植物の心

The Revolutionary Genius of Plants
A New Understanding of Plant Intelligence and Behavior
2017年刊
Stefano Mancuso著

ステファノ・マンクーゾの経歴

ステファノ・マンクーゾは1965年イタリア・カタンツァーロ生まれの植物学者であり、植物の知覚や情報伝達、環境応答を研究する世界的な第一人者である。フィレンツェ大学教授を務めるとともに、2005年には国際植物神経生物学研究所を創設し、植物が外界を認識し、情報を処理し、環境に適応する仕組を研究してきた。彼は植物神経生物学という新しい研究分野の提唱者として知られる一方、植物に脳があるという意味ではなく、植物には動物とは異なる分散型の情報処理システムが存在すると主張している。その研究は植物学だけでなく、生態学、ロボティクス、人工知能、建築学にも影響を与え、多数の国際的な賞を受賞している。著書には植物は知性をもっている、植物の国、植物の驚異の旅などがあり、植物の世界を一般読者にもわかりやすく紹介する科学コミュニケーターとしても高い評価を受けている。

本書の内容

1.人類中心主義への問い直し

本書は、人間が植物を動かない受動的な生物と見なしてきた固定観念を根本から問い直す。動物は移動能力を獲得したが、植物は移動できない代わりに、周囲の環境を詳細に観察し、それに適応する高度な能力を進化させたと著者は述べる。植物は地球上の生命の大部分を支え、酸素を生み出し、生態系全体の基盤となっているにもかかわらず、人類はその能力を十分理解してこなかった。

2.植物には知性がある

本書でいう知性とは、人間のような思考能力ではなく、環境の変化に応じて最適な行動を選択する能力を意味する。植物は光、水分、重力、湿度、温度、化学物質、振動、電気信号など多数の刺激を同時に感知し、それらを総合して成長方向や代謝を調整する。根は土壌中を探索し、水や栄養分を効率よく見つける経路を選択する。また障害物や競争相手を避けながら成長する能力も持つ。著者は、このような問題解決能力こそ知性の本質であると考えている。

3.植物には脳がなくても情報処理できる

動物では脳が情報処理の中心となるが、植物にはそのような器官は存在しない。その代わり植物では全身に情報処理機能が分散している。葉、茎、根、花、それぞれが独立して環境を認識し、互いに情報交換を行う。特に根の先端は多数の刺激を受け取りながら周囲を探索しており、著者はこれを分散型知能の代表例として紹介する。中央集権型ではなくネットワーク型であることが植物最大の特徴である。

4.植物同士は会話している

植物は揮発性化学物質を放出することによって周囲の植物へ危険を知らせる。昆虫に食害されると防御物質を作るだけでなく、その情報を近隣の植物へ伝達し、他の植物も事前に防御体制へ入ることが知られている。また地下では菌根菌のネットワークを通じて養分や情報をやり取りする場合もあり、一つの森林全体が巨大な情報ネットワークとして機能している可能性が示されている。

5.協力によって生きる植物社会

植物は競争だけではなく共生も得意としている。根には多種多様な細菌や菌類が共生し、それぞれが栄養交換を行っている。マメ科植物は根粒菌と協力して窒素固定を行い、自らだけでなく土壌全体を豊かにする。植物は単独で存在するのではなく、多数の生物とのネットワークによって生命活動を維持している。

6.植物が未来技術を教えてくれる

著者は植物を単なる研究対象としてではなく、未来社会の教師として位置付けている。植物は数億年にわたり極めて少ないエネルギーで持続可能な社会を実現してきた。その分散型ネットワーク、省エネルギー構造、自己修復能力、循環型システムは、人工知能、ロボット工学、建築、都市設計など多くの分野へ応用できる。未来の技術は植物を模倣するバイオミメティクスの方向へ進む可能性が高いと著者は展望している。

7.人類は植物から学ぶべきである

人口増加、環境破壊、資源枯渇など現代社会が抱える課題に対し、人間はこれまで動物的な発想で解決策を考えてきた。しかし植物は何億年もの進化の中で、限られた資源を循環させながら繁栄する方法を既に確立している。植物の進化は、人類が持続可能な文明を築くための重要なヒントになる。

本書が言いたかったこと

知性とは脳を持つことではなく、環境の変化に適応し問題を解決する能力である。植物は動物のように移動することも脳を持つこともないが、その代わり全身に分散した情報処理能力と高度な協調ネットワークを発達させ、数億年にわたり地球環境を支えてきた。人間は文明の発展を自らの知性の成果として誇ってきたが、実際には植物こそが生命維持システムの基盤を築き、持続可能な社会の原型を示している。本書は、人類が植物を支配の対象として見るのではなく、未来社会を設計するための最良の教師として学ぶべき存在であることを強く訴えている。

未来の輪郭