人生をいかに生きるか

What Life Should Mean to You
1931年刊
Alfred Adler著

アルフレッド・アドラーの経歴

アドラー(1870–1937)は、精神分析学の黎明期を築いた重要人物の一人であり、当初はフロイトのグループに参加していた。しかし後にフロイトの本能中心の精神分析と袂を分かち、個人心理学と呼ばれる独自の体系を打ち立てた。アドラーは、人間を単なる欲望や過去の傷によって規定される存在ではなく、未来に向かって目的を持ち、自らの人生を形成していく主体的存在として捉えた。彼の思想の中心には、劣等感、共同体感覚、目的論、勇気づけといった概念がある。特に、人間の悩みの多くは他者との関係性に由来するという視点は、現代の心理学や教育学、経営論や自己啓発思想にも大きな影響を与えている。アドラー心理学は難解な理論体系ではなく、人はどう生きるべきかという人生論として語られることが多く、本書もその代表例である。

書の内容

1.人間は目的によって生きている

本書においてアドラーは、人間を過去の原因によって動かされる存在ではなく、ある目的を目指して生きる存在として描いている。これはフロイト的な原因論への対抗であり、アドラー心理学の根本思想である。たとえば、人が臆病であるのは過去に傷ついたからだけではなく、失敗して傷つくことを避けるために、臆病でいるという目的を持っている場合があるとアドラーは考える。人は無意識のうちに、自らの生き方をある方向へ導くための性格や行動様式を選び取っている。この考え方によって、人間は過去の被害者ではなく、自分の人生を変える可能性を持つ主体として理解される。本書は全体を通じて、人は変わることができるという強い希望を読者に与えている。

2.劣等感と優越性への追求

人間は誰しも何らかの劣等感を持っている。身体的な弱さ、能力不足、社会的な不安など、人は幼少期から自らの不完全さを感じながら生きている。しかし彼は、劣等感こそが、人間を成長へ向かわせる原動力であると考える。問題なのは、劣等感を健全な努力へ転化できず、誇大な優越感や支配欲へと変質させてしまう場合である。自分の弱さを受け入れられない人間は、他者を見下したり、権力によって優位に立とうとしたりする。しかしその優越性の追求は、本当の意味での成熟ではない。アドラーは、人間が目指すべきは他人より上に立つことではなく、昨日の自分より成長することであると説く。そしてその成長は、他者との協力関係の中で初めて健全な形を取る。

3.共同体感覚という中心思想

本書でもっとも重要な概念の一つが共同体感覚である。アドラーは、人間の幸福とは孤立した成功ではなく、自分が共同体の一員であり、他者とつながっているという感覚によって生まれると考えた。彼によれば、人生の問題は最終的に仕事、愛、共同体という三つの課題へ集約される。そしてこれらはすべて他者との関係性を必要とする。人間は社会から切り離されては生きられず、真の成熟とは他者に貢献したいという感覚を持てるようになることである。アドラーは、現代人の多くの不幸は自分だけが重要だという自己中心性に由来すると考える。他者を競争相手として見る限り、人は常に不安と嫉妬に苦しむ。しかし他者を仲間として見ることができれば、人間は安心感を得て、人生に意味を見出せる。

4.勇気を持って生きること

本書では、勇気が極めて重要な概念として語られる。アドラーにとって勇気とは、恐怖がないことではなく、不完全な自分を引き受けながら人生へ踏み出す力である。人は失敗を恐れる。しかし失敗を恐れるあまり行動しなければ、人間は成長できない。アドラーは、人間の多くの問題は勇気の欠如に由来すると考えた。そして教育や心理療法の本質は、人を勇気づけることにある。本書は単なる心理学書ではなく、不完全であることを恐れず、自分の人生を生きよという実践的な人生論である。

本書が言いたかったこと

人間は過去や環境に完全に支配される存在ではなく、自ら人生の意味を選び取りながら生きることができる。人間の苦しみの多くが、他者との比較や競争、劣等感への囚われから生じる。そこから自由になるためには、他人に勝つことではなく、他者と共に生きることを学ばねばならない。人間は誰しも不完全で弱い存在である。しかし、それでもなお他者に貢献しようとする意志を持つ時、人は人生に意味を見出せる。幸福とは特別な成功ではなく、自分は共同体の一員として役立っているという感覚である。本書は、勇気を持って他者と共に生きよという極めて人間的で温かい思想を語った本である。その思想は、競争や孤立が深まる現代社会において、なお強い普遍性を持ち続けている。

座右の書