1.EMP対策の重要性
2.EMPの影響
3.EMP存続計画
4.EMP存続計画の戦略的焦点
はじめに-EMP(電磁パルス攻撃)対策の重要性
本論はイスラエル国防軍サイバー司令官を務めた元准将であるヤロン・ローゼン(Yaron Rosen)が、自らの経験と知見をもとに、日本国内の防衛施設を中心とした重要インフラをEMP(電磁パルス攻撃)からいかにして守り抜くかを、包括的・実践的に述べたものである。2019年2月に防衛施設学会に発表されたものを要約したものである。本論は防衛施設を中心に述べているが、発電施設や空港等その他重要な施設についても同様に役立つ視座を提供している。
核攻撃に備えEMP対処など戦略的に国防軍の増強と国家の強靭化を図っているイスラエルの実践的経験とノウハウは、潜在的核攻撃の脅威に曝されている日本に極めて有益である。EMPにいかにして日本が対処するべきかを、イスラエルでの実践的経験を日本に当てはめ、具体的ロードマップ、組織の構築の仕方、留意すべき点等が国家的見地に立ちながらも、現実的に述べられている。EMPへの対処は宇宙サイバー領域での防衛能力を向上させ上でも欠かすことができない視点である。
またEMPへの対処の具体例として突破的破壊的攻撃への防御策としてホワイトハッカーグループの育成が不可欠である等、実践的経験者ならではの貴重な視点を提示している。本論ではEMP対処をテーマとして主に防衛能力の維持・変革を述べているが、その着目点とアプローチは日本の国家防衛能力の強化と強靭化をいかに成すべきかの英知に富んでいる。
イスラエルのEMP対策知見
イスラエルの極めて危険な地政的状況は、様々な側面でイスラエルの防衛力を強化させてきた。イランからの核の脅威は、その性質上最も深刻なものである。数十年にわたる核の脅威は、イスラエルの防衛力を戦略的に増強させ、インフラのEMP(電磁パルス)対策も構築されてきた。現在EMPの分野においてイスラエルは世界トップクラスの知識と経験を蓄積させている。日本の戦略的な国家の脅威の展望はイスラエルのそれと酷似している。日本は北朝鮮から、そして潜在的には中国とロシアからの核の脅威を有している。日本は電磁パルス攻撃や核兵器攻撃などに起因する壊滅的なシナリオが生起した場合においても、強固で持続可能な自衛力を保持するために、独自の国防能力が求められている。
イスラエルの経験から学び、センシティブなチャンネルを通じて情報の交流を図ることにより、防衛省・自衛隊にはイスラエルの数十年に及ぶ知見の提供を受けることができるであろう。それは全体的な予算支出を低く抑えながら、効果的な実施を可能にすることでもある。
壊滅的シナリオ下においても、重要なインフラが持続可能で継続的に運用できるように日本の防御力をグレードアップするためには、大規模な複数年の国家プロジェクト相応の対応が不可欠である。このような計画を実現するには、非常に高度で独特なEMPの専門知識、エンジニアリングの能力と経験、そして組織プロセスとサイバートレーニングのノウハウが必要である。本論では、高高度電磁波攻撃があった場合に、国家全体としての防衛の最も重要な部分として、デジタル施設、コンピュータ通信システムからなる重要なサイバー領域のインフラ保護における防衛省・自衛隊の役割に焦点を当てて述べる。本論では、脅威の影響と攻撃下での高高度電磁波攻撃HEMP存続計画の骨子、および当該計画を実行する際の戦略的論点(戦略的優先度、運用の成熟度、研修およびトレーニングなど)について述べる。