世界金融インフラの中枢と地殻変動

目次

FRB

1.国家を操る究極の装置

FRB(連邦準備制度理事会)は、1913年に米国議会によって制定された連邦準備法(Federal Reserve Act)に基づき設立された。形式上は公的制度であるが、その内実は政府権力と民間金融資本を意図的に融合させたハイブリッド機関である。FRBは世界基軸通貨ドルの発行権を掌握し、金利・信用創造・流動性供給を通じて、事実上、世界金融の拍動を制御している。

2.金融恐慌の活用

直接の契機は1907年の金融恐慌である。信託銀行の連鎖破綻により、米国金融システムは崩壊寸前に追い込まれた。このとき国家は何もできなかった。代わって市場を救済したのが、投資銀行家J. P. Morganである。彼はここぞとばかり私財と私的信用を動員し、主要銀行を集め、事実上の中央銀行として振る舞った。この事態は、米国支配層に一つの結論を突きつけた。中央銀行なき国家は、近代金融において主権を失う。

3.制度は密室で設計される

1910年、ジョージア州沖のジキル島において、非公式かつ極秘の会合が開かれた。参加者は以下の通りである。
Paul Warburg(制度設計の知性)
Nelson Aldrich(上院金融委員長)
Frank Vanderlip(National City銀行頭取)
Henry Davison(J.P.モルガン パートナー)
彼らの共通理解は明確だった。中央銀行は政治から距離を取りつつ、民間金融の論理を制度化しなければならない。FRBは民間銀行に所有されていると誤解されがちだが、実態はより巧妙である。政府の主権と民間金融の専門性を曖昧に重ね合わせることで、柔軟かつ強靭な覇権装置を作り上げた。この曖昧さこそが、ドル覇権の実態を表している。

BIS

1.国家を超える銀行家の聖域

BIS(Bank for International Settlements)は1930年、スイス・バーゼルに設立された。名目上は第一次世界大戦後のドイツ賠償金管理機関である。しかし、真の目的は別にあった。国家間政治を超えて、中央銀行家同士が直接協調する常設空間を作ることである。

2.創設者たちの共通認識

BIS設立を主導した三人は、いずれも国家よりも金融の持続性を重視した人物であった。
Hjalmar Schacht(ドイツ帝国銀行総裁)
Montagu Norman(イングランド銀行総裁)
Benjamin Strong(NY連銀総裁)
彼らの本音は民主政治は感情で動き、戦争とインフレで金融を破壊する。だからこそ、政治の外側に金融の理性を隔離する必要があった。

3.BISの正体

BISはしばしば非民主的、ディープステート的と批判される。しかし実態は必ずしもそうとは言えない。BISとは、国家が感情で金融を壊さないための最後の安全弁である。バーゼル規制に象徴されるように、BISは資金を直接動かさない。ルールを設計することで、全世界の金融行動を規定する。BISとは世界金融の憲法草案を書く場所であるとされる。ただ日本の銀行が拡大し、欧米銀行を凌ぐようになった時のBISの対応を見ていると、欧米銀行優位のルールを規定しているのは明らかである。

4.日本という例外

日本銀行は、1930年に設立されたBISに、創設初期から参加している中央銀行である。日本はドイツ賠償問題に直接関与していなかったにもかかわらず、BIS設立時から関与を許された数少ない非欧州国であり、当時すでに主要金融国として認識されていたことが分かる。しかし、日本銀行のBISにおける立場は一貫して秩序の受容者であった。BISは、英・独・米の中央銀行総裁たちが主導し、国家の政治から金融を切り離すという強い思想の下で設計された。日本銀行はこの思想を拒否せず、忠実に学び、実務的に適応する側に回った。戦後、この関係はさらに明確になる。日本銀行は、為替の安定、金融システムの健全性、インフレ抑制を最優先するBIS的優等生として振る舞い、バーゼル規制の遵守、国際金融協調において高い評価を受けた。一方で、制度を主導的に設計し、世界に押し出す役割は担わなかった。言い換えれば、日本銀行はBISの中枢の思想を共有したが、覇権の意志は持たなかった(持てなかった)。

