなく、人間の知的活動を支える新しいインフラの登場にある。インフラは普及すると、人間の行動、産業、権力、価値観を静かに、しかし根本から変える。したがって、生成AI時代に必要なのは、目先のツール習得だけではなく、インフラが社会を変える仕組を理解することである。本書は、生成AIを使いこなすための技術書というよりも、生成AIによって変わる世界の構造を読むための地図である。
