アート・オブ・コレクティング

The Art of Collecting
An Intimate Tour Inside Private Art Collections with Advice on Starting Your Own
2010年刊
Diane McManus Jensen著

目次

著者の経歴

ダイアン・マクマナス・ジェンセンは、アメリカの美術商、美術コンサルタント、キュレーター、美術収集研究家である。30年以上にわたりニューヨークとマサチューセッツ州マーサズ・ヴィニヤードでギャラリーを経営し、個人コレクター、企業、美術館、財団などに対して作品収集やコレクション形成の助言を行ってきた。また、美術館や個人所蔵作品を対象とした展覧会を企画し、多数の図録や研究書の編集・執筆にも携わっている。彼女は単なる画商ではなく、人はなぜ芸術を集めるのかという文化的・心理的側面にも強い関心を抱き、全米各地で美術収集に関する講演活動を続けてきた。ジェンセンの特徴は、美術市場や投資の理論だけではなく、芸術作品を家庭で愛し、生活の中で育てる文化を重視する点にある。本書もその思想を代表する著作であり、芸術作品は美術館だけに存在するものではなく、人々の日常生活の中で生き続ける存在であるという理念が一貫して貫かれている。

本書の内容

1.個人コレクションという美術館

本書は、美術館や大富豪の豪華な収集品を紹介する本ではない。著者は23人の個人コレクターの自宅を訪問し、それぞれがどのような価値観をもって作品を集め、自宅という生活空間の中で芸術と共に暮らしているのかを丹念に取材している。読者は、一般には公開されない個人住宅の内部を写真とともに巡りながら、まるで美術館の特別公開を見学しているかのような体験を味わうことができる。同時に、それぞれのコレクターが作品との出会いをどのように重ね、長い年月をかけてコレクションを育ててきたのかを知ることができる。

2.コレクションは人生そのもの

本書で最も印象的なのは、作品よりも、それを集めた人物の人生が描かれていることである。ある人は幼い頃の感動を忘れられずに収集を始め、ある人は旅行先で偶然出会った一枚の絵から人生が変わった。また別の人は、画家との交流を通じて作品への理解を深めながら、何十年にもわたって収集を続けている。著者は、良いコレクションとは高価な作品を並べることではなく、自分自身の人生を映し出すものであると語り、コレクションとは所有物ではなく、人格や経験の積み重ねであることを繰り返し示している。

3.家庭に飾ることの意味

本書では、作品を美術館に預けるのではなく、自宅に飾る意味についても詳しく論じられている。芸術作品は毎日眺めることで新しい発見が生まれ、季節や年齢、人生経験によって見え方が変化する。美術館で数分間鑑賞する作品とは異なり、自宅に飾られた作品は家族の生活の一部となり、人生をともに歩む存在になる。そのため、壁の高さ、家具との調和、自然光と人工照明の使い方など、作品を最も美しく見せるための展示方法についても実践的な解説が行われている。

4.実践的助言

本書の後半には、美術の専門家による15本の解説が収録されている。そこでは作品の照明、額装、保存方法、保険、輸送、修復、展示、作品配置など、美術作品を長く楽しむための具体的な知識が紹介されている。著者は、最初から高価な作品を買う必要はないと述べ、自分が心から好きになれる作品を一枚ずつ選ぶことこそ、本当のコレクションの始まりであると説く。市場価格よりも、自分自身の審美眼を育てることが重要であり、その積み重ねがやがて個性的なコレクションを形成すると考えている。

5.美術文化を語る本

一般的なコレクション入門書は、オークションや資産価値、投資収益などを中心に論じることが多い。しかし本書では、そのような市場論は主役ではない。著者が最も伝えたいのは、芸術を所有することではなく、芸術とともに暮らすことである。作品を毎日眺める生活が人生を豊かにし、その積み重ねが文化を支えていくという考え方が本書全体を貫いている。

個人の実例(付記)

1.歯科医モンタギュー

カナダ・トロントの歯科医でありコレクターのケネス・モンタギューは、世界的な富豪ではなく、本業を持ちながら長年コレクションを築いてきた。10歳の頃、デトロイト美術館で写真家ジェームズ・ヴァン・ダー・ジーの作品を見た。この絵(写真)ともっと長い時間を過ごしたいと感じたことが、彼の原点だった。30代になり、その作品を入手した。彼は投資だからではない。あの10歳の自分との約束を果たしたかったと語っている。彼は作品を選ぶ際、流行かどうかではなく、今家にある作品たちと会話するかを基準にしているという。作品同士が対話し、自宅全体が一つの物語になることを大切にしている。