ユーロクリア

1. 証券を支配する者

ユーロクリア(Euroclear)は1968年、国境を越える証券決済の混乱を解消するために誕生した。ユーロドル市場の爆発的拡大により、誰が、どの国の証券を最終的に保有しているのかが不明瞭になったことが背景である。

2.J.P.モルガンの実務的支配

事実上の創設主体はJ.P. Morganである。
当初ユーロクリアは同行の内部決済システムとして運用され、その後独立法人化した。欧州主要銀行(BNP、ドイツ銀行、INGなど)と各国中央銀行の黙認がこれを支えた。ユーロクリアが握るのは金利でも通貨でもない。証券の最終的な所有を確定する権限である。

3.ロシア資産凍結が示した現実

ロシア中央銀行資産の凍結は、世界に冷酷な事実を突きつけた。証券の所有は、最終的に西側インフラに握られている。ユーロクリアは、もはや中立的インフラではない。それは証券版SWIFTであり、金融制裁の最前線である。

SWIFT

1. 金融の神経網

SWIFTは1973年、ベルギーに設立された国際銀行間通信協会である。SWIFTは送金を実行しない。しかし、送金指示が通らなければ、金は動かない。いわば金は動かさず命令だけを通す装置である。

2.創設背景と実質的支配

設立の背景には、米国主導のテレックス通信に対する欧州銀行の不満があった。創設メンバーは15か国239行であるが、中核は以下である。
米国系J.P. Morgan(Citibank)
英国系Barclays(HSBC)
欧州系Deutsche銀行(BNP)
名目上は中立協同組合である。しかし2000年代以降、対テロ戦争と制裁政策により、米国金融当局の影響力は決定的となった。SWIFTから排除されるとは、現代における国際金融からの事実上の追放を意味する。

金融インフラの相互関係

FRB、BIS、Euroclear、SWIFT。これらは陰謀でも秘密結社でもない。戦争、恐慌、国家破綻という現実の失敗が生んだ制度の集合体である。創設者たちは世襲資本家ではなく、危機対応の金融テクノクラートであったが、明らかに欧米の特定金融エリートが創設したのは紛れもない事実である。彼らは理想ではなく、破綻の記憶から制度を作ったが、その危機は彼らに国際金融支配の仕組みをもたらした。

1.設立順(世界金融インフラの年代軸)

1913年FRB
基軸通貨ドルを供給する世界流動性の心臓
1930年BIS

中央銀行同士を束ねる最上位の調整機関
1968年Euroclear

国債・証券の所有と決済を握る装置
1973年SWIFT

国際送金メッセージを独占する神経網

2各機関の役割と誕生背景

【FRB】BIS思想をドルという実体で世界に流す装置である。FRBは1907年恐慌を受けて1913年に創設されたが、真に世界的な力を持つのは第二次世界大戦後である。ブレトンウッズ体制により、ドルは基軸通貨、決済通貨、準備通貨の三位一体を担うことになった。FRBはBISの下部機関ではない。しかし実態としては、BISが設計する金融安定思想を、FRBがドル供給という現実行為で実装という分業関係が成立した。FRBはBIS思想を、ドルという血液として世界に循環させる心臓である。

【BIS】世界金融秩序の「設計思想」を司る中枢である。BISは、第一次世界大戦後のドイツ賠償金管理を名目として設立されたが、真の目的は国家政治から切り離された中央銀行同士の常設協議機関を作ることであった。ここで初めて、国家(政府)、通貨、金融規制を超国家的に調整する思想が制度化された。BISは資金を大量に動かす機関ではない。しかし、ルール(自己資本規制・流動性規制・危機対応原則)を作ることで、全世界の金融行動を規定する。BISは世界金融の憲法草案を書く場所である。

