世界三大投資会社の概要
- ブラックロック(BlackRock)
①ブラックロックは世界最大級の資産運用会社であり、2025年9月末(Q3)時点の運用資産残高(AUM)は約14兆ドル(約2100兆円)である。
➁事業の中核は、ETF(上場投資信託)ブランドであるiSharesをはじめとするパッシブ運用(※市場の動きに連動した運用方法のこと)の巨大な基盤である。また機関投資家向けのアクティブ運用(※市場全体のベンチマークを上回る運用を目指す)、マルチアセット、オルタナティブ(※プライベート市場・インフラ投資等を含む運用)まで幅広く持つ。加えて運用そのものだけでなく、リスク管理・ポートフォリオ管理プラットフォームであるAladdinを通じて、金融機関・機関投資家のインフラ領域にも深く入り込む「テック×運用」の色彩が濃い。
➂株主構成については、ブラックロックは上場会社であるので、株式は機関投資家の保有比率が高い構造である。主要株主としてVanguard、State Street等の大手運用会社(インデックス運用者)が上位に出てくるのが典型で、これは市場全体を保有するインデックス運用の性質上、必然的に相互に株主として現れるためである。
2.ステート・ストリート(State Street)
①ステート・ストリートは銀行持株会社としての顔も大きいが、資産運用部門(現在の表記ではState Street Investment Management)はSPDR(※ステート・ストリートが運用する上場投信のブランド名)を擁し、指数連動・ベータ提供に強みを持つ。公式開示では、2025年9月30日時点のAUMは約5.45兆ドル(約817兆円)とされる。
➁伝統的に機関投資家(年金・保険・政府系等)向けの運用に強く、超低コストで広範な市場変動に対応した市場インフラ型の色合いが濃い。
➂株主構成は、ステート・ストリートも上場会社であり、主要株主にはやはり大手運用会社(Vanguard、BlackRockなど)が並ぶことが多い。
3.バンガード(Vanguard)
①バンガードは、運用哲学とガバナンス(経営方式)が他2社と決定的に異なる。最大の特徴は、投資家(ファンド受益者)のためにコストを下げることを制度として組み込んだ相互会社型(mutual ownership)の所有構造である点にある。公式にVanguardはファンドに所有され、そのファンドは投資家に所有されると明記している。そのため、ブラックロックやステートストリートのような上場企業としての株主価値最大化よりも、構造的にフィー(信託報酬等)の低減と長期投資の最大化に寄りやすい。
➁投資規模(AUM)について、英国向けの公式ページでは2024年9月30日時点で10.1兆ドル(約1515兆円)と示されている。また手数料引下げを継続的に行い、規模と低コストを武器にパッシブ運用で巨大な存在感を持つことが、競争戦略の中核になっている。
※ETF・SPDR・iShares・Vanguard ETFはすべて株式や債券などの市場全体をひとまとめで保有するための金融商品・ブランドである。ブラックロック・ステートストリート・バンガードが世界の株式を広く・薄く・長期に保有するための器である
世界三大投資会社の特色
1. ブラックロック(ETF支配力と助言的影響力)
①ETF事業の比率感
ブラックロックのETF事業は、iSharesブランド(ブラックロックの投資信託ブランド)として世界最大規模に達しており、AUM(運用資産残高)全体の中でもETF・インデックス運用が中核を占める。株式ETFは米国・欧州・新興国の主要指数をほぼ網羅し、グローバル年金・保険・政府系資金の標準的な株式エクスポージャーとして組み込まれている。結果として、ブラックロックは世界中の上場企業の株主名簿に同時多発的に登場する存在となっている。
➁議決権行使の論点
ブラックロックは名目上、投資先企業を支配しないが、主要株主として安定的に5%前後(場合によってはそれ以上)を保有するケースが多数存在し、議決権行使の積み重ねは無視できない。実務上の影響力は、個別企業への直接介入よりもESG、ガバナンス、取締役選任基準などの共通ルール提示を通じて発揮される。特に、CEO書簡や議決権行使方針は、企業経営者にとって事実上の国際標準として機能してきた。
➂日本市場との関係