2.デザイナーグラハム

ニューヨーク・ブルックリンで活動するデザイナーのマイケル・グラハムは、アフリカの大型テキスタイルを旅先で見つけた。買ったものの、帰宅してもすぐには飾らなかった。8か月間、折り畳んだまま部屋に置いていた。どこに掛けるかではなく、この作品がここだと言う場所を待っていた。彼はそう語る。ようやく天井の高い白壁を見つけた時、やっと家の一員になったと感じたという。彼は作品を買うことより、作品が家の中で居場所を見つけることの方がずっと大切だと話している。

3.一枚の絵を眺め続ける

アメリカのコレクターであるカーリル・キンジーは、幼い頃、両親が買わなかったイヌイット彫刻を忘れられなかったという。その経験から、大人になっても作品を買うときは即決しない。彼は必ず妻と何度も見に行く。数か月たっても心から離れないなら、その作品は家へ来るべき作品である。購入後にはできるだけ作家本人と話をする。作者を知ると、毎日作品を見る意味が変わる。彼にとって作品とは、作者との友情や会話までも含めた存在である。

4.部屋ごとに人生の章を作る

キュレーターでありコレクターでもあるキンバリー・ドリューは、自宅を人生の章立てと考えている。ある時期はユーモアのある作品ばかりを集め、部屋のあちこちにイースターエッグのように配置して楽しんだ。その後、自分の関心が親密さへ移ると、寝室には恋人同士を描いた作品を飾り、書斎には思索を促す作品を置くようになった。部屋は変わらなくても、自分が変われば飾る作品も変わる。その言葉どおり、彼女の家は固定された展示ではなく、人生の変化に合わせて少しずつ姿を変えている。

5.家族が先

現代美術を収集するベッキー・メイヤー夫妻は、新しい家を建てる際、作品を飾る空間は重視したが、美術館のような家にはしたくなかった。孫たちが走り回り、家族が集まるリビングで、自然に作品が目に入ることを優先した。家はまず家族のための場所。その中に作品が暮らしている。その考えから、重要作品であっても生活空間に自然に溶け込むよう配置している。

6.巨大な一つの作品

画家ジョン・カリンと彫刻家レイチェル・ファインスタイン夫妻は、自宅に自分たちの作品だけではなく、友人作家の作品も数多く飾っている。壁いっぱいに作品が並ぶ部屋もあるが、不思議と圧迫感はない。ファインスタインは、家が巨大な一つの作品なのと語っている。家具、照明、絵画、彫刻が互いに影響し合い、一つのインスタレーションのような空間を生み出している。

7.毎朝作品に問いかける

デザイナーのオーロラ・ジェームズは、自宅の作品を自分を良くしてくれる存在と表現する。毎日その作品を見ることで、自分の仕事も人生も少し良くなる気がする。彼女はコレクションを投資とは考えていない。一生手放したくない。そう語りながらも、いつか家が変われば、この大きな彫刻も迎えたいと夢を語る。コレクションとは完成ではなく、一生続く対話だという考え方が印象的である。

8.作品は人を語る

サンフランシスコの精神療法士ロン・ザッカーマンは、45年以上にわたり写真や絵画を集め続けてきた。作品を購入する基準は、市場価格ではなくこの作品が人生や共同体の記憶を伝えているかどうかである。彼は、家を小さな私設アーカイブと呼び、訪れた友人と作品を囲んで当時の出来事を語り合う時間を大切にしている。作品は壁を飾る装飾ではなく、記憶を受け継ぐ証人である。

これらの実例を通して浮かび上がる共通点は、家を美術館にするのではなく、人生を作品とともに生きるという姿勢である。作品は資産や装飾ではなく、幼少期の憧れをかなえた記念であり、旅の思い出であり、家族との時間を彩る存在であり、友人や作家との出会いを思い起こさせる媒介でもある。成熟した個人コレクターほど、どんな名画を持っているかよりも、なぜその作品と一緒に暮らしているのかを静かに語る傾向があることが、多くの取材から伝わってくる。

未来の輪郭

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