米国イスラエル・イラン戦争

2026年9月23日

目次

妥当な論者

以下は米国イスラエルとイラン戦争の妥当な論者の意見を要約したものである。これら論者は、イスラエル政府の対イラン政策を批判する点では共通しているが、戦争の原因を説明する際に重視する問題は異なる。ミアシャイマーは国家間の勢力均衡、サックスは米国とイスラエルの覇権政策、パルシはイスラエルの軍事的優位と外交的な責任追及の欠如、パペはシオニズムとパレスチナ問題の歴史的連続性を重視する。モキバーは国際法、リッターとマグレガーは軍事戦略と米国の安全保障上の利益、マランディーはイランの主権とイスラエルの地域政策を中心に論じている。

1ジョン・ミアシャイマー
John J. Mearsheimer
米国シカゴ大学名誉教授
国際政治学者
ミアシャイマーは、2026年4月5日のアルジャジーラでのインタビューにおいて、中東の不安定化をイランだけに帰する米国・イスラエル側の説明に異議を唱えた。彼の現実主義的な国際政治理論では、国家は自国の安全保障と勢力均衡を重視して行動する。イランの軍事力や地域的影響力の拡大も、イスラエルや米国による圧力への対抗という観点から分析すべきだとする。2026年3月には、イスラエルが以前から米国を対イラン戦争に引き込もうとしてきたとの見解を示し、今回の戦争についても、米国がイスラエルとともに軍事行動を開始した。彼は、中東の不安定化の原因は、イスラエルの軍事行動や米国の地域介入が安全保障上の対立をもたらした主因であると論じている。

2ジェフリー・サックス
Jeffrey D. Sachs
米国・コロンビア大学教授
経済学者・国際開発専門家
サックスは、2026年2月に始まった米国・イスラエルの対イラン軍事行動を、国連憲章に違反する侵略戦争であると主張している。彼は、イスラエル政府がイランの核開発を脅威として強調する一方、米国が2018年に核合意から離脱し、外交的解決の可能性を損なったことを重視する。2026年3月の論考では、イスラエルの地域的な軍事優位の確立と、米国の世界的な覇権維持という二つの目的が結びついて戦争が生じたと分析した。また、イスラエルの対イラン政策をパレスチナ国家の樹立阻止や中東全域における軍事的優位の追求と関連づけている。サックスは戦争の責任をイスラエルだけに帰しているのではなく、軍事行動を共同で決定・実行した米国政府にも重大な責任があると論じている。

3.トリタ・パルシ
Trita Parsi
イラン系米国人の外交専門家
クインシー研究所共同創設者
パルシは、イスラエルが米国の軍事的・外交的支援によって中東で圧倒的な軍事優位を確保し、周辺諸国から十分な抑止を受けない地域秩序が形成されてきたと論じる。2026年2月28日のインタビューでは、米国とイスラエルによる対イラン攻撃を、外交交渉による解決の可能性が残されていたにもかかわらず選択された戦争として批判した。同年7月には、イスラエルの軍事行動に対する欧米諸国の支援と責任追及の欠如が、パレスチナ占領の終結や周辺国との和平を進める動機を弱めていると指摘した。彼の分析では、イスラエルの軍事的優位を維持することと、中東全体の安全保障を実現することは同義ではない。イランへの軍事的圧力だけでなく、相互抑止と外交交渉を含む地域秩序の再構築が必要だと主張している。

4.イラン・パペ
Ilan Pappé
イスラエル出身・英国エクセター大学歴史学者
パペは、2026年3月11日の論考で、米国とイスラエルによる対イラン戦争を、イラン国民の民主化や人権保護を目的とする戦争として説明することに異議を唱えた。イランの政治体制による国内の抑圧を批判する一方、外国による軍事攻撃がイラン国民の自由を実現するとは考えていない。同年5月の論考では、イスラエルとイランの対立を核開発や安全保障だけで説明することは不十分であり、シオニズムの歴史、領土拡張をめぐる思想、パレスチナ問題、イスラエルによる中東の地域秩序の再編という長期的な文脈から理解すべきだと主張した。彼の分析では、パレスチナ人の民族自決をめぐる問題と、イスラエルの周辺諸国に対する軍事政策は切り離せない。イランへの攻撃も、イスラエル政府が追求する地域的な政治秩序の一環として位置づけている。