ブラックロックは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ、日本の生命保険会社、信託銀行、地銀にとって最大級の海外株式・ETF運用委託先の一つである。日本の機関投資家が海外株式に投資する際、ブラックロックのETFやファンドを通じて間接的に世界企業の大株主になる構造が定着している。
2. ステート・ストリート(市場インフラ型影響力)
①ETF事業の比率感
ステート・ストリートのETFはSPDRブランドとして知られ、S&P500連動ETFや金ETFなど、特定分野で圧倒的な存在感を持つ。AUM全体ではブラックロックやバンガードより小さいが、株式指数の入口商品を握る比率は極めて高い。
➁議決権行使の論点
ステート・ストリートは、議決権行使において比較的制度・ルール志向が強く、取締役会の独立性、女性・多様性比率、ガバナンスの形式的整合性などを重視する。特徴的なのは、自らの主張を前面に出すというより、市場として当然守るべき最低基準を静かに押し広げる点である。これは、カストディ(資産管理)業務を祖業とする同社らしい中立的圧力と言える。
➂日本市場との関係
日本では、ETFそのものよりも、年金・保険・銀行の海外運用や証券管理(カストディ)を通じた接点が大きい。日本の金融機関にとって、ステート・ストリートは運用者であると同時に市場インフラであり、その議決権行使方針は間接的に日本の資金の声を代表する役割を担っている。
3. バンガード(低コスト構造が生んだ最大の静かな株主)
①ETF事業の比率感
バンガードは、ETFとインデックスファンドが事業の中心であり、株式ETF・インデックス運用の比率は3社の中でも最も高い。低コストを極限まで追求する構造により、世界中の長期資金が自然に集まり、結果としてほぼすべての主要上場企業の上位株主となっている。
➁議決権行使の論点
バンガードの議決権行使は、3社の中で最も抑制的・中立的である。個別の経営戦略への介入は避け、長期的な株主価値とガバナンスの整合性を基準に判断する。重要なのは、意見を主張しないこと自体が巨大な影響力になっている点である。賛否のどちらに回るかによって、株主総会の結果が事実上決まる場面も少なくない。
➂日本市場との関係
バンガードは日本の機関投資家にとって、海外株式インデックスの最終的な受け皿である。GPIFや生保が直接バンガードと契約しなくとも、再委託・ファンド・ETFを通じて、日本の年金マネーはバンガードの議決権行使に帰着する。
創業者と経営陣
1.ブラックロック
ブラックロックは1988年に ラリー・フィンク(Larry Fink) を中心とするチームによって創業された。フィンクは創業以来ブラックロックの中核的人物であり、現在も会長兼CEOとして経営の最前線に立っている(※フィンクは、ユダヤ系の家庭背景を持っている)。ブラックロックは創業当初から、債券運用とリスク管理を軸にし、その後ETF(iShares)によって世界最大の資産運用会社へと成長した。
2.ステート・ストリート
ステート・ストリートはブラックロックやバンガードとは性格が異なり、18世紀末(1792年)に米国ボストンで設立された極めて歴史の古い金融機関である。特定の現代的創業者がいる会社ではなく、銀行・信託・カストディ業務を祖業として発展してきた。現在のCEOは ロナルド・P・オハンリー(Ronald P. O’Hanley) であり、資産運用部門(State Street Investment Management)を含めた全体経営を統括している。
3.バンガード
バンガードは1975年に ジョン・C・ボーグル(John C. Bogle) によって創業された。ボーグルは低コスト・長期・インデックス投資という哲学を確立した人物であり、現代のパッシブ投資の思想的源流である。現在のCEOは サリム・ラムジ(Salim Ramji) で、2024年に就任している。バンガードは現在も投資家所有(相互会社型)という独自構造を維持している。
世界の株式市場に占める影響力
世界の株式市場において、ブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの三社が占める割合と影響力は、どれだけの企業を支配しているかではなく、どれだけ多くの株式を長期に保有し、その議決権が集中しているかという点で理解する必要がある。
