人は出会うべき人には必ず出会う。ただの偶然として（森信三）
哲学者・森信三の言葉である。彼にとって出会いは運ではなく、人格や日々の行いが引き寄せる必然である。人生がどう進むかは、出会いをどう受け止め活かすかによって決まる。
森信三は、出会いの質は「出会う側の心の準備」によって左右されると説く。学ぼうとする者には師が現れ、人を大切にする者には助けが訪れる。しかし準備が整っていない者は優れた出会いに触れても価値を理解できず、生かすこともできない。出会いは心の鏡だと言える。
彼は、出会いには三つの縁があると言う。方向を示す師、共に歩む仲間、見守って支える人。これらが揃うことで人生は安定し、欠ければ迷走する。そして出会いを意味あるものにするのは行動であり、学びを実践して初めて教えは血肉となる。
一度の感動より、一歩踏み出す勇気が人生を変える。出会いを大切にするには、人を丁寧に扱う心が必要だ。挨拶、約束、感謝といった小さな行動が縁を育て、より大きな出会いを呼び込む。良い出会いも悪い出会いも、自分を成長させるための機会であり、受け止め方が人間の器を決める。
この思想は起業家にも深い示唆を与える。事業を左右するのは資金や肩書きではなく誰と出会うかである。出会った相手は自分の現在の器が引き寄せた結果であり、器を広げる努力を続ける者にこそ大きな縁が訪れる。
では、縁を引き寄せる起業家とはどんな人か。
第一に、学ぶ準備が整っている人である。チャンスが到来しても理解ができなければ活かせない。
第二に、感動を行動に変える人である。助言は動いてこそ価値を生む。
第三に、小さな縁を丁寧に育てる人である。礼儀や誠実さは細い縁を大きな可能性へと育てる。
出会いとは短期的に使うものではなく、投資のように育てるものだ。一人の人物との縁が事業を変え、人生を変える。偶然に見える出会いの中に必然を読み取り、学んだことを行動に移し、縁を育て続ける者だけが未来を拓く。一つの縁が、十年後の未来を創る。すべての出会いは必然であり、あなたを成長させるための贈り物である。この視点で生きる起業家の人生は、必ず開かれていく。
人に偶然の出会いはない（ユング）
カール・ユングも森信三と期せずして同じことを言っている。「人は偶然に出会うことはない」というユングの言葉は、神秘ではなく、無意識が必要な人物を引き寄せるという心理学的洞察から導かれている。
ユングによれば、出会いは今の自分の器の反映である。優れた投資家や共同創業者に出会えるかどうかは運ではなく、心構え・人格・決断力・誠実さといった内面の状態が決める。器が大きいほど出会いの質も高まり、未熟であれば大切な縁を見逃してしまう。出会いは内面の鏡なのだ。
また、ユングは人間関係にはシャドウ（投影）が働くと説く。惹かれる人は自分が欲している資質を映し、反発を覚える相手は自分の弱さや課題を示す。扱いにくい社員や批判的な顧客ですら、成長のきっかけになる。すれ違いも学びに変えられる。避けたい相手こそ成長を促す存在だとユングは言う。
さらに事業の転換点にはシンクロニシティ（意味ある偶然）が起こる。資金が尽きる瞬間に救いとなる人物が現れたり、解決策をもたらす人と出会ったりする。これは無意識が未来の方向を読み取り、必要な縁を導くからだ。直感はその通知のようなものだ。
出会いを生かす起業家には共通点がある。出会いを偶然ではなく必然として受け取る。自分の感情反応を手がかりに内面を磨き、出会いを行動に変え、縁を長期的に育てる。出会いは利用するものではなく育てるものであり、10年先の果実を生む。
起業とは心の状態が縁を呼ぶ旅である。好きな相手も嫌な相手も、すべては未来の成長のために現れる。出会いに偶然はない。必然に気づいた者だけが、人脈を力に変え、人生と事業を本当の意味で開花させる。