無形なものに重きを置けない日本

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無形資産軽視という構造的弱点

日本はモノをつくる力は強いが、構想・人材・情報・ブランド・制度を価値に変える力が弱い。日本の弱点をソフトウェア産業が弱いとだけ捉えると、本質を見誤る。より根深い問題は、目に見える設備・製品・建物・機械には価値を認めやすい一方、構想力、デザイン、ブランド、知的財産、情報、データ、人材、交渉力、ネットワーク、哲学といった無形のものに十分な価値を認め、それに長期的に資金を投じることが不得意である。日本の問題は技術がないのではなく、技術、人材、資本、情報を組み合わせ、社会的・経済的価値に転換する無形の能力が弱いところにある。

なぜモノは強いのに価値を取れないのか

1.携帯電話

スマートフォンは、日本の問題を象徴する事例である。電子部品、センサー、素材、精密加工など、日本企業は長年重要な供給者であり続けてきた。しかし最終的な産業の利益と主導権を握ったのは、部品メーカーではなく、AppleやGoogleのように、OS、アプリ、サービス、ブランドまで統合した企業であった。日本が不足していたのは製造技術ではない。何を作るか、誰にどんな体験を提供するか、世界中の企業をどう自分たちのプラットフォームに参加させるのかという構想力である。優れた部品を100個作る能力と、100個を組み合わせて一つの新しい市場を作る能力は別物である。日本は前者では世界最高水準でありながら、後者を企業能力として育てることに失敗している。

2.半導体

日本は1980年代には半導体で世界の頂点に立っていた。しかし日米半導体摩擦、メモリーへの過度な集中、ファブレス・ファウンドリー型産業構造への対応の遅れなどが重なり、最先端ロジック半導体では台湾、韓国、米国に主導権を譲った。現在でも日本は半導体材料、製造装置、精密部材など非常に重要な位置を占めている。政府自身も材料・製造装置を日本の重要な強みとして位置付けている。しかし半導体産業の最大の価値は次第に、単なる製造技術だけではなく、回路設計、EDA、IP、アーキテクチャ、ファウンドリー運営、顧客囲い込み、標準化へ移った。ここでも日本は装置を作ることには強かったが、半導体産業を設計する力では後手に回った。また日米半導体交渉についても、単純に米国に潰されたと理解するだけでは足りない。重要なのは、産業政策、通商交渉、企業戦略を一体化して国益を守る能力が不足していた。

3.銀行

日本の金融は象徴的である。土地、工場、設備など担保価値が計算できるものには融資しやすい。一方で優秀な技術者、プログラム、特許、データ、ブランド、事業モデルなどの価値を銀行員が評価することは難しい。その結果、10億円の建物を建てる企業には融資できても、20人の極めて優秀なAI研究者を採用する企業への10億円投資には躊躇するという逆転現象が起こる。しかし現在の世界では後者の方が巨大な企業価値を生む可能性がある。銀行に欠けているのは単なるリスク許容度ではなく、無形資産を評価する専門能力の欠如である。

4.投資ファンド

日本の年金、保険会社、銀行、企業は世界有数の巨大な資金を保有している。その資金は米国や欧州のプライベート・エクイティ、ヘッジファンド、VC、インフラファンドへ流れている。ここには非常に興味深い矛盾がある。日本人はBlackstone、KKR、Apollo、Sequoiaなどの人間の投資判断には巨額の資金を任せる。しかし、日本国内で同様に優れた投資人材が独立してファンドを作ろうとすると、実績は、担保は、親会社は、元本保証はと問われる。日本は、外国人の無形能力には高い報酬を払うのに、日本人自身の無形能力を資産として評価しない傾向にある。

5.ベンチャーキャピタル

VCとは本来、財務諸表を見る仕事ではない。まだ存在していない市場を想像し、技術、人間、構想を見る仕事である。したがって失敗を許容する資本でなければ成立しない。ところが日本では長く、VCを銀行、証券、保険、大企業などの系列組織が担ってきた。これらは本来損失を避ける能力で評価される組織である。その結果、10件投資して8件失敗し、1件が100倍になるというVCの経済原理と、失敗案件を出した担当者が責任を問われるという日本企業の評価制度が衝突する。世界のAI向けVC投資が米国へ圧倒的に集中していることを考えても、この資本供給構造は重要である。