現在、世界の上場株式の時価総額はおおよそ100兆ドル規模とされているが、そのうち相当な部分が、年金基金、生命保険会社、政府系ファンド、個人投資家などの資金を通じて、この三社によって運用されている。ETFやインデックスファンドを通じてこれら三社が継続的に保有している株式は、世界全体で見ると概ね2割から3割程度に関与していると考えられている。これは単一の国家や財閥が到達したことのない規模である。
もっとも、ここで言う関与とは、企業を買収して経営を左右するような支配を意味するものではない。これら三社は短期的な売買を行う投資家ではなく、市場全体をそのまま保有することを目的とした運用を行っているため、世界の主要企業のほぼすべてに、同時に、長期にわたって株主として存在する。その結果、米国、欧州、日本を問わず、時価総額の大きな企業の株主名簿を見ると、常にこの三社の名前が上位に並ぶという現象が生じている。企業側から見れば、これらは一時的に出入りする株主ではなく、将来にわたって保有し続ける常連の大株主であり、その存在を無視した経営判断は現実的ではない。
影響力がとりわけ大きく見える理由は、保有比率そのものよりも、議決権が少数の運用会社に集約されている点にある。ETFやインデックス投資が普及した結果、世界中の投資家の議決権は分散されず、実質的にこの三社がまとめて行使する構造になった。株主総会において、取締役の選任や報酬、ガバナンス体制といった重要事項は、これら三社が賛成するか反対するかによって結果が左右される場合が少なくない。彼らは個別企業の経営に直接介入することはほとんどないが、賛成するかどうかを示すだけで、企業行動に強い圧力を与える立場にある。
さらに重要なのは、この三社の影響力が個々の企業を超えて、市場全体の行動様式に及んでいる点である。彼らは、どの企業が投資に値するか、どの水準のガバナンスや情報開示が最低条件かといった基準を、ETFの組入条件や議決権行使方針を通じて示している。結果として、多くの企業は特定の株主に気に入られるためではなく、この三社が代表する市場全体の評価基準を前提に経営を行うようになる。これは命令による支配ではなく、長期保有と議決権の集中が生み出した、きわめて間接的だが強力な影響力である。
日本の市場も例外ではない。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や生命保険会社、銀行などの日本の機関投資家は、海外株式投資の多くをこれら三社のETFやファンドに委ねている。その結果、日本の資金もまた、この三社を通じて世界中の企業の株主として行動しており、日本企業であっても国際市場で評価される以上、この三社が体現する投資基準や議決権行使の論理から自由ではいられない。
要するに、ブラックロック、ステート・ストリート、バンガードが世界の株式市場に占める位置づけとは、企業を直接支配する権力ではなく、世界中の資金が集約された結果として生じた保有と議決権の集中による構造的影響力である。彼らは経営者ではないが、ほぼすべての大企業の背後に存在する最大級の株主であり、現代の株式市場は、この三社を抜きにしては成り立たない構造になっている。
世界三大投資会社のメリットと問題点
世界の株式市場において、世界の上場株式が、この三社に保有され、議決権が相当程度集中している状況は、資本主義の成熟が生み出した必然的な帰結であり、そこには明確なメリットと同時に、看過できない問題点が併存している。
【メリット】
まずメリットとして最も大きいのは、市場の安定性が飛躍的に高まっている点である。これら三社は短期的な値動きを狙う投資主体ではなく、指数に連動して市場全体を長期保有する運用を基本としている。そのため、投機的な資金移動による急激な売買が抑制され、世界の主要企業の株主構成が安定する。経営者の視点から見れば、株主が頻繁に入れ替わる不安定な市場よりも、長期にわたり保有を続ける大株主が存在する方が、中長期の設備投資や研究開発、人材育成に踏み切りやすい。結果として、企業経営が短期利益偏重に陥りにくくなり、資本市場全体の時間軸が長期化するという効果が生まれている。
次に、市場の公平性と効率性が高まっている点も重要である。ETFとインデックス運用を通じて、世界中の投資家が極めて低コストで市場全体にアクセスできるようになった結果、資本市場は一部の情報強者や大口投資家だけのものではなくなった。個人投資家や中小規模の年金であっても、世界の主要企業の株主として参加できる環境が整い、資本配分がより広範で民主的なものになっている。三社の存在は、資本市場を誰にでも開かれた公共インフラに近づけたという側面を持つ。
