バーバラ・ヘップワース

Barbara Hepworth
A Pictorial Autobiography
1970年刊
Barbara Hepworth著

バーバラ・ヘップワースの経歴

バーバラ・ヘップワース(1903–1975年)は、20世紀イギリスを代表する抽象彫刻家であり、ヘンリー・ムーアと並んで近代イギリス彫刻の発展を牽引した存在である。イングランド・ウェイクフィールドに生まれ、リーズ美術学校とロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学び、学生時代からヘンリー・ムーアと親交を結んだ。初期には人体を題材とした具象作品を制作したが、1930年代以降は自然や風景を抽象化した有機的な造形へ移行し、木材や石を直接彫るダイレクト・カーヴィング(直接彫刻)の第一人者となった。特に作品中央に貫通する穴を積極的に取り入れたことで知られ、この空洞を形の欠如ではなく空間を彫刻へ取り込む要素と考えた。また、イギリス南西部コーンウォール州セント・アイヴスの海や岩石、光に強い影響を受け、自然との調和を重視する独自の抽象彫刻を確立した。1950年ヴェネツィア・ビエンナーレ英国代表、1965年デイム叙勲など国際的評価も高く、今日でも近代抽象彫刻の最重要作家の一人とされている。

ヘップワース
トルソ
ヘップワース
ヘップワースの作品
ヘップワース
制作中のヘップワース

本書の内容

1.写真が語る芸術家の人生

本書は一般的な文章中心の自伝ではなく、多数の写真とそれに添えられたヘップワース自身の回想によって構成されている。幼少期から晩年までの人生を、家族、アトリエ、制作風景、作品、展覧会、旅などの写真を通して振り返り、それぞれが芸術形成にどのような意味を持ったかを語っている。

2.自然との対話が創造の源泉

ヘップワースは幼い頃から親しんだヨークシャーの丘陵や、その後移り住んだコーンウォールの海岸風景が、自らの造形感覚を育てたと述べている。岩や海、水平線、風、波のリズムは単なる景色ではなく、彫刻の形態や空間構成を生み出す根源的な存在であった。自然を模倣するのではなく、その内部にある秩序や生命感を抽象化することが創作の目的であると語る。

3.ダイレクト・カーヴィングという制作思想

本書では木や石を直接彫る制作方法について詳しく述べられている。素材は単なる加工対象ではなく、それぞれ固有の性質や生命を持っているため、彫刻家は素材に命令するのではなく対話しながら形を見出すべきである。木目や石目を生かした造形は、自然への敬意の表れでもある。

4.穴が生み出す空間の意味

ヘップワースの代表的特徴である貫通孔についても、自らその思想を説明している。穴は物質を削り取った結果ではなく、彫刻内部へ光や風景、空気を導き入れるための重要な要素であり、内部と外部を結び付ける働きを持つ。こうして彫刻は単独で存在する物体ではなく、周囲の自然環境と一体となる存在へ変化する。

5.人間と抽象の融合

作品は抽象的であっても、人間の身体や親子関係、友情、共同体などの経験が根底にあることが語られる。抽象とは現実から離れることではなく、人間が自然の中で生きる普遍的な経験を最も純粋な形で表現する方法である。

6.戦争と芸術家の使命

第二次世界大戦中の経験は、ヘップワースに人間同士の結び付きや精神的調和の重要性を再認識させた。戦後の公共空間に設置される彫刻についても触れられ、人々が作品を囲み、自然や社会との一体感を感じられる環境をつくることが芸術家の役割である。

7.写真による創作記録

制作途中の作品や工房内部の写真も数多く収録されている。彫刻が完成品としてだけではなく、素材との格闘や試行錯誤の積み重ねによって生まれることが示され、芸術とは長い時間をかけた対話の結果であることが視覚的にも理解できる構成となっている。

本書が言いたかったこと

彫刻とは自然から切り離された人工物ではなく、人間・素材・空間・自然が互いに響き合う中で生まれる生命ある存在である。芸術家が素材や風景に真摯に向き合い、その内側に潜む秩序や調和を見出すことで初めて普遍的な美が生まれる。本書はその創作思想を、自身の人生と作品の歩みを通して静かに語る、自伝であると同時に優れた芸術論である。

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