Fearful Symmetry
A Study of William Blake
1947年刊
Northrop Frye著
著者とウィリアム・ブレイクの略歴
著者ノースロップ・フライ(Northrop Frye)はカナダの批評家である。本書は20世紀におけるブレイク研究の基礎を築いた記念碑的著作である。

ウィリアム・ブレイク(William Blake)は1757年ロンドンに生まれ、版画職人としての訓練を受けつつ、詩人・画家・神秘思想家として独自の創作を行った。王立美術院に学びながらも主流美術に適応せず、自ら詩と版画を融合させた彩飾印刷という独自技法を確立した。生前はほとんど理解されなかったが、無垢の歌やミルトンなどにおいて壮大な神話体系を構築し、後世において評価が確立した。

本書の内容と思想的核心
本書は従来、断片的・狂気的と見なされていたブレイクの作品群を、一貫した象徴体系として再構築した。フライはブレイクの作品を、単なる詩や絵画ではなく、完全な神話的宇宙(mythological system)として読み解く。そこでは、人間の精神の分裂、想像力と理性の対立、抑圧された欲望の解放といったテーマが、独自の神々(ユリゼン、ロス、オルコ等)を通じて展開される。フライはブレイクの象徴を恣意的な幻想ではなく、普遍的な精神構造の詩的表現として位置づけた。これによりブレイクは奇人から体系的思想家へと昇格した。フライは、ブレイクの思想をキリスト教神学・古典神話・ルネサンス象徴学と連関させ、彼の世界観が西洋精神史の中で理解可能であることを示した。この読解は後の文学批評、特に神話批評に決定的影響を与えた。
ブレイクの詩と絵画
ブレイクの芸術は、詩と絵画が分離不可能な形で統合されている。詩においては、無垢の歌と経験の歌に代表されるように、純真と堕落という二元的世界が対置される。 LambとTygerの対比は、神の創造の二重性を象徴する典型例である。後期の預言書群では、詩は難解な象徴言語へと変貌し、個人の内面を超えて宇宙的規模の精神劇へと拡張される。
絵画においては、筋肉質で劇的な人体表現と、炎や光に満ちた構図が特徴的である。古代の日(The Ancient of Days)に見られるように、ブレイクの図像は単なる装飾ではなく、宇宙創造そのものの視覚化である。最も重要なのが彩飾印刷による統合である。詩文と図像が同一の版から刷られ、色彩を施されることで、作品は読むものであると同時に見るものとなる。ここにおいてブレイクは、文学と美術の境界を根底から解体した。



ブレイクの芸術的価値と歴史的意義
ブレイクの最大の意義は、芸術を単なる表現ではなく、人間精神を解放するための根源的行為として再定義した点にある。彼は理性中心の近代文明に対して、想像力を人間の本質的能力として擁護し、抑圧された欲望や感覚の回復を訴えた。この思想はロマン主義の深化に寄与し、象徴主義、シュルレアリスムへと連なる精神的源流となった。芸術形式の面では、詩と視覚芸術の融合は20世紀の総合芸術やアーティスト・ブックの先駆となり、現代美術にも直接的影響を与えている。ブレイクは単なる異端者ではなく、近代以降の芸術と思想を方向づけた原点的存在である。その芸術は、見ること、読むことを超え、人間の内なる宇宙を再構築する。
