Conversations avec Picasso
1964年刊
Brassaï著Pablo Picasso対話
写真家ブラッサイと画家ピカソの経歴
著者ブラッサイ(1899–1984年)は、ハンガリー生まれで後にフランスで活動した写真家である。本名はジュラ・ハラース(Gyula Halász)。夜のパリを撮影した写真集Paris de Nuitで世界的な評価を受け、芸術家や文学者との交流を数多く築いた。第二次世界大戦中にはピカソのアトリエをたびたび訪れ、芸術論や人生観について交わした対話を丹念に記録した。その記録が後に本対話集としてまとめられ、ピカソ研究における重要な一次資料となっている。
パブロ・ピカソ(1881–1973年)は、スペイン・マラガに生まれた20世紀最大の芸術家の一人である。幼少から驚異的な画才を示し、青の時代、バラ色の時代を経てジョルジュ・ブラックとともにキュビスムを創始した。その後も古典主義、シュルレアリスム、版画、陶芸、彫刻など多様な表現を展開し、生涯で数万点に及ぶ作品を制作した。代表作にはアヴィニョンの娘たち、ゲルニカなどがあり、既成概念を打ち破る革新的な芸術家として現代美術に決定的な影響を与えた。
本書の内容
1.芸術とは発見であり創造
本書の中心となるのは、ピカソが芸術を見たものを再現する行為ではなく、まだ存在しないものを発見し創造する営みと考えていた点である。彼は写実性だけを追求する芸術を否定し、芸術家は常に新しい視点を獲得し続けなければならないと語る。芸術とは完成した技術ではなく、不断の探究であるという考えが繰り返し示される。
2.模倣ではなく変化を求める精神
ピカソは成功した様式を繰り返すことほど危険なことはないと述べ、自らの過去の作品に安住することを拒み続けた。青の時代からキュビスムへ、更に古典的表現や晩年の自由奔放な作風へと変化した理由も、自分自身を模倣しないためであったという。芸術家は常に新しい挑戦を続けなければならない。
3.子どものように見る能力
本書でたびたび語られるのが子どもの感性である。大人は教育や常識によって自由な発想を失うが、子どもは物事を先入観なしに見ることができる。芸術家に必要なのは高度な技巧だけではなく、この純粋な感受性を生涯失わないことである。
4.偶然と直感の重要性
制作について語る場面では、綿密な計画よりも制作途中に生まれる偶然や直感を重視している。作品は最初から完成形が決まっている訳ではなく、描き進める過程で画面との対話を繰り返しながら形を変えていく。そのため芸術家は、自分の感覚を信頼し、変化を恐れない姿勢が必要である。
5.芸術家と社会
ピカソは芸術を社会から切り離された存在とは考えていない。戦争や政治、時代の出来事は芸術家に深く影響を与えるものであり、ゲルニカに代表されるように、芸術は人間の苦しみや希望を表現する力を持つ。一方で、芸術は政治的宣伝に従属すべきものではなく、芸術家自身の自由な精神から生まれるべきである。
6.日常生活と創作
ブラッサイとの会話では、制作中の様子だけでなく、食事、友人との交流、骨董収集、陶芸、文学など日常生活についても多く語られる。こうした何気ない会話から、創作は特別な時間だけでなく、日々の生活全体の中から生まれるものであるというピカソの考えが浮かび上がる。
7.芸術に完成はない
本書の終盤では、作品は完成した瞬間から過去のものとなり、芸術家は次の作品へ向かわなければならないという考えが語られる。完成とは終着点ではなく、新たな創造の出発点であり、創作とは生涯続く終わりのない探究である。
本書が言いたかったこと
芸術とは、世界を新しい目で見続ける姿勢である。ピカソは、生涯を通じて変化を恐れず、自らを繰り返さず、常識に縛られない自由な精神を貫いた。創造とは才能だけで生まれるものではなく、好奇心と挑戦を失わず、自分自身を絶えず更新し続ける姿勢から生まれる。