さらに、ガバナンスの最低水準が国境を越えて引き上げられた点も見逃せない。三社は個別企業の経営戦略に口出しすることは少ないが、取締役会の独立性や情報開示、株主権利の尊重といった基本的なルールについては、議決権行使方針を通じて一貫した姿勢を示している。その結果、国や文化の違いを超えて、国際的に最低限守るべき企業行動の基準が形成され、資本市場の信頼性が底上げされてきた。これは、とりわけ新興国市場やガバナンスが脆弱だった地域において、一定の規律をもたらしたという点で評価できる。
【問題点】
一方で、問題点も極めて深刻である。最大の懸念は、株主としての意思決定が少数の運用会社に集中しすぎている点である。名目上は数千万、数億人の投資家が株主であっても、実際の議決権行使は三社の判断に委ねられている。この構造は、形式的には分散所有でありながら、実質的には意思決定が中央集権化している状態を生み出している。これは民主的に見えて、実は非常に強い権限集中を伴う仕組みであり、資本主義の原理である所有と意思決定の一致から乖離している。
また、競争の歪みが生じる側面も否定できない。三社は同時に、同一業界の競合企業すべての大株主であることが多い。その結果、競争を激化させるよりも、市場全体の安定や収益の平準化を重視するインセンティブが働きやすい。たとえ意図的でなくとも、価格競争や大胆な経営改革が抑制され、産業全体が横並びに陥るリスクが拭いきれない。
さらに、価値観や基準の画一化という問題もある。三社が示すガバナンスや評価基準は、グローバルな標準として広く受け入れられている一方で、それが特定の文化圏や思想、経済モデルに偏っている可能性は否定できない。各国の企業や社会が本来持つ多様性が、国際市場で評価されるためという理由で均質化されていくことは、長期的に見て資本主義の柔軟性や創造性を損なう危険性を伴う。
総じて言えば、ブラックロック、ステート・ストリート、バンガードによって市場が事実上強く影響を受ける構造は、安定性・効率性・公平性という大きな恩恵をもたらす一方で、意思決定の集中、競争の形骸化、価値観の画一化という深刻なリスクを内包している。この構造は、現代の資本主義が到達した一つの段階であり、今後問われるのは、この巨大な影響力をいかに透明にし、どのように社会全体で監視・調整していくかという点にある。
日本の対抗戦略
結論から言えば、日本がブラックロック・バンガード・ステート・ストリートという三社に正面から対抗することは現実的ではない。しかし、日本には別の次元で対抗し、補完し、主導権を取り戻す国家戦略の余地は十分にある。それは規模競争ではなく、国家としての資本の意思をどこまで可視化し、戦略的に行使できるかにかかっている問題である。
まず前提として、この三社は、民間企業として世界中の資金を集約した結果、事実上の準・世界資本インフラになった存在である。彼らは国家ではなく、特定の国益を代表していない。したがって、日本が取り得る戦略は同じ土俵で巨大運用会社を作ることではなく、国家としての資本行動を、これまで以上に明確に戦略化することにある。
最も現実的かつ強力な選択肢の一つが、日本版ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の創設である。日本にはすでに世界最大級の公的資金運用主体として、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が存在する。しかしGPIFは、制度上市場中立・受動運用を原則としており、国家戦略を担う投資主体としては意図的に設計されていない。ここに、日本独自の戦略余地がある。すなわち、GPIFとは別に、明確に国家の長期戦略を担う投資主体を切り出す発想を持たなくてはならない。
この日本版SWFは、この3社のように市場全体を薄く保有する存在ではなく、日本の国益と不可分な分野に、意図を持って資本を投じる主体として設計されるべきである。たとえば、半導体、量子、AI、エネルギー、宇宙、重要インフラ、防衛関連、資源・食料安全保障に関わる銘柄などが対象となる。これらは、インデックス運用では最適配分されにくい一方、国家の存立には決定的に重要な分野である。ここに国家ファンドが入ることは、市場の歪曲ではなく、市場では回収できない国家価値を補完する行為である。
