チョークポイント

Chokepoints
2025年刊
Edward Fishman著

著者エドワード・フィッシュマンの経歴

エドワード・フィッシュマンはアメリカの外交・安全保障研究者であり、経済制裁と地政学を専門とする政策実務家である。イェール大学を卒業後、スタンフォード大学で国際政策を学び、オバマ政権下では国務省政策企画室や国防総省で勤務した。特にイラン核問題やロシア制裁政策の立案に関与し、経済制裁を外交手段として運用する現場を経験した。その後は米国の有力シンクタンクやコロンビア大学などで研究活動を行い、外交と金融、テクノロジー、安全保障を統合的に研究している。本書は、こうした実務経験を基礎として執筆され、2025年のニューヨーク・タイムズのベストセラーとなり、フィナンシャル・タイムズやエコノミストの年間優秀書にも選ばれた。

本書の内容

1.グローバル経済は新たな戦場になった

本書の中心的な主張は、21世紀の大国間競争において、軍事力に代わって経済力が主要な武器となったという点にある。かつて戦争は軍隊や艦隊によって行われたが、現在では金融システムや半導体技術、海運、エネルギー供給網などを支配することによって相手国に圧力をかけることが可能になった。

2.ドル覇権と金融制裁の誕生

9.11同時多発テロ以降、アメリカはドル決済網やSWIFTを利用して金融制裁を高度化させた。イランの核開発問題に対しては、銀行取引を遮断することで経済的圧力を強め、軍事衝突を回避しながら政策変更を迫った。フィッシュマンはこの成功体験が、経済戦争という新たな戦略を確立したと述べる。

3.ロシア制裁と経済兵器の進化

2014年のクリミア併合以降、ロシアに対する制裁は更に強化された。2022年のウクライナ侵攻後には、外貨準備凍結や先端技術輸出規制など、かつてない規模の経済戦争が展開された。本書はその政策立案の舞台裏を描きながら、経済制裁が現代の戦略兵器になった過程を詳述している。

4.半導体とテクノロジー覇権

アメリカは中国の先端技術発展を抑制するため、半導体製造装置やAI用チップの輸出規制を進めている。台湾のTSMC、オランダのASML、日本の半導体材料企業など、同盟国を巻き込んだ技術支配網が形成されている。フィッシュマンは、これらの技術的優位がアメリカの新しいチョークポイントであると説明する。

5.経済戦争が招く世界の分断

しかし、経済兵器の乱用は永続的な優位を保証するものではない。中国やロシアはドル依存から脱却し、独自の決済システムやサプライチェーンを構築し始めている。アメリカが優位を行使するほど、世界経済は分断され、グローバル化が変質していくと著者は警告している。

本書が言いたかったこと

21世紀の国際政治は軍事力だけで決まる時代ではなくなり、金融、半導体、エネルギー、物流などの支配こそが国家間競争の核心になった。アメリカはドルや先端技術という巨大な優位を利用して経済戦争を展開してきたが、その成功は永遠ではない。経済的相互依存を武器として利用するほど、対抗勢力は代替システムを構築し、世界経済は複数の陣営へと分裂していく。フィッシュマンは、経済と安全保障が不可分となった現代において、国家も企業も地政学的な視点なしには生き残れない時代に入ったことを訴えている。

未来の輪郭