人類と建築の歴史

人類と建築の歴史
2005年5月刊
藤森照信著

藤森照信の経歴

藤森照信は1946年長野県生まれの建築史家・建築家であり、東京大学大学院博士課程を修了後、日本近代建築史および都市計画史を専門として研究を続けた。東京大学名誉教授、工学院大学教授を歴任し、日本各地の近代建築調査を行う一方で、1980年代には赤瀬川原平や南伸坊らと路上観察学会を創設した。また建築家としても活動し、神長官守矢史料館をはじめとする独創的な作品群によって国内外で高い評価を受けている。建築史家としての厳密な視点と、建築家としての実践的感覚を併せ持つことが、藤森建築論の最大の特徴である。

本書の内容

1.人類最初の住まい

本書は建築の歴史を単なる様式史としてではなく、人類史として捉え直すところから始まる。旧石器時代の人類は洞窟や仮設的な小屋を利用し、自然環境の中で生存していた。しかし定住化が進むにつれ、人間は雨風をしのぐ箱としてだけではない意味を住居に与えるようになる。建築はまず生活の器として誕生した。

2.神の家としての建築の誕生

藤森は、建築が真の意味で誕生したのは神殿や祭祀施設が現れた時だと論じる。人類は大地や太陽、祖先や精霊に祈りを捧げるために特別な空間を必要とし、その結果として建築が生まれた。建築の起源は機能や合理性ではなく、祈りであったというのが本書の中心的主張である。

3.日本列島における住居文化の形成

縄文時代の竪穴住居や弥生時代の高床建築を通じて、日本独自の建築文化が形成されていく過程が描かれる。日本建築は石造建築中心の西洋文明とは異なり、木材を主体とし、自然との共生を前提とした建築文化として発展した。日本の神社建築や民家の原型は、こうした古代の生活空間に遡る。

4.神々の住まう空間

エジプト神殿、ギリシア神殿、キリスト教の教会、イスラムのモスク、日本の神社など、世界の宗教建築が比較される。宗教は異なっても、人類が超越的存在に向かって空間を創造しようとする衝動は共通している。建築は文明や宗教の違いを超え、人間精神の表現として存在してきた。

5.青銅器時代から産業革命へ

都市国家や帝国の成立に伴い、建築は権力を象徴する装置へと変化していく。城郭、宮殿、大聖堂、都市空間などは支配者の権威を可視化するための巨大な建築であった。そして産業革命は鉄とガラスという新素材を生み出し、建築技術を飛躍的に発展させることとなる。

6.二十世紀モダニズムの到来

鉄筋コンクリートと鉄骨構造の普及により、建築は歴史的様式から解放される。機能主義や合理主義を掲げるモダニズム建築が世界を席巻し、高層建築やガラスの都市が誕生した。しかし藤森は、その過程で建築が本来持っていた宗教性や自然との結びつきが希薄になったことも指摘している。現代建築は利便性を獲得した一方で、人類の根源的感覚を失った面もある。

本書が言いたかったこと

建築とは単なる技術やデザインの成果ではなく、人間が自然や神々と向き合う中で生み出した精神文化である。人類はまず祈るために建築を作り、その後に住み、支配し、産業を発展させるために建築を利用してきた。現代社会では建築は効率や経済性によって評価されることが多いが、その根底には依然として人間の精神的欲求が存在している。建築を理解することは、人類を理解することに等しい。

未来の輪郭