5クレイグ・モキバー
Craig Mokhiber
米国の国際人権法専門家
元国連人権高等弁務官事務所NY所長
モキバーは、2026年3月のインタビューで、米国とイスラエルによる対イラン攻撃を国際法に違反する武力行使であると批判した。彼は、国家が他国の政治体制や安全保障上の脅威を問題視しても、それだけで軍事攻撃が合法化される訳ではなく、国連憲章の武力行使禁止原則と自衛権の要件に照らして検証しなければならないと論じる。また、ガザ地区での民間人保護をめぐる問題と、イランに対する軍事行動を、国際法の適用における一貫性という観点から関連づけている。米国などが同盟国による武力行使を十分に抑制しなければ、国際法に基づく秩序が弱体化するとの立場である。彼の批判は、イスラエル政府の行動だけでなく、それを支援し、共同で軍事行動を実施する米国政府の責任にも向けられている。

6.スコット・リッター
Scott Ritter
米国の元海兵隊情報将校
元国連イラク大量破壊兵器査察官
リッターは、2026年8月28日の論考で、同年2月28日に始まった米国・イスラエルの対イラン軍事行動を侵略戦争と位置づけ、米国が掲げた軍事的・政治的な目標を達成できなかったと主張した。彼は、米国の中東政策がイスラエルの安全保障上の要求と深く結びつき、湾岸諸国に駐留する米軍や地域の安全保障体制にも影響を及ぼしていると分析する。また、イランの報復攻撃によって、米軍基地の存在が周辺諸国を必ずしも戦争から守るものではなく、攻撃対象となる危険も伴うことが明らかになったと論じている。彼の見解では、イスラエルとの軍事協力を中心に構築された米国の地域安全保障体制そのものを再検討する必要がある。

7ダグラス・マグレガー
Douglas Macgregor
米国の退役陸軍大佐
元国防長官上級顧問
マグレガーは、2026年6月19日のインタビューで、イスラエルの対イラン軍事行動を、中東における自国の影響力を拡大しようとする政策の一環として批判した。彼は、イスラエル政府が軍事力によって周辺諸国の脅威を取り除こうとしても、攻撃対象となった国家や社会の敵対意識を強め、長期的な安全保障を損なうと論じている。特に、イスラエルの領土的・地域的な影響力拡大をめぐる構想が、周辺諸国との対立を深めていると分析する。彼は、米国がイスラエルの地域戦略と自国の安全保障上の利益を同一視することにも批判的であり、対イラン戦争への参加を米国の中東政策の問題として捉えている。軍事的な優位を維持することと、地域の政治的な安定を実現することは異なるというのが、彼の主張の中心である。

8モハマド・マランディー
Seyed Mohammad Marandi
イラン・テヘラン大学教授
元イラン核交渉団顧問
マランディーは、2026年6月のインタビューで、米国とイスラエルによる対イラン戦争の背景には、イスラエル政府が長年追求してきたイランの政治体制の転換と、同国の地域的影響力の排除という目的があると主張した。彼は、イランの核開発をめぐる問題は外交交渉によって解決する余地があったにもかかわらず、イスラエルの対イラン政策と米国の軍事介入によって戦争が始まったと分析する。また、ガザ地区やレバノンでの軍事行動とイランへの攻撃を、中東の地域秩序を再編しようとする一連の政策として捉えている。彼によれば、イスラエルの軍事行動は周辺諸国の抵抗を強め、地域全体の不安定化につながっている。

