Inseguendo quel suono
La mia musica, la mia vita
2016年刊
Ennio Morricone著
モリコーネの経歴
モリコーネは1928年にローマに生まれ、サンタ・チェチーリア音楽院で作曲とトランペットを学んだ。クラシック音楽の高度な教育を受けながら、放送音楽、前衛音楽、映画音楽の世界へ進み、やがて20世紀を代表する映画音楽作曲家となった。特にセルジオ・レオーネ作品で革新的な音楽を生み出し、映画音楽の概念を一変させた。単なる伴奏ではなく、映像と対等に語るもう一つの脚本として音楽を扱った点に、彼の最大の特徴がある。またクラシック分野でも多数の作品を残し、前衛音楽集団即興演奏グループに参加するなど、実験精神に富んだ芸術家でもあった。
本書の内容
1.映画音楽とは何か
本書でモリコーネは、映画音楽を単なる背景音楽ではなく、映像の内部に潜む感情や時間を可視化する芸術として語っている。彼によれば、映画音楽の本質はメロディの美しさだけではなく、沈黙やノイズ、音色の配置によって観客の心理を動かすことにある。映画において音楽は説明ではなく、むしろ映像が言葉にできない部分を担う存在であるとされる。
2.作曲家としての出発
モリコーネは幼少期から音楽教育を受けたが、若い頃は純粋な現代音楽作曲家を志していた。しかし生活のために映画音楽の仕事を始め、その過程で大衆性と芸術性を両立させる道を見出していく。本書では、テレビやラジオの編曲作業、匿名に近い下積み時代についても詳しく語られ、後年の成功の裏に膨大な職人的努力があったことが示されている。
3.セルジオ・レオーネとの創造
本書の中心の一つが、映画監督レオーネとの共同作業である。二人は少年時代の同級生であり、西部劇を再定義したマカロニ・ウェスタンの世界を共に作り上げた。モリコーネは従来のオーケストラ中心の映画音楽から離れ、口笛、電気ギター、鞭の音、銃声、人間の叫び声などを大胆に取り入れた。これによって荒野の孤独や暴力性が強調され、音楽が映画の登場人物のように機能するようになった。彼は音楽を撮影前に作曲することも多く、俳優や監督がその音楽を聞きながら演技や演出を組み立てるという独特の制作方法も紹介されている。
4.実験精神と前衛音楽
モリコーネは商業映画で成功しながらも、同時に極めて実験的な音楽活動を続けていた。本書では、ジョン・ケージや前衛芸術の影響についても語られ、偶然性やノイズ、反復の美学が彼の映画音楽にも深く浸透していることが明かされる。彼は美しい旋律を書くことだけを目的にせず、観客が不安や違和感を感じる音響構造を意図的に作り出していた。そのため彼の音楽には、単なる感動を超えた心理的緊張感が宿っている。
5.映画と音楽の倫理
本書では映画産業への批判的視点も語られている。モリコーネは、商業主義によって音楽が消費されることに強い警戒心を抱いていた。彼はヒット曲を量産することよりも、作品に誠実であることを重視し、音楽は映画に奉仕するのではなく、映画と共に真実を作るべきだと考えていた。また彼は、映画音楽家が過小評価される状況にも触れ、クラシック作曲家と同等の芸術的創造性が映画音楽にも存在すると主張している。
6.晩年と芸術観
晩年の章では、アカデミー賞受賞や世界的名声について語られながらも、モリコーネ自身は成功より音を探し続ける行為こそが芸術家の本質だと述べている。彼にとって作曲とは、完成へ向かう行為ではなく、永遠に到達できない理想の響きを追い求める旅だった。
本書が言いたかったこと
映画音楽とは単なる娯楽的装飾ではなく、人間の記憶や感情、時間感覚に直接触れる高度な芸術である。モリコーネは、芸術性と大衆性は対立するものではなく、本当に優れた作品は両者を同時に実現できると考えていた。音楽家は、既成の様式を反復する職人ではなく、まだ存在しない音を探し続ける探究者でなければならない。本書は、映画音楽論であると同時に、一人の芸術家が生涯をかけて音とは何かを問い続けた精神の記録でもある。
モリコーネが手掛けた有名な映画音楽
1.続・夕陽のガンマンのテーマ
2.荒野の用心棒のテーマ
3.夕陽のガンマンのテーマ
4.ウエスタン(メインテーマ)
5.デボラのテーマ
6.ガブリエルのオーボエ
7.愛のテーマ(ニュー・シネマ・パラダイス)
8.アンタッチャブルのテーマ
9.天国の日々のテーマ
10.マレーナのテーマ
11.プロフェッショナルのテーマ
12.ラ・カージュ・オ・フォールのテーマ
13.シシリアンのテーマ
14.殺人捜査のテーマ
15.1900年のテーマ
16.ヘイトフル・エイトのテーマ
17.勝利への賛歌(ヒアズ・トゥ・ユー)