6.AI

この問題が最も鮮明になっているのがAIである。GPU、データセンター、電力設備を整備することは重要である。しかしAI競争の核心は、モデル、データ、アルゴリズム、AIエージェント、ソフトウェア、AI人材である。巨大なデータセンターを造っても、その上で外国製AIモデルを動かすだけなら、日本はAI時代の地主あるいはインフラ提供者にとどまりかねない。最も、日本政府も2025年以降は方針を転換しつつあり、2026年度には全府省庁約18万人を対象とした生成AI省内の大規模実証、国産LLMの利用、AIアプリケーション開発、政府共通データセット整備まで進めている。日本政府は生成AIに何もしていないという段階ではないが、問題はこれを一過性の実証に終わらせず、AIを使う人間、AI企業、AIアプリケーション、データ資産を継続して育てられるかである。

7.ロボット

日本にはファナック、安川電機、川崎重工など世界的なロボット企業がある。しかし物理AI時代になると、価値の中心はロボット本体だけではなく、認識、推論、学習、シミュレーション、制御ソフトウェアへ移る。ロボット本体を日本が作り、その頭脳を米国企業が握る構図になれば、スマートフォン産業の再現となる。日本に必要なのはロボット技術の延長ではなく、AIとロボットを一つの産業として構想する能力である。

8.防衛

防衛にも同様の構造がある。艦船、戦闘機、ミサイルは予算化しやすい。一方で情報機関、人的情報網、サイバー人材、外国語専門家、分析官、衛星情報解析などは成果が見えにくい。しかし現代戦ではどこを攻撃するか以前に、敵が何をしようとしているのかを知る能力の方が重要である。太平洋戦争期にも日本は巨大な戦艦を建造する工業能力を持ちながら、情報、暗号、兵站、総合戦略で深刻な問題を抱えた。これはまさにハードウェア能力と戦略的知能が分離する日本型の問題である。

9.水

水に関して日本は世界最高水準の技術を持ちながら、国家戦略商品にできていない。膜技術、ポンプ、水処理、海水淡水化関連など、日本企業には高い技術力がある。しかし水不足は単なる商売ではない。中東、インド、アフリカなどでは、水は食料、安全保障、都市政策、外交と直結する。したがって日本が提供すべきなのは単体のプラントではなく、日本と組めば30年間、水を確保できるという国家パッケージである。技術、金融、ODA、外交、保守、AI、水道運営まで組み合わせれば、日本の水技術は外交資産となる。不足しているのは水処理技術ではなく、水技術を地政学的な価値へ転換する構想力である。

10.研究者

日本はノーベル賞級の頭脳は生むが、頭脳を中心に産業を作れていない。ところが突出した研究者に十分な報酬、研究費、スタッフ、株式、自由裁量を与えることには抵抗が強い。米国では優秀な研究者を中心に大学、VC、企業、政府資金が集まり、一つのエコシステムになる。日本では研究者を組織の一員として処遇する傾向が強いため、突出した研究者が海外へ移ると、その人だけでなく、その人を中心として将来形成されるはずだった企業群まで海外へ移ってしまう。

11.大学

研究成果という無形資産を産業化するためには、特許、ライセンス、起業家、VC、経営人材、ストックオプションが必要である。日本では大学研究と企業経営が長く分離してきた。研究者は研究をすべきで、金儲けをするものではないという価値観も残った。しかしスタンフォード、MIT、ハーバードなどでは大学の知識そのものが地域産業を形成する。大学を教育施設とだけ考えるか、知的資本を生み出す巨大な経済主体と考えるかという哲学の違いである。

