Nino Rota
2012年刊
Francesco Saverio Lombardi著
著者とニーノ・ロータの経歴
フランチェスコ・サヴェリオ・ロンバルディは、イタリア音楽史および映画音楽研究を専門とする批評家・研究者であり、特に20世紀イタリア音楽に深い造詣を持つ人物として知られている。本書では、映画音楽家として世界的名声を得たニーノ・ロータの全体像を、クラシック音楽・宗教音楽・舞台作品を含めた広い視野から捉え直している。
ニーノ・ロータは、イタリアを代表する作曲家であり、幼少期から神童として知られていた。9歳でオラトリオを書き上げ、ミラノ音楽院で学んだ後、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院に進み、アメリカのカーティス音楽院でも研鑽を積んだ。彼はオペラ、交響曲、室内楽、宗教音楽など多彩な作品を残したが、世界的には映画音楽作曲家として名高い。特にフェリーニとの長年の協働によって、数々の名作映画に忘れがたい音楽を与えた。またコッポラ監督のゴッドファーザーの音楽でも知られ、その旋律美は映画史に大きな足跡を残している。
本書の内容
1.神童から作曲家への成長
本書はまず、ロータの幼少期から青年期までを詳細に辿っている。幼い頃から異常な音楽的才能を示した彼は、当時のイタリア楽壇でモーツァルトの再来と呼ばれた。しかし著者は、ロータを単なる天才児としてではなく、古典的作曲法を徹底的に学び抜いた職人的作曲家として描いている。彼は伝統的和声法や対位法を重視し、近代音楽が前衛化していく時代にあっても旋律と抒情性を失わなかった。
2.フェリーニとの芸術的共生
本書の中心となるのは、フェリーニ映画との関係である。著者は、ロータの音楽が単なる伴奏ではなく、映画の精神構造を形成していると論じる。道では孤独と巡礼の感情を、「8 1/2」では幻想と現実の混交を、アマルコルドでは郷愁と滑稽さを音楽によって表現している。特にロータは、サーカス的感覚を強調する。哀愁を帯びたワルツ、行進曲、アコーディオン風の旋律は、祝祭と孤独、滑稽と悲哀を同時に感じさせる。これこそがフェリーニ映画の夢幻性と深く結びついている。
3.映画音楽を超えた作曲家
本書は、ロータが映画音楽家としてのみ語られることへの違和感を繰り返し述べている。彼はオペラや多くの宗教作品、協奏曲などを残しており、純音楽の分野でも極めて高い技術を有していた。著者は、ロータの音楽が20世紀音楽の主流だった無調・実験音楽とは距離を置きながらも、決して時代遅れではなかったと説明する。彼は旋律の力、人間的感情、聴衆との直接的交流を信じており、それを現代的洗練の中で実現した。
4.ゴッドファーザーと世界的成功
後半では、ゴッドファーザーの音楽についても詳しく論じられる。マンドリンや哀愁ある旋律によって、移民社会・家族・宿命・暴力の感情が凝縮されている。ロータの旋律は単純で親しみやすいが、その背後にはイタリア民謡、宗教音楽、オペラの伝統が複雑に息づいている。著者は、ロータの映画音楽が映像に従属するものではなく、独立した音楽作品として成立している点を高く評価している。
5.晩年と芸術的遺産
晩年のロータは教育者としても活動し、多くの若い音楽家を育てた。本書では、彼が生涯にわたり旋律への信頼を失わなかったことが強調される。前衛音楽が支配的だった20世紀後半において、ロータは人間の感情に直接触れる音楽を書き続けたのである。著者は、ロータを映画音楽家という狭い枠を超えた、イタリア最後の偉大な旋律作家として位置づけている。
本書が言いたかったこと
ニーノ・ロータは単なる映画音楽の名匠ではなく、20世紀イタリア音楽の本流に属する本格的作曲家であった。彼の音楽は常に人間的感情と結びつき、複雑な理論や前衛性よりも、旋律の美しさと記憶に残る情感を重視していた。フェリーニ映画やゴッドファーザーで広く知られる一方、その背後にはオペラ、宗教音楽、室内楽に裏付けられた深い音楽的教養が存在していたのである。著者はロータを、現代社会の中で失われつつあった歌う音楽の最後の継承者として描き、人々の心に直接届く芸術の価値を再評価しようとしている。
ニーノ・ロータの代表的映画音楽
1.ゴッドファーザー
ゴッドファーザー愛のテーマ
2.ゴッドファーザー PART II
ゴッドファーザー・ワルツ
3.ロミオとジュリエット
愛のテーマ(What Is a Youth)
4.太陽がいっぱい
太陽がいっぱいのテーマ
5.道
ジェルソミーナのテーマ
6.甘い生活
ラ・ドルチェ・ヴィータのテーマ
7.「8 1/2」
フィナーレ(別れのパレード)
8.アマルコルド
アマルコルドのテーマ
9.山猫
山猫のワルツ
10.フェリーニのサテリコン
サテリコンのテーマ
11.魂のジュリエッタ
ジュリエッタのテーマ
12.カビリアの夜
カビリアのテーマ
13.白い酋長
白い酋長のテーマ
14.ロッコとその兄弟
ロッコとその兄弟のテーマ
15.戦争と平和
ナターシャのテーマ
16.山猫
舞踏会の音楽
17.フェリーニの道化師
道化師の行進曲
18.オーケストラ・リハーサル
オーケストラ・リハーサルのテーマ