【Euroclear】国家を超えて資産の所有を確定する装置である。1960年代、ユーロドル市場の拡大により、どの国の、誰が、どの国債・証券を持っているのかが分からなくなる危機が生じた。この混乱を収束させるため、J.P. Morgan主導で作られたのがEuroclearである。Euroclearは銀行でも中央銀行でもない。しかし、国債、社債、株式の最終的な帳簿上の所有者を確定する権限を持つ。これは事実上、戦争を使わずに国家資産を凍結できる力を意味する。FRBが通貨を、BISが規律を支配するなら、Euroclearは金融資本の物的実在(証券)を支配する。

【SWIFT】世界金融を結ぶ神経網である。SWIFTは送金を実行しない。しかし、送金指示が通らなければ金は動かない。SWIFTは、米国主導のTelex通信からの脱却、国際銀行業務の標準化を目的に、米欧銀行の協同組合として設立された。だが2000年代以降、対テロ戦争、経済制裁を通じて、SWIFTは完全に地政学装置となった。SWIFTは命令が届くかどうかを決める世界金融の神経系である。

3.相互関係の全体像

これら4機関は上下関係ではなく、機能分化した一つのシステムを形成している。これを一言で表せば、BISが設計し、FRBが動かし、Euroclearが固定し、SWIFTが連結するという構造である。世界金融を仕切っているのは、特定の一族、単一国家ではない。それは、20世紀の戦争と恐慌の失敗から生まれた制度の集合体であり、その中核を成すのがBIS・FRB・Euroclear・SWIFTである。

BRICS台頭の影響

1.BRICS台頭の影響(要約)

BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)台頭が与える影響の骨格は以下の通りである。世界金融は、崩壊ではなく、多文明・多回路の共存構造へ移行していく。BRICSの台頭は、既存の世界金融秩序を破壊しない。しかし、誰もがそこを通らねばならないという強制力を確実に削ぐ。それは革命ではない。制度疲労に対する現実的な回避行動の集積である。世界金融は今、単一覇権の安定から多層秩序の不安定だが柔軟な均衡へ移行している。BRICSは、その移行を早めた触媒にすぎない。だが、その影響は不可逆的である。FRBは唯一ではないが最大の心臓として残存し。BISは単一秩序設計者から分裂世界の互換調停者となり、Euroclearは中立インフラから地政学インフラとなり、SWIFTは世界共通神経網から高信頼圏の神経網となる。

2.世界金融は反覇権から多層秩序へ

BRICSの台頭は、しばしば脱ドル。反米、既存秩序への挑戦といった言葉で語られる。しかし、この理解は表面的である。BRICSが実際に行っているのは、覇権への正面衝突ではなく、覇権装置の不可避性を削ぐ行為である。BRICSとは、イデオロギー共同体ではない。軍事同盟でもなければ、統一通貨圏でもなく、価値観を共有する陣営でもない。それは制裁・金融遮断・政治的恣意性に対する共通の恐怖によって緩く結束した、極めて現実主義的な国家群である。彼らの問いは単純である。西側の金融インフラを使い続ける限り、我々の国家資産は常に人質に取られるのではないかという問いこそが、BRICS台頭のすべての出発点である。

3.BRICSの戦略原理

BRICSは、FRB、BIS、Euroclear、SWIFTといった既存の世界金融中枢を、正面から破壊しようとしている訳ではない。なぜなら、それは自殺行為だからである。これらは、単なる支配装置ではない。それらは世界貿易・資本市場・準備資産を成立させている基盤であり、破壊すれば自国も巻き込まれる。そこでBRICSが選んだ戦略は、制度は壊さないが、依存度を下げる。唯一の通路を、複数の通路に分解する。これは革命ではなく、冗長化の構築である。

4.SWIFTへの影響

排除できる力は使われすぎた瞬間に弱体化する。SWIFTは送金網ではない。銀行間の金融メッセージ標準を独占する神経網である。SWIFTから排除されるということは、金がないことではなく、命令が届かないことを意味する。ロシア排除以降、BRICS諸国が理解したのは次の現実である。SWIFTは中立的インフラではない。政治的判断で遮断されうる条件付き通路である。そこで彼らが取った行動は、SWIFTを倒すことではなく、SWIFTを使わない取引領域を増やすことであった。二国間貿易における自国通貨決済の拡大であり、中国のCIPS・ロシアのSPFSなど代替通信網の拡大であり、地域内決済・相殺取引の拡大である。これによりSWIFTは消えないが、世界共通神経網から西側・高信頼圏の神経網へと性格を変える。SWIFTは今後も強い。だが唯一ではなくなる。