また、対抗戦略は必ずしも単一ファンドに限られない。日本は、生命保険会社、信託銀行、地銀、政府系金融機関などに巨額の長期資金を抱えているが、それらは現在、個別最適で動いているに過ぎない。これを、日本長期資本連合的な枠組みで束ね、議決権行使や投資方針において共通の国家的原則を持たせることも一つの戦略である。世界三大投資会社の影響力の源泉が分散した資金の集約にある以上、日本側も意図を持った資金の連携によって、質の異なる影響力を構築できる。
さらに、日本が取り得る重要な立ち位置は、ルール形成国である。三社は市場の標準を事実上定義しているが、その標準は法でも国際条約でもない。日本が、アジアや中東、欧州の一部と連携し、ガバナンス、長期投資、産業育成に関する新たな国際投資原則を提示できれば、三社の基準に一方的に従う立場から脱却できる。資本市場における影響力は、資金量だけでなく、何が正しい投資かを定義する力によっても生まれる。
要するに、日本が打ち出すべき国家戦略とは、世界三大投資会社を倒すことではなく、彼らが代表できない価値を、国家として代表することである。市場全体を受動的に保有する民間巨大運用会社に対し、日本は、能動的・戦略的・国家目的を伴った資本行動を提示できる。そのためのソブリンファンド構想は十分に現実的であり、むしろ今後の国際資本秩序の中で、日本が主権を保つための必須条件になりつつある。 これは金融の問題であると同時に、国家意思を資本という形でどう表現するかという、極めて政治的かつ戦略的な課題である。日本がこの問いから逃げ続ける限り、世界市場での発言権は、今後も他国の巨大運用会社を通じて間接的に行使され続けることになるだろう。国家の気概が問われる。
世界三大投資会社の相互協調運用懸念
この問題は、近年の資本市場で最も本質的かつ鋭い論点の一つである。結論から言えば、ブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの3社が相互に株式を保有していることによる協調的行動(暗黙の共同行動)を、完全に防止する制度は存在しない。そのことが最大の問題である。
まず前提として、三大投資会社が互いの株式を保有している事実は、インデックス運用が極限まで進んだ結果として必然的に生じた構造である。彼らは市場全体を保有する運用を行っているため、S&P500やMSCI Worldといった指数に組み込まれている限り、競合他社の株式も自動的に保有することになる。したがって、相互保有そのものは意図的な戦略というより、指数連動投資の受動的帰結である。
問題は、この相互保有が事実上の協調行動や競争抑制につながるのではないかという点である。これに対して、制度上の防止策としてまず挙げられるのが、反トラスト法(競争法)と証券規制である。米国では、シャーマン法やクレイトン法により、明示的な共謀、情報共有、価格・行動の協定は厳しく禁止されている。そのため、3社が協議して投資方針や議決権行使を調整することは、法的に明確な違法行為となる。形式的には、各社は完全に独立した意思決定プロセスを持ち、相互に相談や合意を行わないことが前提とされている。
また、運用会社内部では、受託者責任が強く課されている。これは顧客(投資家)の最善の利益のためにのみ行動する義務であり、競合他社との協調や市場全体の安定を理由に、投資家利益を犠牲にすることは許されない。少なくとも建前上は、ブラックロックがバンガードの利益を考慮して行動したり、ステート・ストリートと歩調を合わせて議決権を行使したりすることは、この義務に反する。
さらに、各社は議決権行使方針や投資プロセスを公開しており、一定の透明性と外部監視にさらされている。学者、規制当局、メディア、議会が常に注視しており、露骨な協調行動があれば即座に問題視される状況にはある。実際、ビッグ3による共同行動の懸念は、米国議会や学術界で繰り返し議論され、継続的な監視対象になっている。
しかし、ここからが本質である。これらの防止策はすべて明示的な協調を防ぐためのものであり、暗黙の協調や結果としての同調行動を防ぐものではない。3社は同じ指数を追い、同じ長期安定を志向し、同じガバナンス原則を持ち、同じようなリスク回避行動を取る。その結果として、話し合わなくても、極めて似た投資行動・議決権行使が自然に生じる。これは共謀ではなく、構造が生む同質性である。
