Giorgio de Chirico-The Changing Face of Metaphysical Art
2019年刊
Paolo Baldacci編著
ジョルジョ・デ・キリコの略歴
ジョルジョ・デ・キリコ(1888–1978)は、ギリシャに生まれたイタリア人画家であり、20世紀美術の中でも特異な位置を占める。ミュンヘン留学期に、ニーチェやショーペンハウアーの哲学に触れたことが、彼の芸術の根幹を形成した。1910年代に彼が確立した形而上絵画は、静寂な都市空間、長く伸びる影、無人の広場、マネキン的な人物像といったモチーフによって構成され、現実の背後に潜む不可視の次元を示唆するものであった。この様式は後にシュルレアリスムの成立に決定的な影響を与える。しかし1920年代以降、彼は古典的写実へと転換し、伝統的技法を用いた絵画へと回帰する。この転換は当時の前衛から批判されたが、彼自身は一貫して永遠なる絵画の探求としてこれを正当化した。
本書の内容概要
本書は、キリコの形而上絵画を固定的な様式としてではなく、変化し続ける思考として再解釈する。従来、キリコの真価は1910年代の形而上絵画に限定され、その後の古典回帰は退行と見なされることが多かった。しかし本書はこの見方を批判し、むしろ彼の全生涯を通じて一貫するテーマ(時間、記憶、再現、反復)に注目する。本書は、初期形而上絵画の哲学的背景、パリ時代と前衛との関係、古典回帰の再評価、晩年における自己引用と反復の4つより構成される。本書は、キリコを様式の画家ではなく、時間意識の画家として捉え直す試みである。


キリコの作品・生活・ローマのアトリエ
1.作品における空間構造
キリコの作品において最も重要なのは、空間の扱いである。彼の広場や室内は、現実を再現しているようでありながら、どこか非現実的であり、時間が停止したかのような感覚を与える。遠近法は意図的に歪められ、光と影は過剰に強調される。そこでは物体は意味を失い、純粋な配置として存在する。この構造は、後のローマのアトリエにおいて現実空間として再現されることになる。
2.生活と晩年の制作
第二次世界大戦後、キリコはローマに定住し、スペイン広場近くの住居兼アトリエで晩年を過ごした。この場所は現在、カーサ・ムゼオ・ジョルジョ・デ・キリコとして保存されている。彼の生活は規則的であり、外面的には静かなものであったが、その内面では過去と現在、記憶と再現の問題が絶えず思索されていた。晩年の作品には、初期のモチーフが繰り返し現れ、あたかも時間が循環しているかのような印象を与える。


ローマのアトリエの重要性
キリコは晩年、自作のモチーフを繰り返し描いたが、それは単なる反復ではない。アトリエ内に配置された物体や過去作品が、常に彼の視界に入り、それらが新たな構成として再び画面に現れる。アトリエは、記憶が現在に再出現するための装置として機能していた。キリコにとってアトリエとは、単なる制作の場ではない。それは彼の思想(時間、記憶、存在の不確かさ)を現実空間として具現化した場である。彼の絵画における静止した時間、不可解な配置、意味の空白は、すべてこの空間において生成される。外界から切り離された内部空間において、物体は本来の意味を失い、純粋な存在として現れる。ローマのアトリエは、単なる晩年の制作拠点ではなく、彼の芸術の核心を体現する場である。それは一つの建築であると同時に、一つの絵画であり、一つの思考そのものである。キリコの芸術はキャンバスを超え、空間そのものへと拡張されている。
私のキリコ(付記)
キリコの原風景である形而上的建物と汽車に思いを馳せて、私が模写したキリコの絵を一枚。

國井正人作
パステル
