弱さを抱えたままでいい
ミシェル・ド・モンテーニュは、よくストア派の思想に影響を受けたと言われる。しかし彼の考えは、ストア派のように感情を抑えて理性を保てと求める堅い人生観とは少し違う。もっと人間らしく、もっと柔らかい。弱さを抱えたままでいいという視点を持っている。
弱さも感情も否定しない
モンテーニュは人間はそもそも弱く揺れ動く存在だと言う。怒るときもあれば怯えるときもある。それは欠点ではなく、人間である証である。だから感情は抑えつけるものではなく、自分の中で何が起きているのかを観察するきっかけである。怒りや不安に気づくことで、自分とは何者かが見えてくる。完璧になろうとせず、まず自分を知ることから始めればいい。
強さではなく自然体を選ぶ
ストア派が目指したのは、感情に左右されず理性的に振る舞う強い人物だった。一方モンテーニュは、人はそんなに強くないと率直に認める。誰もが弱さや迷いを抱える。それを責める必要はない。弱いままでも生きられる道を探せばよい。だから彼の思想は、英雄になるための哲学ではなく、普通の人が日々どう生きれば楽になるかを教えてくれる。
死は克服せずに受け入れればよい
ストア派は死の恐怖を克服しようとしたが、モンテーニュは死を無理に乗り越えようとはしなかった。死を知ることは生を学ぶことである。完全に恐れを消す必要はない。怖い気持ちがあるままでもいい。無理に強くなろうとせず、人間らしい揺れを抱えながら日々を生きていく姿勢が、彼の思想の温かいところだ。
不完全なまま生きていい
結論として、ストア派は理性と強さを重視するが、モンテーニュは理解と受容を重んじた。ストア派は硬い鎧を着て前に進む生き方だとすれば、モンテーニュは鎧を脱ぎ、自然体で歩く生き方である。どちらも立派だが、人間は不完全であるという前提に立つモンテーニュの言葉は、とかく厳しく生きがちな起業家には、丁度いい教えてある。 人は弱いままでいい。不完全でいい。そのままの自分を理解し、許しながら生きればいいのだと。張り詰めた生活を送りがちな起業家は時々この教えに立ち返りたい。
