グリット やり抜く力

Grit
The Power of Passion and Perseverance
2016年刊
Angela Duckworth著

著者の経歴

アンジェラ・ダックワースはアメリカの心理学者であり、ペンシルベニア大学教授として教育心理学や人格心理学の研究に携わっている。ハーバード大学で神経生物学を学び、オックスフォード大学で神経科学の修士号を取得した後、経営コンサルティング会社マッキンゼーで勤務した。しかし、自らの仕事に疑問を抱き、公立中学校の数学教師へ転身した。教師として生徒たちを指導する中で、学業成績は知能指数(IQ)の高さだけでは説明できないことを実感し、成功する人には共通する資質があるのではないかという問題意識を抱くようになった。その後、ペンシルベニア大学大学院で心理学を学び、博士号を取得し、GRIT(グリット)という概念を提唱した。彼女は陸軍士官学校ウェストポイント、スペリング・ビー全国大会、トップアスリート、企業経営者など、多様な分野で成功者を調査し、才能よりも情熱と粘り強さの組み合わせが成功を予測するという研究成果を発表した。この研究は教育界やビジネス界に大きな影響を与え、2013年には天才賞とも呼ばれるマッカーサー・フェロー賞を受賞した。TED講演成功のカギは、やり抜く力は世界中で視聴され、本書も世界的ベストセラーとなった。

本書の内容

1.成功を決めるのは才能ではない

本書の出発点は、成功は才能によって決まるという一般的な考え方への疑問である。著者は数千人に及ぶ調査を行い、成功者には知能や生まれつきの能力だけでは説明できない共通点があることを見いだした。それがGRIT、すなわち長期的な目標に対する情熱と粘り強さである。才能は成功の一要素ではあるものの、それだけでは成果には結び付かない。才能は努力によって技能へと変わり、その技能が更に努力によって成果へと転化するという二段階の過程が重要である。

2.GRITとは何か

GRITとは、一時的な努力や根性ではなく、何年にもわたって一つの目標に取り組み続ける能力である。失敗や挫折を経験しても目標を見失わず、改善を重ねながら挑戦を続ける姿勢がGRITの本質である。短期間だけ努力する人ではなく、10年、20年という長い時間をかけて取り組める人ほど高いGRITを持つ。情熱と粘り強さの両方が揃って初めてGRITが成立する。

3.才能より努力が重要である理由

著者は印象的な式を提示する。才能×努力=技能、技能×努力=成果。この式は努力が二回掛け合わされている点が特徴である。生まれつきの能力が高くても努力しなければ技能は伸びず、高い技能を持っていても努力を継続しなければ成果は得られない。努力は才能を実力へ変えるだけでなく、その実力を社会的成果へ結び付ける役割まで果たしている。

4.ウェストポイントの調査

著者の代表的研究の一つがアメリカ陸軍士官学校ウェストポイントである。毎年多くの優秀な学生が厳しい訓練の途中で脱落するが、その理由はIQや体力では説明できなかった。著者が開発したGRIT尺度を用いて分析すると、最後まで訓練をやり遂げる学生ほどGRITが高いことが判明した。同様の結果は営業職や教師、企業経営者、スポーツ選手など幅広い職業でも確認された。

5.意図的練習の重要性

単に長時間努力するだけでは十分ではない。著者は心理学者アンダース・エリクソンの研究を紹介し、意図的練習こそが成長を生むと述べる。意図的練習とは、自分の弱点を明確に把握し、それを改善するために難易度を少し上げた課題へ挑戦し、継続的にフィードバックを受けながら修正していく学習方法である。世界的な演奏家やスポーツ選手は、この方法を長年続けていることが紹介される。

6.情熱はどのように育つのか

情熱は突然生まれるものではない。最初は興味を持つことから始まり、その興味を継続して深めることで本物の情熱へと成長していく。更に、自分の仕事や努力が社会の役に立っているという目的意識を持つことで、情熱はより強固なものとなる。

7.希望を持ち続ける力

GRITの高い人は、失敗を能力不足とは考えない。一時的な失敗として受け止め、次回の改善材料と考える。この考え方は心理学者マーティン・セリグマンの学習性楽観主義と深く結び付いており、困難を乗り越える精神的基盤となる。

8.子どものGRITを育てる方法

著者は家庭や学校教育においてGRITを育成できると述べる。子ども自身に挑戦する機会を与え、小さな成功体験を積み重ねさせること、努力を評価すること、途中で簡単に諦めない経験を積ませることが重要である。また、親や教師自身が挑戦を続ける姿勢を見せることも大きな教育効果を持つ。

本書が言いたかったこと

人間の成功は生まれ持った才能や知能によってほぼ決まるものではなく、自分が価値を見いだした目標に対して情熱を持ち、長期間にわたって努力を継続する姿勢によって大きく左右される。失敗や困難は能力不足を意味するものではなく、成長への過程として受け止め、改善を積み重ねながら挑戦を続ける人ほど大きな成果に到達する。GRITは先天的な資質ではなく、正しい練習方法や周囲の支援、前向きな考え方によって育てられる能力であり、誰もが意識的に高めることができる。

未来の輪郭