現実には、3社が競争を激化させよう、価格破壊を促そうといった方向に動くインセンティブは乏しい。彼らは個別企業の勝ち負けよりも、市場全体の安定と長期成長から収益を得る存在であるため、競争が過度に激しくなること自体を好まない構造にある。これが、学術的にコモン・オーナーシップ(共通所有)として問題視されている点であり、法的にはグレーだが、経済的には実在する影響である。
では、現実に格別な防止策はあるのかと問われれば、答えは厳しい。現時点では、実効性のある決定的な防止策は存在しない。指数運用を禁止すれば市場が崩壊し、相互保有を禁じれば分散投資そのものが成り立たない。議決権を取り上げれば、資本主義の根幹である所有権が揺らぐ。結果として、規制当局は明示的共謀を禁止しつつ、構造的同調は監視するという、極めて不完全だが現実的な妥協点に留まっている。
要するに、この問題は違法行為が野放しにされているというより、資本主義が高度に進化した結果、従来の競争法では捉えきれない新しい権力構造が生まれてしまったという性質のものである。ブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの相互保有と類似行動は、陰謀ではなく制度の帰結であり、それを完全に防止する方法は、まだ世界のどこにも確立されていない。 したがって現在の資本市場は、意図なき協調が起こり得ることを承知のうえで、その巨大な利便性と安定性を選び取っている状態にあると言える。これは金融の問題であると同時に、現代資本主義が抱える構造的ジレンマそのものである。
相互保有構造
ビック3は、結局バンガードがファンドによって所有され、そのバンガードがブラックロックやステート・ストリートのかなりの割合を所有していることは事実である。
まずバンガードは外部株主を持たない非公開会社であり、バンガード自身はバンガードが運用する投資信託(ファンド)によって所有されているという相互会社型の構造を取っている。したがって、最終的な所有者は、バンガードのファンドを保有している世界中の投資家(年金、個人、保険会社など)である。
次に、そのバンガードのファンドは、運用方針として市場全体をそのまま保有するインデックス投資を行っている。S&P500、MSCI World、Russell指数などに連動する以上、指数に含まれる企業の株式は、良し悪しに関係なく自動的に組み入れられる。その結果として、ブラックロックやステート・ストリートが指数に含まれている以上、バンガードのファンドは両社の株式を一定割合で保有することになる。
一方で、ブラックロックやステート・ストリートのファンドも、同じ理由でバンガード関連の株式(上場している競合企業)を保有するため、結果として三社は相互に株式を保有している状態になる。
しかし、ここで極めて重要な点がある。それは、この相互保有は経営支配や意図的な資本提携を意味しない。実際にバンガードが保有しているブラックロック株やステート・ストリート株の比率は、個別には概ね数%台(典型的には5~10%未満)であり、これは米国の上場大企業においては最大株主になり得ることはあっても、経営を支配できる水準ではない。しかもその株式は、バンガード社が自分の意思で保有しているのではなく、指数に従うファンドが機械的に保有しているものである。
さらに議決権の行使においても、バンガードがブラックロックのために動く、ステート・ストリートと協調する制度的余地はないという点である。各社はそれぞれ独立した受託者責任を負い、顧客(ファンド受益者)の利益のためにのみ議決権を行使する義務がある。明示的な協調や合意があれば、競争法・証券法上の重大な違反になります。
したがって、構造を正確に述べれは、バンガードは自社ファンドによって所有されており、そのファンドは市場全体を保有する過程でブラックロックやステート・ストリートの株式も一定割合で保有している。しかしそれは支配や同盟ではなく、インデックス投資が極限まで進んだ結果として生じた、非意図的かつ制度的な相互保有である。
相互保有と循環保有
相互保有とは、二つ以上の企業がそれぞれ相手の株式を保有している状態を指す。典型例は、A社がB社の株を持ち、B社もA社の株を持っているケースである。これは必ずしも経営支配を目的としたものではなく、インデックス投資や長期保有、取引関係の安定化などの結果として生じることも多い。現代では、ETFや指数連動投資が普及した結果、意図せず相互保有が発生することが一般化している。ブラックロック、バンガード、ステート・ストリートの関係はこの典型で、彼らは市場全体を保有するため、互いの株式を自動的に持つことになる。重要なのは、相互保有それ自体は違法でも異常でもなく、必ずしも協調や支配を意味しない。