イスラエル擁護の論者

一方的な論者だけでは妥当性を欠くので、以下イスラエル擁護の論者の考えも要約しておく。これら論者はイランの政治体制や軍事政策に対する批判という点では共通している。しかし、問題の解決方法については明確な違いが存在する。ボルトンはイランの現体制を核・安全保障上の脅威と捉え、体制転換の必要性を主張する。デュボウィッツは、核開発、ミサイル、武装組織への支援を一体的に制約するため、軍事的・経済的な圧力を重視する。一方、ロスとネフューは、イランの軍事能力に対する検証可能な制約と、戦争を終結させるための外交交渉を重視する。サジャドプールとマロニーは、イランの革命思想、統治機構、地域政策を分析しながら、外国からの軍事攻撃が必ずしも体制の変化につながらないことを指摘している。いずれもイランを比較するばかりで米国とイスラエルを批判的に検討していないのが特色である。これが現在の米国イスラエルのスタンスを凝縮して示している。

1.ジョン・ボルトン
John R. Bolton
元米国大統領補佐官(国家安全保障担当)
元国連大使
ボルトンは、イランのイスラム共和国体制を中東の不安定化と核拡散の主要な原因と捉えている。2026年3月3日のPBSのインタビューでは、イランの核兵器開発の脅威を終わらせるには現体制の排除が必要だという従来の立場を維持し、米国とイスラエルによる軍事行動を正当なものと評価した。彼は、イランの核開発、弾道ミサイル、地域の武装組織への支援を一体的な安全保障上の脅威として扱い、核施設への限定的な攻撃や外交交渉だけでは問題の根本的な解決にならないと考える。一方、2026年5月の論考では、トランプ政権が戦争の終結目標を明確にしないまま軍事行動を開始したことを批判した。イランの体制を脅威と捉えることと、米国政府の戦争遂行方法を支持することは別であるという立場である。

2.マイケル・ドーラン
Michael Doran
米国ハドソン研究所中東研究センター所長
元米国家安全保障会議高官
ドーランは、イスラエルとイランの対立を、イスラエルによる一方的な軍事的圧力としてではなく、イランが長年にわたり米国とイスラエルの影響力を排除しようとしてきた地域戦略の結果として分析する。2026年2月19日の論考では、2025年の12日間戦争でイランの防空能力や弾道ミサイル戦力が損なわれたにもかかわらず、核問題をめぐる対立が解消されなかったことを指摘した。彼は、イランの核・ミサイル能力と地域的な影響力の拡大を、米国の中東における同盟関係を揺るがす要因として重視する。そのため、イスラエルの対イラン軍事行動を、米国とイスラエルが共有する安全保障上の課題への対応として捉えている。

3.デニス・ロス
Dennis Ross
元米国中東和平担当特使
ワシントン近東政策研究所特別研究員
ロスは、イランの核開発、ミサイル戦力、地域の武装組織への支援を、イスラエルだけでなく湾岸諸国や米国にとっても重要な安全保障上の問題と捉える。2026年3月2日のワシントン近東政策研究所の討論では、米国とイスラエルによる対イラン攻撃を受け、米国の安全保障、イラン国民の将来、地域の安定をどのように確保するかという観点から政策を検討した。同年6月には、戦争の終結に際して、ホルムズ海峡の全面的な再開やイランの濃縮ウランの国外搬出を重視する立場を示した。彼の分析では、イランの軍事能力を一時的に低下させるだけでは不十分であり、核開発や地域的な軍事活動に対する検証可能な制約が必要となる。ただし、イラン政府の行動を問題視することと、無期限の戦争継続を支持することは同じではない。

4.リチャード・ネフュー
Richard Nephew
元米国イラン担当特使代理
核不拡散・経済制裁専門家
ネフューは、イランの核開発と制裁回避をめぐる問題を、外交交渉と経済的圧力の双方から分析してきた。2026年4月28日の論考では、イランの政治体制が抱える経済的・社会的な問題を踏まえ、米国が軍事力によって体制転換を直接実現しようとすることには慎重な立場を示した。同年6月の討論では、戦後の米国とイランの交渉をめぐり、核開発、ミサイル、地域安全保障などの未解決問題を取り上げた。彼の分析では、イラン政府の核・軍事政策に対して継続的な制約を設けることが重要である一方、戦争の拡大によって米国自身が大きな負担を負うことも避けなければならない。イランの行動を地域の安全保障上の問題として捉えながら、軍事的な圧力と外交的な解決を区別して考える立場である。