12.ブランド

日本は世界一級の品質を作っても、世界一級の価格を取れない。日本には極めて高品質な衣服、食品、工芸、ホテル、陶磁器、時計、家具がある。しかしフランスやイタリアのブランドほど高い価格決定力を持つ企業は少ない。ブランドとは工場ではない。歴史、物語、デザイン、希少性、店舗、人物、広告、文化との結び付きなどが作り出す共同幻想ともいえる無形資産である。日本企業はしばしば良いものを作れば分かってもらえると考える。しかし世界市場では、良いものを作る能力と、その価値を世界に信じさせる能力は全く別の能力である。

13.コンテンツ

漫画、アニメ、ゲーム、キャラクターなど、日本は世界有数の創造力を持つ。それにもかかわらず、そのIPを映画、ゲーム、テーマパーク、商品、配信、ライセンスへ世界規模で展開する点では、ディズニー型の巨大統合企業を十分に作れなかった。作品を作るクリエーターには強い。しかしIPを50年間運用し続けるIP経営が弱い。これも個人の創造性ではなく、無形資産を長期的に管理する組織能力の不足である。

14.エネルギー

日本の造船、LNG船、プラント技術には強みがある。しかし資源そのものについては長く海外依存が続く。本来ならば商社、政府系金融、外交、海運、エネルギー企業、防衛を一体化して、資源権益を国家戦略として確保する必要がある。ここでも船というモノと、交渉・同盟・契約という無形能力が十分結び付いていない。

15.通商外交

米国、EU、中国は市場アクセス、技術標準、規制、補助金、安全保障を一つの交渉材料として扱う。日本は個別問題を各省庁が担当し、総合戦略が薄くなる傾向がある。標準化も極めて重要である。技術的に二番手でも、自国方式を国際標準にできれば世界市場を取れる。逆に世界最高技術でも標準化競争に負ければ利益を取れない。ルールも無形資産である。

16.企業経営

日本企業では部門間調整、根回し、合意形成は高く評価される。しかし、会社の未来はこれであると言い切り、反対を押し切って資源を集中する人間はしばしば危険人物と見なされる。結果として優秀な管理職は多数生まれるが、産業を作り替える経営者が生まれにくい。これは日本企業が人材を個人という無形資産としてではなく、組織の一部として評価してきたこととも関係する。

17.哲学

そして最も根底にあるのが哲学である。哲学は明日のGDPを増やさない。しかし、国家とは何か、自由とは何か、技術を何のために使うのか、日本はどのような社会を目指すのかを考える力がなければ、AI政策も、安全保障政策も、教育政策も単なる対症療法になる。米国には自由、市場、フロンティアという思想があり、中国には国家発展という強烈な思想がある。それが正しいかどうかは別に、国家行動を方向付ける思想が存在する。日本では戦後、大きな国家構想を語ることを警戒する傾向が強くなった。その結果、政策は個別最適化されても、日本は2050年に何を目指すのかが曖昧になりやすい。

日本はどう挽回すべきか

1.無形資産投資国家へ転換する

最初に必要なのは、政策評価そのものを変えることである。工場、道路、データセンターだけを投資と考えてはいけない。AI研究者100人の雇用、世界的デザイナーの獲得、ブランド構築、データ整備、ソフトウェア開発、海外ネットワーク形成も国家的投資である。政府予算についても、設備費と同じレベルで人材・ソフト・組織を資本形成として考える必要がある。

2.ハード50・ソフト50を原則にする

例えば1,000億円のAIデータセンターを造るなら、その周辺にLLM、AIエージェント、研究者、スタートアップ、大学研究、データ整備へ同規模の投資を行うくらいの発想が必要である。劇場を100億円で建設するなら、その後20年間のオーケストラ、演出家、作曲家育成費まで設計する。体育施設なら指導者、選手、データ分析、スポーツ医学まで一体化する。建設して終了をやめるべきである。

3.銀行に無形資産融資部門を作る

銀行融資も改革できる。特許、ソフトウェア、顧客基盤、継続売上、人材構成、研究力などを評価する専門チームを作る。通常融資とは別勘定とし、損失率が高いことを最初から認める。担保ではなく事業価値を見る人材を、銀行内部ではなくVC、IT企業、大学、コンサルティング会社などから採用すべきである。

