Bernard Buffet-The Invention of the Modern Mega Artist
2016年刊
Nicholas Foulkes著
著者とブッフェの略歴
ニコラス・フォークス(Nicholas Foulkes)は英国の歴史家・伝記作家である。とりわけ20世紀の文化史、上流社会、芸術とファッションの交差領域を専門とする。彼は人物を社会的役割や時代精神の中で位置づける。本書においても、ビュッフェを個人の画家ではなく現代のスター・アーティストの原型として捉えている。
ベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet)は1928年パリに生まれ、戦後フランス美術界において驚異的な成功を収めた画家である。痩せた人物像、鋭い黒い線、荒涼とした風景など独特の様式によって、20代にして一躍スターとなった。しかしその成功の巨大さ故に、次第に批評家からの評価は低下し、晩年は孤独と病に苦しみ、1999年に自ら生涯を閉じた。
本書の内容概要
本書は、ビュッフェの人生を単なる画家の伝記としてではなく、現代における芸術家の大衆化と商品化の象徴として描く。主な構成は、戦後フランスにおける美術市場の変化、ビュッフェの急激な成功とメディア戦略、上流社会・芸術界・商業の結びつき、批評家との対立と評価の転落、晩年の孤立と芸術への執着の順に展開されている。フォークスは、ビュッフェを芸術家であると同時にブランドであったと位置づけ、今日のジェフ・クーンズやダミアン・ハーストに先行する存在として分析している。
ベルナール・ビュッフェの人生

1.戦後の荒廃と天才の出現
ビュッフェは第二次世界大戦後の荒廃したフランスにおいて登場した。貧困と不安の中で描かれた彼の作品は、時代の空気を鋭く反映しており、若くしてサロンや展覧会で高く評価される。1940年代末から1950年代初頭にかけて、彼は爆発的な成功を収め、パリの寵児となる。

2.巨大な成功とその代償
1950年代、ビュッフェはフランスで最も高収入の画家の一人となり、邸宅、ロールス・ロイス、社交界など華やかな生活を手にする。しかしその成功は同時に批判を呼び、商業主義的、量産的との評価が強まる。抽象絵画が主流となる中で、彼の具象的で個性的な様式は時代遅れと見なされるようになる。


3.孤立と持続する制作
批評家からの評価が低下しても、ビュッフェは制作をやめなかった。むしろ彼は膨大な作品を描き続け、自らの様式を徹底的に押し通した。この点において彼は、外部評価ではなく自己の表現への執着によって生きた画家であった。

4.晩年と終焉
晩年、ビュッフェはパーキンソン病を患い、筆を持つことが困難になる。描くことこそが存在理由であった彼にとって、それは致命的であった。1999年、彼は自ら命を絶つ。アナベルに先立たれた画家はもはや絵を描くことができなかった。
成功と恋愛(アナベル)の意味

1.成功の本質
ビュッフェにとって成功とは、単なる名声や富ではなく、自らのスタイルが世界を支配することであった。しかしその成功は皮肉にも彼を孤立させ、芸術的評価の低下を招いた。成功は彼を頂点へ押し上げると同時に、芸術家としての自由を狭める力でもあった。
2.アナベルの存在
彼の人生において決定的であったのが、妻でありミューズであるアナベル(Annabel)の存在である。アナベルは単なる伴侶ではなく、社交界との橋渡し、ビュッフェのイメージ戦略の中核であるとともに、精神的支柱として機能した。彼女の存在によって、ビュッフェは孤独な画家でありながら、同時に華やかなスターであり続けることができた。
3.成功と愛の交差点
ビュッフェの人生は、成功と孤独、愛と苦悩の交差点にあった。成功は彼を世界的存在に押し上げ、アナベルはその成功を支え、また彼の孤独を和らげた。しかし、最後に彼を規定したのは、他者ではなく、描くことへの絶対的な意志であった。この点においてビュッフェは、時代に翻弄されたスターであると同時に、最後まで純粋な画家であり続けた。
成功と画家人生(付記)
ベルナール・ビュッフェの人生は、早すぎる成功がいかに芸術家の成長を拘束し得るかを示す典型である。彼は若くして名声と富を手にし、アナベルという伴侶を得て、社会的にも完成された存在となった。しかしその完成は、同時に変化の余地を奪った。市場は彼に既存の様式の反復を求め、成功したイメージを裏切ることを許さなかった。その結果、彼の表現は深化よりも固定へと向かい、評価は次第に低下した。ここに、成功が創造を拘束する逆説がある。では画家はいかに生きるべきか。何よりも外的評価と自己の探求を峻別し、成功した様式を自ら破壊する勇気を持つことが大切である。愛と環境を安定の基盤としつつも、それに依存せず、常に内的必然に従うことである。芸術家にとって真の成長とは、安定の中に留まることではなく、絶えず自己を克服し続けることでのみ達成される。
私のビュッフェ(付記)
それでも描き続けたビュッフェに敬意を払い、私が模写したビュッフェの静物画を一枚。

