不滅の産業への投資の重要性
投資の世界では、未来を見通すことこそが成功の鍵だと信じられている。AI、バイオ、量子、新素材など、常に新しい産業が登場し、投資家は次の大波を追いかけようと奔走する。しかし、ウォーレン・バフェットの右腕として半世紀近く世界最高の投資実績を誇ったチャーリー・マンガーは、まったく逆の姿勢を取った。彼は「未来の20年で何が変わるかを当てようとするのは、愚か者のすることだ」と言う。
マンガーの視点は極めてシンプルでありながら、ほとんどの投資家が見落としていると鋭く指摘する。「人は未来の変化に過剰な興味を持ち、変わらないものには関心を払わない。しかし投資で大事なのは、未来の不確実な変化ではなく、確実に変わらないものを見極め、それに賭けることである。それこそが、長期にわたる競争優位と安定したキャッシュフローを生むのである」と。
未来予測は本質的に不可能であり、時として投資家を破滅に導く。技術の進化速度は速まり、新しい領域は競争が激しく、10年後に勝者が誰か、そもそもその企業が残っているかもわからない。スタートアップ企業は毎年無数に生まれるが、多くは消え去り、研究開発の方向性すら予測不能である。マンガーは冷静に言う。「人間社会にとって絶対に必要で、100年後も形を変えずに存続するものを見つけよ」と。
以下ではマンガーが重視した変わらない産業5つ(医療・エネルギー・生活必需品・金融・物量)がなぜ重要であるかを要約するとともに、私がマンガー的視点で変わらずに重要であると信じる2つの産業(鉄鋼・通信)を追加して述べることにする。
私は、マンガーが言うように、資金を安定的に増大させることが投資の要諦であることは否定しないが、自分の資金の極大化にのみ目を向けていたのでは、片手落ちであると思う。変わらない産業であっても絶えず新しい革新に支えられているのであり、資金は新たな可能性に還元されてこそ輝きを増すと私は思う。その意味でマンガー流の変わらない産業への投資を心に留め置きながら、新産業への投資を行うことが大切であると思っている。國井正人
医療
人間のメンテナンス産業(医療・生命維持)
人間は必ず老い、病気になり、身体を維持するためのあらゆるサービスを必要とする。医療、介護、健康管理などへの需要は人類史上消えたことがない。人間が生きる限り必要とされ、たとえ景気が悪化しても医療費が急減することはない。
人間の弱さに関わる産業は永遠である。病気、怪我、老化、衛生の必要性は、どれもAIやロボットがいかに発展しようと消えない根源的なものである。したがって、この領域は長期にわたり安定的な収益を生み、科学技術が進歩しても本質的なニーズが揺らがない。
エネルギー
エネルギーとユーティリティ(電力・ガス・水)
文明とは、結局のところエネルギーの大量消費によって成り立っている。電気、ガス、水道など、現代社会のあらゆる活動はエネルギー供給によって支えられている。AIがどれだけ進化しようとも、量子コンピュータが普及しようとも、それを動かす電力需要はむしろ増加する。
エネルギー産業やユーティリティは、公共性が高く独占あるいは寡占であることが多い。価格や需要が大きく乱高下することは少ない。戦争や不況に強く、政府の規制のもとで安定収益が見込まれる。必需インフラを押さえる企業は、永続的に価値を持つ。これらの産業は投資ポートフォリオの堅牢な柱になる。
生活必需品
反復消費される生活必需品(食品・日常消耗品)
毎日食べ、飲み、洗い、使い切り、買い替える。それが生活必需品である。これらの商品は購買周期が短く、消費が安定していて、景気の波に影響されにくい。食品、飲料、トイレタリー、日用品など、人々は必ずリピート購入する。特にブランド力が強い企業は、おいそれと需要が減退しない。価格転嫁が容易で、物価上昇の局面でも利益を確保できる。