4.日本版リスクマネー循環を作る

年金、保険、銀行、企業年金などから国内VC・PE・ディープテックへ、一定割合を継続的に供給する制度を作るべきである。重要なのは政府が投資案件を選ぶことではない。優れた投資家を選ぶことに徹する。政府はGPを育て、成功したGPには次号ファンドでより多くの資金を任せる。失敗した投資案件ではなく、ファンド全体の10年間の成績で評価する。

5.突出した研究者には世界価格を払う

世界トップ研究者を年収2,000万円程度の教授給与で引き留めようと考えること自体を改める必要がある。世界的研究者には研究費50億円、100億円、専属スタッフ、自由な採用権、起業権、株式取得権まで与えてよい。平均を引き上げるだけでなく、異常に優れた人間へ多額の配分をする制度を作らなければならない。

6.AIでは人間へ投資する

日本は現在、政府による生成AI活用も本格化し始めている。2026年度のガバメントAIは約18万人規模まで展開予定であり、国産LLM、AIアプリ、データ整備にも踏み込んでいる。次に必要なのは、AIを単なる行政効率化ツールと考えないことである。世界トップ級のAI研究者を呼ぶ。若者を海外研究所へ送る。日本企業がAI企業を買収する。AIエージェント企業を育てる。ロボット企業とAI企業を統合する。政府自らが巨大なAI顧客になる。これらを一体化する必要がある。

7.政府調達を産業政策に変える

米国が強い理由の一つは、政府が新技術の最初の巨大顧客になれることである。日本政府も、完成した技術を一番安い価格で購入するだけではなく、国内企業の最初の顧客になるべきである。防衛、医療、行政、水、災害、農業などでスタートアップ技術を積極採用する。売上ゼロの企業に政府売上1億円が付けば、民間資金を呼び込める。これは補助金より場合によっては強力である。

8.国家戦略と企業戦略を接続する

半導体、水、エネルギー、AI、防衛、量子、宇宙などは、企業単独では世界市場を取れない。外交、輸出金融、政府保証、ODA、標準化、大学研究、防衛政策を統合する必要がある。官が企業を支配するという意味ではない。政府は市場を作り、企業は競争する。この役割分担を明確にすべきである。

9.ブランド政策を産業政策に

ブランドは広告ではない。日本料理、農産物、旅館、工芸、ファッション、建築、現代美術、アニメなどを相互に接続し、Japanという巨大なブランド資産を形成できる。フランスがLouis Vuitton、ワイン、料理、美術館、パリを一つの文化的価値体系に結び付けているように、日本も文化と産業を統合するべきである。

10.防衛情報能力は第二の装備品

艦艇、航空機、ミサイルとは別に、情報機関、サイバー、衛星解析、外国語、人的ネットワーク、OSINT、AI分析などを情報装備と考える。建物や兵器と同様、十年単位で人材を育成する。情報能力は買った翌日から機能するものではない。だからこそ早く始めなければならない。

11.水・エネルギーを外交パッケージに

日本企業がプラントだけを輸出する時代から、技術+運営+人材育成+保守+外交を30年契約で提供するモデルへ転換する。水やエネルギー技術は外交力となる。インフラ企業だけでなく商社、銀行、政府、大学まで一体化する必要がある。

12.失敗を罰する制度から成功を取る制度へ

無形資産への投資には失敗が必ず伴う。重要なのは失敗率ではない。100件中95件失敗しても、5件で巨大な成果を出せればよい分野がある。VC、研究、AI、新薬などがそうである。ところが日本型人事制度は一度の失敗を非常に強く記録する。この制度を変えなければ、誰も冒険しなくなる。

日本社会の気風を変える

ここまで述べた改革は法律や予算だけでも一定程度実現できる。しかし最終的には、日本社会が人間の才能や構想力という見えないものをどれだけ信じられるかという問題に行き着く。

1.互いに潰すのをやめる

日本で新しいことを始めようとすると、必ず、前例がない、危険ではないか、誰が責任を取るのか、なぜあの人だけ優遇するのかという議論が始まる。本当に必要なのはみんな仲良く協力しようという精神論ではない。まず、成功しようとしている人物の足を引っ張らないことである。これだけでも社会の活力は大きく変わる。

