ミロのアトリエ

Miró’s Studio
2008年刊
Joan Punyet Miró(文)
Jean-Marie del Moral(写真)

目次

著者・写真家とミロの略歴

著者ジョアン・プニェット・ミロ(Joan Punyet Miró)は、画家Joan Miróの孫にあたり、ミロ財団の運営にも関与する人物である。彼は単なる研究者ではなく、幼少期から祖父の制作環境を間近に見てきた当事者であり、本書の文章は回想と証言の性格を帯びている。本書は、外部の美術史的分析ではなく、内部からの記憶としての価値を持つ。

写真を担当したジャン=マリー・デル・モラルは、20世紀後半の芸術家のアトリエを撮影し続けた写真家であり、アントニ・タピエスやマザーウェルなど、多くの作家の制作現場を記録してきた。彼の写真は、単なる記録写真ではなく、空間の思考の密度を写し出す。

アトリエの主であるミロは1893年バルセロナに生まれ、シュルレアリスムと独自の記号的表現を融合させた20世紀を代表する画家である。初期には農村的風景を描いていたが、やがて星や女性、鳥といった原初的モチーフを記号化し、絵画を言語以前の領域へと押し広げた。晩年はマヨルカ島に拠点を移し、そこで制作の最終段階を迎えた。

ミロのアトリエ
アトリエで制作するミロ

本書の内容

本書は、マヨルカ島パルマにあるミロの二つのアトリエ(セルト工房とソン・ボテール)を中心に構成されている。ページの大半は写真で占められ、文章は最小限に抑えられているが、その分、視覚的体験が強い。写真は、完成された作品ではなく、制作の痕跡(絵具の飛沫、床に置かれたキャンバス、積み重なったオブジェなど)に焦点を当てている。これにより、ミロの芸術が完成品としてではなく、生成の過程として提示されている。文章は、著者による簡潔な回想であり、アトリエでの生活や制作の様子が断片的に語られる。それは解説というより、写真の背後にある時間を補う役割を果たしている。

ミロのアトリエ

ミロのアトリエ
ソン・ポールの家
ミロのアトリエ
ミロのアトリエ

1.セルト工房

1956年、建築家ホセ・ルイス・セルトによって設計されたアトリエは、外界からの視覚的刺激を遮断し、内部に集中する構造を持つ。大きな天窓から均質な光が差し込み、壁面は白く、空間は簡素である。ここでは、巨大なキャンバスが自由に扱われ、ミロは身体全体を使って描くことができた。空間は広大であるが、その静けさはむしろ内面的な集中を強く促す。

2.ソン・ボテール

一方、隣接するソン・ボテールは、より粗野で原始的な空間である。壁には直接ドローイングが描かれ、彫刻やオブジェが無秩序に置かれている。ここでは、ミロは素材と直接対話するように制作し、絵画と彫刻の境界を曖昧にした。壁そのものがスケッチブックのように扱われている点は、極めて象徴的である。アトリエ内には、石、木片、日用品など、拾得物が無数に蓄積されている。これらは単なる素材ではなく、イメージの発火点であった。ミロにとって制作とは、何かを描くことではなく、既に存在するものから形を引き出す行為であった。

ミロにとってのアトリエの意味

ミロにとってアトリエとは、単なる制作場所ではなく、思考そのものが展開される場であった。そこでは外界は遮断され、代わりに内的宇宙が展開される。彼の絵画に現れる単純な記号や形態は、一見すると自由で即興的に見えるが、その背後には、アトリエという閉じられた環境において熟成されたイメージの体系が存在する。アトリエは作品の前段階ではなく、作品そのものの一部である。ソン・ボテールの壁に残されたドローイングが示すように、ミロにとって表現はキャンバスに限定されなかった。空間そのものが創造の媒体となり、絵画は空間的経験へと拡張された。ミロの芸術を理解するためには作品だけでは不十分であり、アトリエという場を含めて初めて、その創造の全体像が見えてくる。

ミロ
ミロの初期作品
ミロ
ミロ
ミロの作品(油彩)

私のミロ(付記)

ミロのアトリエを眺めながら、ミロの生まれ故郷であるバルセロナのミロ美術館にある代表作を模写することに。

ミロの0星雲
星雲
國井正人作
パステル

未来の輪郭

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