一方で、循環保有とは、株式保有が輪のように連鎖し、最終的に自分自身に戻ってくる構造を指す。たとえば、A社がB社を持ち、B社がC社を持ち、C社がA社を持つ、あるいはもっと複雑な多重構造を通じて、実質的には同じ資本がぐるぐる回っている状態である。循環保有の本質的な問題は、実態以上の資本力や支配力があるかのように見せかけられる点にある。自己資本が水増しされ、誰が最終的な支配者なのか分かりにくくなり、企業統治や財務の透明性を著しく損なうす。そのため、日本では戦後の財閥解体以降、循環保有は強く問題視され、規制や解消が進められてきた。
この二つの決定的な違いは、自己強化の閉じた輪になっているかどうかである。相互保有は、AとBが互いに株を持っていても、最終的な所有者は外部の投資家であり、資本は外に開かれている。一方、循環保有は、どこまでたどっても内部に戻ってくるため、外部の規律が働きにくい閉鎖構造になる。
もう一つ重要な違いは、意図性と政策評価である。循環保有は、経営支配の固定化、敵対的買収の防止、経営陣の保身といった明確な意図をもって設計されることが多く、政策的に否定的に扱われるのが一般的である。対して相互保有は、特に現代の金融市場では、インデックス投資・年金運用・分散投資の副作用として自然発生的に生じる場合が多く、一律に禁止すべき対象とはされていない。
整理すると、次のように言える。相互保有は横に持ち合っている状態であり、必ずしも支配や不透明性を生まない。循環保有は内部で資本が回り続ける状態であり、支配の固定化と不透明性を生む。
したがって、ブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの関係を指して循環保有ではないかと感じる直感は理解できるが、厳密にはそれは循環保有ではなく、グローバル分散投資が極限まで進んだ結果としての相互保有であるとされる。問題の本質は不正な自己循環ではなく、意図なき相互保有が巨大化したことで、影響力が集中して見える点にある。 ブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの関係は、循環保有ではないが、世界的規模で相互保有が巨大化した結果、機能的には循環構造に近い影響力を持つようになった点にある。これが壮大な構想をもって進められていないことを祈るばかりである。
AI時代のシステミック・リスク
ビック3は、いずれも世界最大級の資産運用会社であり、運用のあらゆる局面でAIを活用している。ここで重要なのは、彼らがAIを市場を出し抜くための魔法の装置として使っているわけではなく、巨大すぎる運用規模ゆえに、人間だけでは不可能なリスク管理・最適化・執行を支えるインフラとしてAIを使っているという点である。ブラックロックのAladdinに代表されるように、AIはポートフォリオのリスク計測、相関分析、ストレステスト、取引執行の最適化といった領域で中枢的な役割を果たしている。
問題は、AIが高度化し、かつ三社の運用哲学がもともと非常に似通っている点にある。三社はいずれも、長期・分散・低コスト・指数連動を基軸とする運用を行い、同じ市場データ、同じ指数、同じリスク指標を参照している。そのため、AIが最適解を学習すればするほど、三社の判断が話し合わなくても同じ方向に収束する可能性は理論上高まる。これは共謀でも談合でもなく、同一の入力と目的関数を与えられたアルゴリズムが、同じ結論に到達するという、極めて自然な現象である。
この構造が危険なのは、AIが人間よりもはるかに速く、かつ自動的に行動する点にある。もし市場に大きなショックが生じ、AIがリスクを下げよ、ボラティリティを削減せよ、流動性を確保せよと判断した場合、三社の運用システムがほぼ同時に、ほぼ同じ資産を、ほぼ同じ方向に動かす可能性がある。その規模は世界の株式・債券市場の相当部分に及ぶため、人間が状況を認識し、会議を開き、方針転換を決定する前に、市場価格が大きく歪む、あるいは流動性が一気に枯渇するリスクは理論的に否定できない。
これはいわば、AIによる暗黙の協調行動であり、従来の競争法や市場規制が想定していなかった新しいリスクである。意図的な協調ではないため違法性はなく、しかし結果としては、巨大な同調売買が瞬時に発生しうる。この点で、AI運用は市場を安定させる力にもなり得る一方で、条件が揃えば人間の介在余地を奪ったまま、市場を破壊的に動かす増幅装置になり得る。
