Gaudí Complete Works
1987年刊
Rainer Zerbst著
著者とガウディの経歴
ライナー・ツェルプストはドイツの研究者・評論家であり、ドイツのテュービンゲン大学およびウェールズ大学で文献学を学んだ後、テュービンゲン大学英文学科に所属し、1982年に博士号を取得した。その後は美術、文学、演劇評論の分野で活動し、とりわけ建築史と建築家研究において高い評価を受けている。彼の著作は、建築を単なる造形としてではなく、その背後にある思想や文化、社会背景を含めて読み解く点に特徴がある。
ガウディは1852年にカタルーニャ地方で生まれ、バルセロナ建築学校を卒業した後、スペインのモデルニスモ建築を代表する建築家となった。彼は自然界の形態や幾何学、カトリック信仰、カタルーニャ民族主義を独自に融合させ、他に類例を見ない建築世界を築き上げた。1926年、路面電車事故によって死去したが、その建築思想は21世紀においてもなお強い影響力を持ち続けている。
本書の内容
1.建築に生涯を捧げた人物
本書はまず、ガウディの生涯を辿りながら、その人格の複雑さを描き出す。若き日のガウディは社交界に出入りする洒落者であり、政治的にはカタルーニャ民族主義にも共感していた。しかし晩年になるにつれ宗教的献身を深め、人生の全てをサグラダ・ファミリアの建設に注ぎ込むようになった。本書は、この劇的な精神的変化が作品世界にどのように反映されたかを追跡している。

2.東洋趣味とイスラム建築の影響
初期作品であるカサ・ビセンスやエル・カプリチョにおいて、ガウディはイスラム建築や中東建築の装飾性を積極的に取り入れている。本書は、幾何学模様や色彩豊かなタイル装飾がどのようにスペイン南部のムデハル様式やオリエンタリズムと結びついていたかを解説する。ガウディは単なる模倣ではなく、それらを独自の建築言語へと変換していった。


3.自然の法則を建築化する
本書の中心テーマは、ガウディの建築が自然模倣ではなく自然法則の応用であったという点である。樹木の枝分かれ構造、蜂の巣、骨格、貝殻、波の曲線などが、柱、梁、天井、ファサードへと変換されていく過程が詳細な図面や写真を通して説明される。サグラダ・ファミリアの傾斜柱や双曲放物面構造は、自然界の力学を建築へ移植した試みとして分析されている。

4.構造技術者としてのガウディ
一般に装飾建築家として語られることの多いガウディであるが、本書は彼を優れた構造技術者として再評価する。逆さ吊り模型を用いた荷重計算や、カテナリー曲線による構造解析など、当時としては極めて先進的な技術が紹介される。ガウディの革新性は奇抜な外観ではなく、合理的な構造原理に支えられていた。

5.都市バルセロナとの関係
ガウディ建築は単体の建築作品ではなく、バルセロナという都市を形成する要素であった。本書はグエル公園や住宅建築群を通じて、ガウディが都市景観全体を芸術作品として構想していたことを示している。彼の建築は都市計画、景観設計、工芸、家具、照明にまで及ぶ総合芸術であった。
6.未完の建築という思想
本書の終盤では、サグラダ・ファミリアをはじめとする未完の計画が取り上げられる。ガウディにとって建築とは完成された静的な物体ではなく、世代を超えて成長し続ける生命体であった。本書は、この未完性こそがガウディ建築の本質であると論じている。
本書が言いたかったこと
ガウディは奇抜な装飾建築家ではなく、自然科学、宗教、構造工学、都市計画、工芸を統合した総合的創造者であった。彼の建築は感性だけによって生み出されたものではなく、自然界の秩序を読み解き、それを石や鉄や光によって再構築する試みであった。ガウディの作品が一世紀を経てもなお未来的に見えるのは、流行を追ったからではなく、自然という普遍的原理を建築の基礎に置いたからである。