5.ユーロクリアへの影響

BRICSが最も恐れているのは証券の最終記帳権である。BRICS諸国にとって、最も衝撃的だったのは通貨ではない。証券が凍結されたことである。ユーロクリアが握っているのは、金利でも為替でもなく、誰が最終的にその資産を所有しているかを確定する帳簿である。これは、軍事力を使わずに国家資産を拘束できる力を意味する。この事実は、非西側諸国に次の結論をもたらした。外貨準備や国富を、西側インフラの最終保管に置き続けることは、国家安全保障上の致命的リスクである。その結果として起きているのが、外貨準備の金(ゴールド)比率上昇、米欧証券保有の相対的低下、友好圏での保管・決済志向である。ユーロクリアは消えない。しかし、不可避の最終保管庫という神話は剥がれ落ちた。

6.BISへの影響

BISは、BRICSと対立する存在ではない。むしろBISの思想である政治から金融を切り離し恐慌を防ぐという思想は、BRICS諸国の中央銀行にも共有されている。事実、BRICS諸国の中央銀行はBISの会合に参加し、バーゼル規制、金融安定原則、決済安全性の議論からは離脱していない。変わるのは役割である。BISはこれまで、単一の世界金融秩序の設計者であった。しかし今後は、複数ブロックが併存する世界で、最低限の互換性を保つ調停者となる。BISは支配力を失うのではない。絶対性を失い、必要不可欠性だけが残る。BISは敵ではなく分裂世界の調整者となる。

7.FRBとドル覇権への影響

BRICSはドルを倒せない。これは現実である。基軸通貨には、巨大で流動的な国債市場、法の支配と資本移動の自由、危機時の最後の貸し手機能が不可欠であり、BRICSは集合体としてこれを提供できない。しかし、ここで重要なのは別の点である。基軸通貨は一つでなければならない、という前提そのものが崩れ始めている。BRICSの動きは、ドルを使わない取引の増加、ドル建て債務の相対的縮小、複数通貨による資金調達の併存を通じて、FRBの政策が世界に伝播する力を鈍らせる。皮肉なことに、短期的にはドルは依然として使われ、FRBは最大の流動性供給者として残る。だがもはや唯一の心臓はない。

8.BRICSが本当に変えるもの

BRICSが世界金融に与える最大の影響は、共通通貨でも、反米宣言でもない。それは、金融インフラは単一であるべきであるという20世紀的前提が崩壊し、その外側に、BRICS型決済網、地域金融、ステーブルコイン経済圏が重層的に併存することになる。

ステーブルコインの台頭がもたらす世界

1.ステーブルコインの台頭

ステーブルコインの台頭は、しばしば中央銀行を不要にする革命、ドル覇権への挑戦と語られる。しかし、ステーブルコインは、国家を倒す武器でも、通貨主権を奪う陰謀でもない。その本質は既存の通貨を、既存の金融インフラを通さずに使えるようにした技術である。すなわち、ステーブルコインは通貨の代替ではなく、通貨の流通経路そのものを迂回する装置である。ステーブルコインは金融覇権を倒すのではなく、制度の外側から侵食する点が重要な視点である。ステーブルコインは、FRBを倒さない。SWIFTを消さない。ユーロクリアを即座に無効化しない。しかし、それらを通らずに成立する金融層を確実に拡張する。結果として世界金融は、国家通貨(中央銀行)、規制金融(銀行・資本市場)、民間貨幣(ステーブルコイン)が重層的に併存する構造へ移行する。これは混乱でも、覇権の終焉でもない。それは、金融が再び技術と制度に分解される過程である。そしてこの変化は、不可逆的である。