最も、現実にはいくつかの重要な歯止めも存在する。第一に、三社の中核であるパッシブ運用は、原則として市場が動いたから売る、価格が下がったから逃げるという設計にはなっていない。指数連動型のファンドは、原則として保有を続け、売買は資金流出入や指数変更に限定される。したがって、AIが全面的に裁量売買を行うヘッジファンドとは性格が異なる。第二に、実際の議決権行使や資産配分の大枠には、いまだに人間の委員会とガバナンスプロセスが介在しており、完全な自律AIには委ねられていない。第三に、規制当局や中央銀行が、AI取引・アルゴリズム取引に対する監視を強化し、市場停止措置(サーキットブレーカー等)を用意している点も一定の抑止力となっている。
しかし、それでも残る本質的な懸念は消えない。それは、AIが高度化すればするほど、人間が同じ判断を下す前提が薄れ、システム同士が先に反応してしまう可能性が高まるという点である。とりわけ、三社のように市場全体を代表する存在が、似たAI・似たデータ・似た評価軸を使い続ける限り、意図なき同調が瞬間的な市場支配に転化するリスクは構造的に内包され続ける。
AI時代におけるブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの最大のリスクは、悪意や陰謀ではなく、合理性が行き過ぎた結果としての同調である。市場を最も安定させるために設計された仕組みが、極端な状況下では最も不安定な力に転じる可能性がある。この逆説こそが、AI運用時代の資本市場が直面している最大の課題であり、今後はAIの性能以上に、AIをどこで止め、どこに人間を残すかという設計思想が、金融の安定を左右する決定的要素になっていくだろう。
超AI資本体の出現(予測)
1.超AI資本体とは
量子AI時代には超AI資本体が出現すると予想される。それは単なる巨大企業の延長ではなく、知性(AI)計算(量子)資本(マネー)を一体化させ、世界の意思決定そのものを自動化する新しい主体である。ブラックロックが資本の配分を、GAFAMが情報の流れを支配したのに対し、超AI資本体は市場そのものを設計・生成する側に回る点が決定的に異なる。
2.データ・資本・計算の融合
超AI資本体が成立するためには、三つの条件が必要である。第一に、決済・通信・などを通じた行動データの独占。第二に、企業買収やインフラ投資まで含む資本の実行力。第三に、開発・価格・リスク管理を統合するAIによる意思決定の自動化である。量子計算が加わることで、これらは部分最適を超えた社会全体の横断最適化へと進化する。
3.ブラックロックやGAFAMとの違い
ブラックロックは市場の中で資本を配分し、GAFAMは情報と取引の流れを束ねたが、超AI資本体は、データで需要を作り、資本で供給を再編し、計算で両者を同時に最適化する。金融・物流・情報が一体化した配分機構となり、従来の企業はその内部へ部品として吸収される。
4.量子計算がもたらす決定的優位
量子計算は、金融ポートフォリオ、価格設定、信用配分といった巨大な組合せ問題を横断的に解く力を与える。これにより、超AI資本体は市場の断片ではなく、市場間の連立方程式を解く主体となり、勝者総取りの構造を固定化する。
5.見えない統治体の誕生
超AI資本体の支配は、悪意からではなく最適化の必然として生まれる。渋滞、詐欺、投資の効率化が進む一方で、自由や多様性がコストとして排除される危険がある。しかも、選挙で交代せず、ネットワーク効果で強さが固定されるため、超AI資本体は見えない統治体として社会を規定する。
6. 超AI資本体が圧倒的に強い理由
その理由は3つある。第一に価値の源泉が資産から配分の支配へ移ることである。第二にAIが意思決定のボトルネックを消すことである。第三にデジタル通貨・ID・クラウドが統合され、閉じた経済循環を形成できることである。これにより、超AI資本体は外部市場に依存せず、外部市場を自ら再編できる。
7.人類の課題
超AI資本体は資本家ではなく、計算が資本を通じて社会を動かす装置である。対抗するには、データ主権、決済の公共性、耐量子暗号、競争政策、そして最適化に含めるべき価値の明文化が不可欠である。量子AI時代の戦いは、技術と資本だけでなく、何を価値として世界に埋め込むかを巡る戦いとなるだろう。超AI資本体が、世界を牛耳る野心ある一握りの人たちの手に落ちないことを祈るばかりである。
