Hundertwasser Architecture
For a More Human Architecture in Harmony with Nature
1997年刊
Friedensreich Hundertwasser著
フンデルトヴァッサーの経歴
フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーは1928年にオーストリアのウィーンで生まれ、画家、環境活動家、建築思想家として20世紀後半に独自の地位を築いた。本名はフリードリヒ・シュトヴァッサーである。彼は近代建築の合理主義や直線的なデザインを激しく批判し、直線は神の創造物ではないという有名な言葉を残した。1950年代から建築論を展開し、窓の権利、樹木の住人、屋上緑化など後に環境建築の重要概念となる思想を提唱した。建築家資格を持たなかったにもかかわらず、1980年代以降は集合住宅、発電所、焼却施設、駅舎、ホテルなど40件以上の建築プロジェクトを実現し、自らを建築の医者と呼んだ。代表作にはフンデルトヴァッサーハウス、ログナー・バート・ブルマウ温泉村、ユルツェン駅などがある。


本書の内容
1.直線文明への反逆
本書の出発点は、20世紀建築が人間を均質化し、自然から切り離したという批判である。フンデルトヴァッサーは近代建築の代表である白い箱型建築や規格化された集合住宅を人間を収容するための機械と見なし、人間の感情や個性を奪う存在であると考えた。特に均一な窓の並ぶ集合住宅を囚人の独房と呼び、人間性の喪失を象徴するものとして批判している。
2.窓の権利という思想
彼の最も有名な概念が窓の権利である。住人は自分の窓の周囲を自由に装飾し、自分らしさを表現する権利を持つべきだと主張した。建築は建築家の作品ではなく、住む人間とともに成長し変化する生命体であるという思想がここに表れている。この考えは、住民参加型建築やコミュニティデザインを先取りするものであった。
3.樹木の住人と屋上の森
本書では樹木を単なる景観要素ではなく住民として扱うべきだと主張している。建物の窓やバルコニーから樹木が成長し、屋上には森が形成されるべきであるという考え方は、今日のグリーンインフラやバイオフィリックデザインの先駆けであった。人間は自然の支配者ではなく、自然の客人として生きるべきだという哲学が貫かれている。
4.足にとってのメロディー
フンデルトヴァッサーは平らな床を否定し、不均一な床は足にとってのメロディーであると語った。本書では波打つ床や傾斜した通路、曲面の壁などを通じて、人間の身体感覚を刺激する建築の必要性を論じている。建築は視覚だけではなく、歩くことや触れることを含めた身体全体の体験であると考えた。
5.実現された建築作品
後半では彼が実際に設計した建築作品が豊富な写真とともに紹介される。ウィーンのフンデルトヴァッサー・ハウス、オーストリアのログナー・バート・ブルマウ温泉ホテル、日本の舞洲工場、ドイツの駅舎や住宅群などが取り上げられる。これらの建築に共通するのは、植物に覆われた屋根、不規則な窓、鮮やかな色彩、そして自然と人工物の境界を曖昧にする造形である。
6.建築の医者という役割
フンデルトヴァッサーは新築を増やすことよりも、既存建築を再生することを重視した。彼は無機質な工場や公共施設に色彩や植物を与えることで、病んだ都市を治療する建築の医者であると考えた。本書には建築を治療行為として捉える独特の思想が色濃く表れている。
本書が言いたかったこと
建築は効率や合理性のために存在するのではなく、人間と自然が共に幸福に生きるための器である。人間を標準化する建築は精神を貧しくし、都市を荒廃させる。一方で、自然の不規則さや多様性を受け入れた建築は、人間の創造性と生命力を回復させる。フンデルトヴァッサーは建築を単なる技術ではなく、生態系の一部であり、芸術であり、社会改革の手段であると考えていた。
