The Road to Freedom
Economics and the Good Society
2024年(日本語版2025年)刊
Joseph E. Stiglitz著
著者の経歴
ジョゼフ・E・スティグリッツは1943年生まれのアメリカの経済学者であり、情報の非対称性に関する研究によって2001年にノーベル経済学賞を受賞した。マサチューセッツ工科大学、イェール大学、プリンストン大学、スタンフォード大学などで教鞭を執り、現在はコロンビア大学教授を務めている。クリントン政権下では大統領経済諮問委員会委員長を務め、その後世界銀行副総裁兼チーフエコノミストとして国際経済政策にも携わった。グローバル化や市場万能主義に対する批判的論者として知られ、『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』『プログレッシブ・キャピタリズム』など多くの著作を発表している。
本書の内容
1.自由という概念の再検討
本書の出発点は、自由という言葉が近年、新自由主義によって狭く解釈されてきたという問題意識である。市場への規制をなくし、国家の役割を縮小することが自由であると考えられてきたが、著者はその理解を問い直す。ある人の自由が他人の不自由を生む場合がある以上、自由とは単純に制約がない状態ではなく、社会全体の中で調和されなければならないと論じる。
2.市場万能主義への批判
スティグリッツは、1980年代以降の新自由主義的資本主義が、金融危機や格差拡大、巨大企業による市場支配を招いたと指摘する。巨大IT企業や独占企業は市場競争を阻害し、多くの人々の機会を奪っている。市場は自然に効率的になるものではなく、適切な制度やルールがあって初めて機能するというのが著者の基本的立場である。オオカミの自由は羊の死を意味するという比喩を用い、強者の自由が弱者の犠牲の上に成り立つならば、それは真の自由ではないと述べる。
3.人間の選好は社会によって形成される
従来の経済学では、人間は独立した合理的存在として扱われてきた。しかし著者は、個人の価値観や欲望は教育、文化、メディア、社会環境によって形作られると主張する。自由とは、単に選択肢があることではなく、人々が十分な教育や情報を得て、自らの能力を発揮できる環境を持つことでもある。行動経済学や情報経済学の成果を取り入れながら、人間をより現実的な存在として捉え直している。
4.公共財と国家の役割
著者は国家を市場の敵とは考えない。教育、医療、インフラ、科学技術研究、環境保全などの公共財は、市場だけでは十分に供給できないため、国家の役割が必要になる。国家は自由を制限する存在ではなく、人々が能力を発揮し、社会参加できる条件を整える存在でもある。自由を実現するためには、市場と国家が対立するのではなく、相互補完的に機能することが重要である。
5.新しい資本主義の提唱
本書の終盤でスティグリッツは、進歩的資本主義(Progressive Capitalism)という構想を提示する。それは社会主義ではなく、市場経済を維持しながらも、公正な競争、所得再分配、教育機会の平等、民主主義の健全化を重視する資本主義である。また、国家間の不平等や地球環境問題など、グローバルな課題に対して国際協調を強化し、人類全体の自由と繁栄を目指すべきだと主張する。
本書が言いたかったこと
自由市場=自由という単純な図式は誤りであり、本当の自由とは人々が能力を発揮し、尊厳を持って生きられる社会の中で初めて実現される。自由とは規制の撤廃や国家の縮小だけではなく、教育、医療、機会の平等、健全な民主主義、そして社会的連帯によって支えられるものである。市場の力を認めながらも、それを適切な制度と公共政策によって補完し、人間の幸福と社会正義を両立させることこそ、21世紀の資本主義が進むべき道であると著者は考えている。
