ラ・ペドレラ カサ・ミラ

La Pedrera
Casa Milà
2002年刊
Josep Maria Carandell著

著者とガウディの経歴

ジョセップ・マリア・カランデル(1934−2003年)は、バルセロナ生まれの哲学者、ジャーナリスト、作家であり、ドイツ文化研究や都市文化論、カタルーニャ文化研究で知られる。バルセロナ、ハンブルク、ミュンヘンで哲学を学び、新聞やラジオ、テレビなど多くのメディアで活動した。特にバルセロナとガウディ研究に深い関心を持ち、多数の著作を通じてカタルーニャ・モデルニスモ建築の魅力を世界へ紹介した。

ガウディは、1852年にカタルーニャ地方に生まれた建築家であり、自然界の有機的形態と宗教的象徴性を融合させた独自の建築思想によって世界建築史に大きな影響を与えた。彼はカタルーニャ・モデルニスモ運動を代表する建築家として知られ、晩年にはサグラダ・ファミリア聖堂の建設に人生を捧げた。1906年から1912年にかけて建設されたカサ・ミラは、彼が設計した最後の大規模民間住宅であり、成熟した建築思想の集大成として位置づけられている。

カサ・ミラ
カサ・ミラ全景
カサ・ミラ内部
カサ・ミラ内装

本書の内容

1.石の波としてのファサード

本書はまず、建物の外観を形成する波打つ石造ファサードの分析から始まる。カランデルは、この建築が単なる集合住宅ではなく、海岸の断崖や浸食された岩山を思わせる巨大な自然物として構想されたことを指摘する。直線を拒絶した曲面の連続は、建築を人工物ではなく自然の延長として捉えるガウディの思想を象徴している。

2.構造革命としての住宅建築

続いて本書は、カサ・ミラが20世紀建築に先駆けた技術的革新を持っていたことを説明する。自立式石造ファサードと鉄骨構造の採用により内部の壁は自由に配置でき、各住戸は用途に応じて柔軟に変更可能となった。この構造は後の近代建築の自由平面概念を先取りしていた。更に地下駐車場の設置や自然換気システムなど、当時としては驚くほど先進的な設備も紹介される。

3.光と風の建築

本書の中心的テーマの一つが、中庭による採光と通風の設計思想である。二つの大きな楕円形の中庭は建物全体に自然光を届けるだけでなく、住民同士を結び付ける共有空間として機能していた。カランデルはこれを都市住宅の内部に作られた人工の広場と表現し、ガウディが集合住宅を一つの小宇宙として設計したことを強調している。

4.屋上という神話劇場

本書で最も独創的なのは、屋上空間に対する解釈である。著者は煙突や換気塔を単なる設備ではなく、宗教劇や宇宙創世神話の登場人物として読み解く。甲冑を被った戦士のような煙突群は生命の誕生や人類の歴史を象徴しており、屋上全体が巨大な舞台装置として構成されている。この象徴的解釈は後のガウディ研究にも大きな影響を与えた。

5.嘲笑から世界遺産へ

最後に本書は、完成当初のバルセロナ市民がこの建物を採石場を意味するラ・ペドレラと呼び嘲笑していた歴史を紹介する。しかし20世紀後半になると評価は逆転し、やがて世界建築史を代表する作品として認識されるようになった。カランデルはこの変化を、社会が新しい芸術を理解するまでに必要な時間の象徴として描いている。

本書が言いたかったこと

カサ・ミラは単なる住宅建築ではなく、自然、宗教、宇宙観、人間生活を統合した住むための総合芸術作品である。ガウディは建築を壁や屋根の集合としてではなく、人間と自然と精神世界を結び付ける生命体として捉えていた。カランデルはその思想を読み解くことで、建築とは機能を満たす器ではなく、人間の想像力や精神性を映し出す文化装置であることを示そうとした。

未来の輪郭