5.マーク・デュボウィッツ
Mark Dubowitz
米国民主主義防衛財団最高経営責任者
デュボウィッツは、1979年のイスラム革命以降、イランの政治体制が核開発、弾道ミサイル、武装組織への支援を組み合わせ、中東での影響力拡大を追求してきたと主張する。2026年3月の討論では、2015年のイラン核合意について、核開発に対する制限が将来失効する仕組と、制裁緩和による資金流入がイランの軍事能力や武装組織への支援を強化する危険性を指摘した。同年6月の論考では、米国とイスラエルによる軍事的・経済的圧力を外交交渉での重要な交渉材料と捉え、十分な制約を確保しないままイランへの圧力を緩和することに反対した。彼の見解では、核問題だけを切り離した合意では地域の安全保障問題は解消されず、イランの核・ミサイル能力と武装組織への支援を一体的に制約する必要がある。

6.カリム・サジャドプール
Karim Sadjadpour
米国カーネギー国際平和財団上級研究員
サジャドプールは、イランの対外政策を理解する上で、1979年のイスラム革命以来の革命思想と、イスラム共和国体制の存続を最優先する指導部の行動原理が重要であると分析する。2026年6月18日の討論では、戦争によって指導部や軍事能力が損なわれても、体制の中核を構成する革命防衛隊出身者や強硬派の影響力が維持されていると指摘した。また、米国が経済制裁の解除や巨額の投資を提示しても、イラン指導部にとっては、西側諸国との関係改善による国内社会の変化が体制存続への脅威と映る可能性があると論じた。彼の分析では、イランの対外的な対立姿勢は軍事的な合理性だけでなく、革命体制の正統性や国内統治の仕組とも結びついている。ただし、対イラン戦争が体制を弱体化させるとは限らず、外部からの攻撃が体制の結束を強める可能性も指摘している。

7.スザンヌ・マロニー
Suzanne Maloney
ブルッキングス研究所外交政策プログラム副所長
マロニーは、イランがヒズボラ、ハマス、フーシ派などとの関係を通じて地域的な影響力を拡大し、イスラエルや湾岸諸国との対立を深めてきたと分析する。2024年の米上院外交委員会への証言では、イランが支援する武装組織のネットワークを中東の安全保障上の重要な問題として取り上げた。2026年3月の討論では、イランによる湾岸諸国への報復攻撃やホルムズ海峡の封鎖が、エネルギー供給と世界経済に深刻な影響を及ぼしたと指摘した。一方、米国とイスラエルの軍事攻撃によってイランの指導部が損害を受けても、革命防衛隊を中心とする統治機構は存続し得ると分析する。彼女は、イラン政府の軍事政策を地域の不安定化の要因として重視しながらも、軍事力による体制転換の実現可能性や、戦争後の国内統治の問題を慎重に検討している。

再考すべき米国イスラエルの戦争論理

米国イスラエル連合による対イラン軍事行動を巡っては、イスラエルの安全保障上の要求が米国の中東覇権政策に強く影響し、外交的解決より軍事的圧力が優先されてきたと見るのが、妥当な判断であると思われる。イランの核・ミサイル開発や地域武装組織には検証すべき問題があるが、それらが直ちに苛烈な先制攻撃を正当化する訳ではない。米国とイスラエルには軍事行動の目的と法的根拠を世界に向けて明確にする責任がある。戦争の帰結は、軍事的損害だけでなく、民間人の安全、国際法の遵守、外交的解決の実現という観点から判断する必要があるが、米国は自ら振り上げた拳が、思いのほか通用しない事態に直面し、困惑しているとしても、戦争を終結させるためには、今こそ、世界のリーダーとして勇気ある撤退と謝罪を行うべきである。そもそも他国に軍事進攻して体制を転覆させようとしている時点で、米国とイスラエルに弁明の余地はない。イランの報復能力やホルムズ海峡をめぐる優勢は、軍事的圧力だけでは解決に至らないことは明らかである。停戦合意の履行や交渉の継続をめぐる相互不信は、一旦合意した停戦合意を一向に守らない米国に起因することは世界中の識者には自明となっている。米国はそのことを遅まきながらでも理解しなくてはならない。
國井正人(文責)

歴史に関する考察

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