最高のビジネスは、顧客が毎日必要とし、また買いに行かなければならない商品なのである。こうした生活必需品産業は、投資家にとって最強のキャッシュマシーンであり、消費が継続する限り企業価値も成長し続ける。
銀行・保険
銀行・保険(確率と資本が利益を生む構造産業)
銀行と保険は、数学と確率に基づいた収益構造そのものが強い産業である。銀行は預金から利ザヤを取り、保険会社は統計にもとづきリスクを引き受け、数百万件の契約を束ねることで安定利益を生む。資本が集まるほど安定し、規模が大きいほどリスクは分散される。お金に差異がない分、むしろブランドによって選考される。
保険は人類が発明した最高のビジネスモデルの一つである。事故や災害は常に一定の確率で起こり、それを数理的に管理すれば必ず利益が残る。金融・保険は、永続性と堅牢性を同時に持つ稀有な産業である。
物流
物流・インフラ(絶対に必要な裏側の動脈)
人間社会はモノが動くことで成立している。物流、倉庫、鉄道、港湾など、これらは代替困難であり、寡占になりやすく、景気が悪化しても需要は消えない。電子商取引が発展すれば物流の価値はむしろ増す。物理インフラは、人類文明の裏側で血管のように働き、社会全体を支えている。
インフラを持つ者は、文明の基礎を押さえている。資本集約的で参入障壁も高いため、一度構築された事業基盤は長く保持され、安定したキャッシュフローを生み続ける。
鉄鋼
鉄鋼産業(文明の骨格を支える永続インフラ)
鉄鋼は、現代文明を支える骨格そのものである。ビル、橋梁、道路、港湾、鉄道、船舶、自動車、工場、送電網、エネルギー設備。これらすべては鉄鋼なくして成り立たない。鉄は、強度・加工性・コストの総合バランスにおいて、これほど優れた素材は現代の科学技術でも代替し得ない。人類が都市に住み、移動し、生産を続ける限り鉄鋼の需要は消えることがない。
鉄鋼産業はエネルギー産業や建設産業と密接に連動している。再生可能エネルギーが普及しても、巨大な風力タービンや送電鉄塔には大量の鉄が必要であり、EV化や電池工場の建設にも鉄鋼は不可欠である。AIの急速な普及はデータセンターや発電施設の建設を不可欠とし、その大半は鉄によって支えられている。軍需産業においても鉄鋼の需要が占める割合は思いの他高く、鉄は国家安全保障に直結する。
確かに鉄鋼価格は景気循環の影響を受けやすい。しかし、需要そのものは人類の社会構造に根本的に組み込まれており、消滅することはない。鉄鋼はまさに文明の底部で流れ続ける不可欠の血流なのである。鉄鋼は派手ではないが、文明そのものを支え続ける産業であり、その永続性は他の多くの産業を凌駕する。変化の激しい産業を追いかけるより、こうした根源的な素材産業を理解する方がはるかに投資に適している。
通信
通信インフラ(デジタル文明の神経網)
通信インフラは、現代文明の神経網にあたる。かつては電話と電信であったものが、いまや光ファイバー、海底ケーブル、データセンター、基地局ネットワークとして世界中を結びつけている。社会のあらゆる活動は通信によって結ばれ、企業も政府も市民生活も通信システムが停止すれば機能しない。
AI、クラウド、量子通信。どれだけ新技術が発展しようとも、それを支える基礎は常に通信インフラである。むしろ、情報量が指数関数的に増える現代では、通信の重要性は高まり続けており、減少することはない。電力と同様に、通信は止まると社会が崩壊するインフラであり、需要は景気に左右されない。
さらに通信産業は寡占化しやすい。全国的な回線網、基地局網、海底ケーブルを整備するには巨額の資本投下が必要であり、新規参入は極めて困難だ。規模の経済が強く働き、ネットワークを構築した企業は長期間の競争優位を保持する。
人類がデジタル化を進めるほど、通信インフラは空気や水と同じレベルの社会必需となり、需要は減らないどころか、年々増加する。こうした絶対に必要で、独占力を持ち、永続的にキャッシュを生み出す産業は、最も合理的な投資対象である。
