Collectors From Prehistory to the Present
2002年刊
Philipp Blom著
フィリップ・ブロムの経歴
フィリップ・ブロムは1970年ドイツ生まれの歴史家、作家、ジャーナリストであり、ヨーロッパ思想史、文化史、芸術史を横断する著作で知られている。特に18世紀ヨーロッパの知識人文化や蒐集文化への造詣が深く、啓蒙時代に関する研究でも高い評価を受けている。本書では、単なる趣味としてのコレクションではなく、人類はなぜ物を集めるのかという根源的な問題を、古代から現代までの文明史を通じて考察している
本書の内容
1.蒐集という人類の本能
本書はまず、集めるという行為が人類史とともに存在してきたことを示すところから始まる。人類は先史時代から、単なる実用品以上の意味を持つ物を保存してきた。珍しい石、貝殻、動物の骨、宗教的遺物などは、単なる所有物ではなく、記憶、権力、信仰、象徴として扱われた。ブロムは、蒐集とは単なる欲望ではなく、世界を理解し秩序化したいという人間の根源的衝動であると論じる。人は、無数に存在する世界の断片を集め、分類し、並べることで、自分自身の世界観を形成してきた。この視点によって、本書はコレクションを贅沢な趣味としてではなく、人類文明の構造として描き出していく。
2.ルネサンスと驚異の部屋
本書の中核をなすのが、ルネサンス期から近代初期ヨーロッパにかけて成立した驚異の部屋の分析である。王侯貴族や知識人たちは、世界中から珍奇な物品を集め始めた。化石、剥製、異国の工芸品、科学器具、絵画、宗教遺物などが混在し、一つの部屋に宇宙全体を再現しようと試みられた。そこでは自然科学と魔術、美術と科学、宗教と幻想がまだ分離していなかった。コレクションは、世界を縮小して所有する試みであり、同時に知識への欲望の表現でもあった。ブロムは、こうした驚異の部屋が後の博物館や美術館の原型になったことを指摘する。近代とは、世界を分類する時代でもあった。
3.蒐集家たちの心理
本書では、歴史上の著名なコレクターたちの人物像も数多く描かれる。ある者は知識欲によって集め、ある者は権力誇示のために集め、またある者は不安や欠落感を埋めるために蒐集へ没入した。コレクションにはしばしば執着や狂気すら伴う。蒐集家たちは単に物を所有しているのではなく、自分自身の世界を構築している。コレクションとは、人格や思想の外部化である。特に近代以降になると、蒐集は社会的地位や文化資本とも結びついていく。富裕層は芸術品を所有することで、自らの教養や権威を可視化するようになる。しかしその一方で、本書はコレクションの危うさも描いている。蒐集は終わりのない欲望であり、完全な収集は決して達成されない。だからこそコレクターは永遠に次の対象を求め続ける。
4.美術市場と近代コレクター
19世紀から20世紀にかけて、美術市場は巨大化し、コレクターの役割も変化していく。以前の蒐集は王侯貴族や学者階級のものだったが、資本主義の発展によって新興富裕層が登場し、美術収集が投資や社会的競争の一部となった。この過程で、美術館制度やオークション市場も発展する。個人コレクションはやがて公共美術館へ移行し、個人の欲望が公共文化へ転化していく。ブロムは、この歴史を単なる文化史としてではなく、所有とは何かという哲学的問題として描いている。人は本当に物を所有しているのか、それとも物によって所有されているのかという問いが、本書全体を通じて静かに浮かび上がってくる。
本書が言いたかったこと
蒐集とは単なる趣味ではなく、人間が世界を理解しようとする営みである。人は世界の無限の複雑さに直面すると、それを整理し、分類し、自分の手の届く形にしようとする。その行為が蒐集であり、博物館であり、美術館であり、文明を形成してきた。しかし同時に、本書は蒐集の危うさも描いている。人は物を所有しようとするが、その欲望には終わりがない。コレクションは知識への情熱であると同時に、不安や権力欲、永遠性への希求とも結びついている。本書は、人はなぜ物を集めるのかという問いを通じて、人間の本質を描き出している。
