Akseli Gallen-Kallela
Picturing Finland
2024年刊
Stella Rollig and Arnika Groenewald-Schmidt編
編者と画家カッレラの経歴
ステラ・ローリヒはオーストリアの美術史家であり、ベルヴェデーレ美術館総館長として近現代美術の研究と国際的な展覧会活動を推進している。アルニカ・グローネヴァルト=シュミットはベルヴェデーレ美術館の学芸員であり、北欧美術、とりわけフィンランド美術の研究者として知られている。本書の企画に際しては、アテネウム美術館の研究者アヌ・ウトリアイネンとの協力のもとで、ガッレン=カッレラの芸術をヨーロッパ的文脈の中で再評価した。
アクセリ・ガッレン=カッレラ(1865―1931年)はフィンランドを代表する画家であり、国民叙事詩カレワラを題材とした作品によって広く知られる。若くしてパリのアカデミー・ジュリアンで学び、写実主義や象徴主義の影響を受けながら独自の様式を確立した。ロシア支配下にあったフィンランドが独立を志向する時代にあって、彼は民族神話、森林、湖、人々の生活を壮大な絵画へと昇華し、国民的アイデンティティ形成に大きな役割を果たした。同時にパリ、ロンドン、ベルリン、ウィーンなどヨーロッパ各地の芸術運動と交流し、国際的なモダニズムの一員として活躍した。彼は画家であるだけでなく、壁画家、版画家、家具デザイナー、建築家としても活動し、総合芸術家として多面的な才能を発揮した。

国立西洋美術館所蔵
本書の内容
1.フィンランド国の顔を創造した芸術家
本書は、ガッレン=カッレラの作品を単なる民族主義絵画としてではなく、近代フィンランドの文化的自己像を形成した創造行為として捉えている。19世紀末から20世紀初頭、フィンランドはロシア帝国支配下の大公国であったが、人々の間には独立への願いが強まっていた。ガッレン=カッレラは風景や民俗、伝承を絵画化することで、まだ存在していなかったフィンランドのイメージを人々の前に提示した。


2.カレワラと民族神話の世界
本書の中心部分を占めるのはカレワラを題材とした作品群である。サンポの防衛、レンミンカイネンの母、クッレルヴォの呪いなどの代表作を通じて、英雄たちの悲劇や戦いが劇的な構図と象徴的色彩によって表現される過程が論じられる。これらの作品は神話の挿絵ではなく、フィンランド人の精神的起源を視覚化する試みとして理解されている。英雄たちの姿には、独立を求める国民の願望が投影されていた。
3.北欧の自然と風景画
ガッレン=カッレラの芸術のもう一つの柱は自然である。本書では湖や森、雪原などを描いた風景画に注目し、それらが単なる自然描写ではなく、民族的精神を象徴する存在であったことを指摘している。とりわけ静かな湖面や深い森林は、北欧の自然に宿る神秘性と孤独感を表現しており、フランス印象派とは異なる北欧独自の風景画の成立を示している。

4.総合芸術への志向
ガッレン=カッレラは絵画だけにとどまらず、家具、テキスタイル、建築、壁画など多様な分野で活動した。本書では彼のアトリエ兼住宅カレラや壁画制作などを通じて、芸術と生活を一体化しようとした理念が紹介される。そこにはウィリアム・モリスやアール・ヌーヴォーの思想とも共通する総合芸術作品の理想が存在していた。
5.ウィーン分離派との交流
本書の特徴の一つは、ガッレン=カッレラをフィンランド国内に閉じ込めず、ヨーロッパ芸術のネットワークの中で位置づけていることである。彼は1901年と1904年のウィーン分離派展に参加し、クリムトらの前衛芸術家たちから高く評価された。彼の作品には象徴主義や装飾性が見られる一方で、ウィーン側もまた北欧的精神性から刺激を受けていた。本書はこの双方向的な交流を詳細に明らかにしている。
本書が伝えようとしたこと
アクセリ・ガッレン=カッレラは民族画家であると同時に国際的モダニストであった。彼はフィンランドの自然や神話を描きながらも、それを閉鎖的な民族主義の表現にとどめることなく、ヨーロッパ全体の芸術運動との対話の中で発展させた。彼の作品は一国の文化的独立を支えたが、その根底には普遍的な人間感情や自然への敬意が存在していた。国民的であることと国際的であることは対立するものではなく、むしろ深く自国を見つめることによって世界へ開かれるということを、ガッレン=カッレラの芸術は示している。