2.突出した人間を尊重する

100人全員を20%伸ばす政策と、一人を世界一にする政策は違う。日本は前者を好む。しかしGoogle、NVIDIA、OpenAI、Appleのような巨大な変化は、平均的な人間100万人ではなく、極端に突出した少数者から始まることが多い。したがって、なぜあの人だけではなく、優れた人だからこそ、もっと与えるという思想が必要になる。これは不公平ではない。社会全体の果実を大きくする投資である。異端者、極端な研究者、変わった経営者の中から革新が生まれる。全員を組織へ適応させようとすると、革新そのものを消してしまう。突出した人材を社会が扱いにくい人と考えるのではなく、国家的資産として扱う文化が必要である。

3.調整力より突破力を評価する

平時には調整型人材が重要である。しかし戦争、金融危機、産業転換、AI革命のような局面では、全員の合意を取っている間に機会を失う。危機において必要なのは、私はこれをやると言って責任を取れる人物である。平時の人材評価と危機時の人材評価を分けなければならない。

4.無形のものへ意図的に人材と資金を偏らせる

自然に任せれば予算は建物へ行く。効果が見えるからである。したがって逆に、AI、人材、教育、芸術、研究、ブランド、情報、外交、哲学などには、意図的に予算を振り向けなければならない。見えないからこそ意識して投資する。

5.批判には必ず代案を伴わせる

社会の知的生産性を上げる上で、これは極めて重要である。問題がある、危険である、失敗すると言うだけなら誰でもできる。批判するなら、ではどうすればよいのかまで要求する。行政でも、企業でも、大学でも、マスメディアでも同じである。代案なき批判には価値を与えない文化を作るべきである。そうすれば批判は創造行為になる。

6.何もしなかった人を厳しく評価する

日本社会では挑戦して失敗した人が責任を負い、何もしなかった人が無傷で残ることがある。これを逆転させる必要がある。失敗したプロジェクトについては、なぜ失敗したかを検証する。一方で重大な機会を逃した場合には、なぜ何もしなかったかも同じように問う。不作為にも責任があるという考えを徹底する。

7.良いものを作れば売れるという思想から卒業する

技術者を軽視するという意味ではない。むしろ優れた技術を生かすために、技術+デザイン+ブランド+マーケティング+外交+物語までを一つの価値創造活動と考える。製品を完成させた時点を仕事の終わりと考えず、世界市場で価値を認めさせ、高い利益を取り、その利益を次の研究へ戻すところまでがものづくりである。

日本の弱点は価値化能力不足

日本には技術がある。資金もある。研究者もいる。製造業も強い。水技術もある。ロボットもある。素材もある。文化もある。金融資産も巨大である。それでも世界的な巨大企業、新産業、金融ファンド、高級ブランド、AIプラットフォームが十分に生まれない。この一見不可思議な現象を貫く一本の線がある。それが、目に見える資産には安心して投資する一方、構想、人材、情報、知識、ブランド、交渉、思想という見えない資産に大きな賭けをすることへの躊躇である。日本がこれから行うべきなのは、ものづくりを捨ててソフトへ移ることではない。むしろ、世界最高水準のものづくりに、世界最高水準の構想力を載せることである。半導体材料を作るだけでなく半導体産業を設計する。ロボットを作るだけでなく物理AIを支配する。水処理装置を売るだけでなく水外交を構築する。音楽ホールを造るだけでなく世界的音楽家を育てる。研究者を雇うだけでなく、その一人を中心に産業を作る。資金を貯めるだけでなく、その資金で未来の日本をつくる。そのためには、均等配分から重点配分へ、失敗回避から挑戦評価へ、組織中心から人物中心へ、設備中心から知的資本中心へと社会の評価軸を変えなければならない。そして最も重要なのは、突出した人間を皆と同じ高さまで引き下げる社会から、突出した人間を更に高い場所まで押し上げ、その成果を社会全体へ還元する社会へ変わることである。日本の再生に不足している最大の資源は、金でも技術でもない。目に見えない価値を信じ、そこへ大胆に資源を賭ける覚悟である。

産業と投資に関する考察

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