David Hockney

David Hockney-A Bigger Book
2016年10月刊
Hans Werner Holzwarth編

目次

デイヴィッド・ホックニーの経歴

デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)は1937年、イギリスのブラッドフォードに生まれた現代美術の巨匠である。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学び、1960年代に頭角を現した。アメリカ・ロサンゼルスに移住して以降、プールや光に満ちた風景を描いた作品群によって国際的評価を確立した。彼は画家にとどまらず、版画、写真、舞台美術、近年のiPadによるデジタルドローイングに至るまで、常に新たな表現領域を開拓し続けたる。

本書の内容

本書は、ホックニーの約60年にわたる制作活動を網羅的に収録した決定版的作品集である。その最大の特徴は、圧倒的な物理的スケールと図版の質にある。巨大判の紙面により、絵画の細部、筆致、色彩のニュアンスがほとんど原寸に近い感覚で再現される。内容は年代順に構成されており、初期の実験的作品から、ロサンゼルス時代のプール作品、フォトコラージュ(ジョイナー)、ヨークシャーの風景画、iPadによる近作までが一貫して提示される。未公開写真やスタジオ風景、スケッチなども豊富に収録されており、単なる作品集ではなく制作の全体像を提示する書物となっている。複数の批評家によるテキストが配置されている。

ホックニー絵画の本質

ホックニーの絵画の核心は、見ることとは何かという問いに対する探究にある。彼の代表的主題であるプールの作品において、水面は単なる対象ではなく、光と運動と知覚の関係を示す。透明でありながら歪みを生む水は、現実の再現と視覚の不確かさを同時に示す。彼は伝統的な一点透視図法に対して批判的であり、複数の視点を組み合わせた独自の空間表現を追求した。フォトコラージュや後年の風景画に見られるように、時間的連続性と視点の移動を画面上に統合する試みは、近代以降の絵画に新たな空間概念をもたらした。色彩においても、彼は自然の再現を超えた強烈な人工性をあえて採用する。カリフォルニアの光を象徴する鮮やかなブルーやピンクは、現実の色ではなく、知覚された印象を強調するための選択である。こうした色彩は、見る者の視覚体験を活性化させる役割を担う。近年においては、iPadを用いたデジタルドローイングによって、時間と制作過程を可視化する新たな領域に踏み込んでいる。ここでも彼の関心は一貫して視覚の拡張にある。

David Hockney
プールと2人の人物
David Hockney
花瓶とアマリリス
アカントラ物語
アカトラン物語

ホックニー芸術上の価値

ホックニーの最大の意義は、絵画という古典的メディアを現代において再活性化した点にある。写真や映像が支配的となった時代において、彼はむしろ絵画こそが最も豊かな視覚体験を提供し得ることを示した。難解な理論に閉じるのではなく、日常的な風景や身近な人物を通じて、誰もが共有しうる視覚の喜びを提示した。その一方で、遠近法批判や光学装置に関する理論的提起など、美術史そのものへの問い直しも行っている。彼は一貫して現在進行形の画家であり続けている。高齢に至っても新しい技術や表現を積極的に取り入れ、芸術の更新を実践し続けている。その姿勢自体が、現代美術における創造のモデルとなっている。ホックニーは、見るという行為を再定義し、絵画の可能性を拡張した画家である。本書は、その壮大な試みの全貌を視覚的に体験させる記念碑的作品集である。

未来の輪郭

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