AIの産業構造は階層(レイヤー)に分けると理解しやすい。以下ではAIの主要企業をレイヤーごとに位置づけながら「日本はAI分野でいかに戦うべきか」の私見を述べる。
AIの産業構造
AI産業は ①半導体②データセンター③基盤モデル④応用モデルの4つの階層を中心に、⑤データ供給企業と⑥端末供給企業の6つから構成されている。一般には③の基盤モデルたる生成AIが中核と理解されているが、AI産業はこれら6つのレイヤーが相互に連携しながら発展している。
① 半導体
半導体はAIを動かすための物理的基盤である。GPU/TPU/ASIC/NPUといった演算チップを指す。代表的企業はNVIDIA(GPUチップ設計供給会社)、TSMC(半導体チップ製造受託会社)、AMD/インテル/ソニー等の半導体設計製造会社である。
② データセンター
データセンターはサーバー・ストレージ・高速ネットワーク・電源など物理的処理設備を備え、文字通りデータを処理する工場(設備集積型不動産)である。世界的代表企業はAmazon Web Services (AWS)、Microsoft(Azure)、Google Cloud、Meta Platformsなどがある。日本国内ではNTTデータ等がある。
③ 基盤モデル(生成AI)
基盤モデル(生成AI)は、文字どおり様々なタスクに汎用的に使える基盤を提供するAIモデル(大規模言語モデルLLMや画像生成モデル)である。 世界的代表企業はOpenAI、Google、Anthropic、xAIがある。
④ 応用・アプリケーションモデル
基盤モデルを活用して産業分野別、用途別に課題を解決するAIモデルを提供するレイヤーであり、業務自動化、医療診断など多岐にわたる。McKinsey & Company等は近年AI応用モデルに特化している。
⑤ データ供給企業
AIモデルの知識集積・訓練・改良に必要な大量のデータを供給できる企業である。世界的代表企業としては、Google(Alphabet)、Meta Platforms(Facebook/Instagram/WhatsApp)X Corpなどがある。
⑥ 端末提供企業
AIモデル・サービスをエンドユーザーに届けるための機器(携帯電話、PC)を提供するレイヤーである。代表企業としては携帯企業としてApple、ソニー、PC生産企業としてDell、富士通、NECなどである。
AIを革新するIOWNと日本企業の戦略
NTTが推進するIOWN (Innovative Optical & Wireless Network)は、電気を中心とする既存インフラを光に完全シフトさせるものである。超大容量・超低遅延・超低消費電力な次世代通信処理基盤を実現するものであり、AI 産業に決定的な影響を及ぼす。とりわけ半導体、データセンター、端末レイヤーにおいて日本企業の戦略に大きな福音をもたらすことになるだろう。
① 光半導体
IOWN はその推進にあたって光半導体を開発している。光半導体はチップの配線・通信を光化し、演算器やメモリ間の遅延・消費電力を大幅に削減する。将来的には全てを光で完結するもので、AIと通信に革命的変化を及ぼす。IOWNは世界的半導体会社と連携をとって進めているが、光半導体の生産をリードするソニーや周辺部材を担当する日本企業は世界の半導体生産を席巻することになるだろう。
② データセンター
データセンターではAIの推論(演算計算)にあたって大量にデータのやりとりが発生するため、高速処理、低遅延、低消費電力とった要件がますます重要になっている。IOWNはデータセンターレイヤーに革命的変化をもたらす。 大規模データセンター間の内部接続を光化し、超低遅延化・省電力化を実現する。 離れた拠点でも1つのコンピュータのように動作するようになり、AI訓練・推論を大規模分散処理できるようになる。データセンターはハードウェアの集積施設であるため、日本企業が得意とする分野である。クラウドインフラを牛耳る米国企業は、日本のデータセンター機器メーカーと協調することによって競争力を得る時代になるだろう。
③ 端末供給企業
光半導体を搭載した端末によって、すべてのユーザーの通信環境と処理速度が画期的に改善する。携帯とPCの完成品生産において日本企業が世界のリーダーとなる時代も夢ではないだろう。
基盤モデル開発における大規模日本語モデル開発の重要性
AIの基盤モデル(生成AI)開発は、米国がリードし、中国がこれに対抗している。いずれも英語と中国語が基軸の開発である。日本語の開発は二次的である。 日本には日本語固有の文法・語彙・言語表現、文化的・歴史的背景、産業経験がある。とりわけ歴史的厚みと産業経験値は欧米諸国を圧倒する量と質を保有している。これを活かした日本仕様の日本語最適化モデルを作ることなくて、AI時代の国際競争力を獲得することはできない。基盤モデル(生成AI)開発における日本語開発を独自に行うことは、国家の独立と発展を図る上で極めて重要である。日本は基盤モデル(生成AI)開発において日本語・文化特化モデルの開発を、万難を排してただちに行わなくてはならない。國井正人
