The 100-Year Life
Living and Working in an Age of Longevity
2016年刊
Lynda Gratton and Andrew Scott著
著者の経歴
リンダ・グラットン(Lynda Gratton)は1955年生まれのイギリスの経営学者であり、ロンドン・ビジネス・スクール教授として長年にわたり人的資本、未来の働き方、組織論を研究してきた。彼女は特に、仕事の未来研究で国際的に知られる。デジタル化、AI、グローバル化が人間の労働にどのような影響を与えるかを分析し、企業だけでなく個人の生き方を問い直してきた。グラットンは、単なる経営論にとどまらず、働くことは人生そのものであるという視点を持っている。彼女は、長寿化によって、人間はもはや短距離走型の人生を送れなくなると考えた。若い頃に無理をして働き、引退後に余生を楽しむというモデルは崩壊し、人間はもっと長期的に、自分の精神や健康や人間関係を育てながら生きる必要があると考えた。
アンドリュー・スコット(Andrew Scott)は1965年生まれのイギリスの経済学者であり、ロンドン・ビジネス・スクール教授としてマクロ経済学、長寿経済学、金融政策を研究してきた。彼は特に、長寿化は社会保障や経済だけでなく、人間の時間感覚を変えるという問題意識を持っていた。従来の経済学では、定年後は働かないという前提が強かった。しかし平均寿命が100年近くになる社会では、その前提は崩れる。長い老後を支えるには、単に資産を増やすだけでなく、人的資本、健康資本、社会関係資本を長期的に維持しなければならない。スコットは、人間が長く生きるだけでは不十分であり、長く充実して生きるための人生設計が必要になると考えた。
本書の内容
本書は、人生100年時代という概念を世界的に定着させた代表的著作である。単なる長寿論ではなく、長寿化によって、人間の生き方が根本的に変わるという文明論として大きな影響を与えた。
1.三段階人生の終焉
本書の最大の主張は、教育→仕事→引退という三段階人生が終わるという点にある。20世紀型社会では、人は若い頃に教育を受け、中年期に働き、老後に引退するというモデルで生きてきた。しかし人生が100年になると、この構造は成立しない。第一に、経済的に維持できない。60代で完全引退し、その後40年近く生きるには莫大な資産が必要になる。第二に、精神的にも維持できない。引退後の時間が長すぎるため、何のために生きるのかという問題が発生する。著者たちは、老後という概念が変化すると述べる。
2.マルチステージ人生
そこで提唱されるのが、マルチステージ人生である。人生はもはや一直線ではなくなる。学び直し、転職、独立、休息、再挑戦を繰り返しながら、多段階で生きる時代になるという。一つの会社で定年まで働く人生ではなく、何度も自己更新しながら生きる必要がある。この時に重要になるのが、無形資産である。著者たちは資産を三つに分ける。
第一は金融資産であり、お金である。
第二は生産性資産であり、知識、スキル、経験、健康である。
第三は変身資産であり、新しい環境へ適応し、自分を変化させる能力である。
特に重要なのは第三の資産である。長寿社会では、変われる人が生き残る。逆に、過去の成功体験に固執する人ほど苦しくなる。
3.時間感覚の革命
本書の深い部分は、長寿化は時間感覚を変えるという点にある。従来の人生は短距離走だった。だから若い頃に無理をしても成立した。しかし100年人生では、人生はマラソンになる。そのため、燃え尽きるような働き方は持続できない。健康、人間関係、精神的安定を長期的に維持しなければならない。著者たちは、成功よりも持続可能性が重要になる。
人生の締め括り方
1.引退という発想を捨てる
本書がもっとも大きく変えたのは、人生の終盤=余生という考え方である。従来は、老後とは仕事を終えた後の静かな時間だった。しかし100年時代では、その期間が長すぎる。著者たちは、完全引退という概念自体が現実的でなくなると考える。もちろん、高齢になっても若者と同じ働き方を続けるという意味ではない。重要なのは、社会との接点を持ち続けることである。人間は、役割を失うと急速に衰える。逆に、誰かとの関係性や目的を持ち続けると、生きる力を保てる。人生後半とは、終わる時間ではなく、新しい段階へ移る時間になる。
2.人生後半は所有から意味へ移る
若い頃、人は地位、収入、成功、所有を追い求める。しかし人生後半になると、本当に重要なのは、どれだけ持っているかではなく、どう生きてきたかへ変わる。著者たちは、長寿社会では、意味資本が重要になると暗示している。自分は何を大切にして生きてきたのか。誰と時間を共有したのか。どんな経験を積み重ねたのか。何を次世代へ残すのか。それらが人生後半の中心課題になる。
3.人生を閉じるのではなく熟成させる
従来の人生観では、老年は衰退の時期だった。しかし本書は、それを根本的に覆している。人生後半は、競争から自由になり、本当に大切なものを選び直す時間になる。若い頃は、社会的成功を優先せざるを得ない。しかし長く生きる時代では、後半にもう一度、自分自身の人生を再設計できる。人生とは、一度きりの一直線ではなく、何度も作り直せる長い旅になる。
本書が最終的に語っているのは、単なる長寿戦略ではない。それは、長く生きる時代に、人間は何を大切にして生きるべきかという、新しい人生哲学である。