2.ステーブルコインは何を破壊するのか

主要ステーブルコイン(USDT・USDC等)は法定通貨、とりわけドルに価値を連動させることで成立している。ステーブルコインはドルの敵ではない。むしろドルを最も使いやすくした存在である。ステーブルコインが破壊しないものは、FRBの通貨発行権、国家の法定通貨制度、国債市場という金融覇権中枢である。一方で、確実に侵食している領域がある。それは金融インフラの中間層である。ステーブルコインは。国際送金、銀行決済、為替決済の時間的制約、中央集権的な決済ゲートキーパーを破壊する。

3.SWIFTへの影響

SWIFTは、送金を実行しない。しかし、銀行間の送金指示という命令言語を独占することで、世界金融の神経網として君臨してきた。ステーブルコインは、この前提を破壊する。神経網は初めて実質的な競争に晒された。ステーブルコインは、銀行を介さず、メッセージ標準を必要とせず、24時間365日即時決済が可能になり、国境を概念的に消去した。これにより、送金=銀行+SWIFTという前提が初めて崩れた。重要なのは、ステーブルコインがSWIFTを排除したのではない点である。SWIFTを通らない取引が普通に成立する世界を作ったことが決定的なのである。結果としてSWIFTは、高額・高信頼・規制金融(資本市場、国際銀行業務)に残り、新興国貿易、個人間送金、制裁リスク取引では相対的に空洞化する。つまり、唯一の神経網から、特定圏域の神経網へと格下げされる。

4.FRBとドル覇権への影響

FRBに対する影響は、直感と逆である。短期的影響としてドル覇権はむしろ強化される。主要ステーブルコインの大半はドル連動であり、USDT(発行体Tether)やUSDC(発行体Circle)はいずれも、ドルを世界中に拡散する私設配管として機能している。銀行口座を持たない地域、制裁リスク国、資本規制国でもドルが事実上使えるようになった。これは、FRBが一切関与せずに、ドル利用圏だけが拡張する現象である。長期的影響としてFRBの統制力は確実に低下する。FRBが制御できない場所でドルが流通することは、マネーロンダリング管理、金融引締めの伝播、制裁の実効性を徐々に弱める。つまり、ドルは使われ続けるが、完全には支配できなくなる。ドルは基軸通貨であり続ける可能性が高いが、命令に従うドルから勝手に使われるドルへ変質する。

5.ユーロクリアへの影響

ユーロクリアは、国債・社債・株式という証券の最終保管・最終記帳を支配してきた。ステーブルコインは、短期的にはこの中枢を脅かさない。理由は明確である。国債は依然として国家の法制度に依存する。また大口資本は規制・信用・清算制度を必要とする。しかし、トークン化(RWA現実資産のブロックチェーン化)が進めば話は変わる。長期的には構造変化が起きる。トークン化国債、オンチェーン株式、スマートコントラクト清算が本格化すれば、証券=ユーロクリアという前提は揺らぐ。ユーロクリアは今後、トークン資産の最終清算機関へ進化するか、影響力を部分的に失うかの二択を迫られる。

6.BISの立ち位置

BISは、ステーブルコインを敵視していない。その理由は単純である。禁止しても止まらない技術は、制度の中に囲い込む方が合理的だからである。BISが進める方向性は、ステーブルコインの準銀行化、準備資産・償還構造の透明化、CBDCとの接続である。すなわち、民間の利便性を、国家通貨の枠内に吸収する戦略である。BISは支配を失うのではなく、支配の方法を変える。

7.ステーブルコインが本当に変えるもの

ステーブルコインが最も深く侵食しているのは、技術でも通貨でもない。それは、20世紀型の金融観そのものである。金融とは、国家が通貨を発行し、銀行が仲介し、国際機関が接続するという前提である。ステーブルコインはこれを壊した。通貨はソフトウェアとして実装でき、信用はコードと担保で分割でき国境はUX上の障害に過ぎないという思想転換をもたらすことである。

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